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神代の魔導具士 豊穣の女神  作者: 黒猫ミー助
ソルガ原書
132/287

◆4-33-1 クララベル対デミトリクス1

フローレンス視点




 マリアベルは諦めの溜息を吐いた後、生徒達を誘導し剣技場から二人を残して皆を退避させた。

 広い場内にはクララベルとデミトリクスのみが残った。


 「分かってるわね!?絶対に怪我させちゃ駄目よ!」

 「大丈夫だって!私の技量は知ってるでしょ。ねぇちゃん」

 「アンタの性格を知ってるから心配なのよ!」


 マリアベルの忠告に対して、クララベルは余裕の笑みで応えた。

 それに対して、デミトリクスもクラウディアも何も言わないで、お互いに目を合わせていた。



 ちょっ!…ちょっと…誰も止めないの?危なくありません?

 そうだ!ヴァネッサ様は!?


 「ヴァネッサ様!この試合止めさせましょう!デミトリクス様が危険ですわ!」

 「えっ?試合?デミが戦うの!?」


 何を言ってやがりますか?コイツは!

 見て分からないの!?…あ、見えないのでした…。

 今迄普通に行動しているので、見えない事を失念していました。


 「クララベル様とデミトリクス様の試合ですけれど、クララベル様の武器が危険過ぎます!」

 理解していないらしいヴァネッサに、私は急いで説明した。


 「さっきから、周りが見え辛くて…声も聴き取り辛いのよ。

 頭がクラクラするし…、熱っぽいかも。

 ああ…凄く大きい武器だね…クラウディアは何か言ってた?」


 …それも聞いてなかったのですか!?


 「止めようとも致しませんの!危険ですわ!」

 「クラウディアが止めないなら大丈夫だよ、きっと。何か考えがあるんだよ」


 …なんですか!クラウディア様が何も言わないから、私が必死に止めようとしているのに!!考えって何よ!?

 駄目だわ、この人!

 きっと、デミトリクス様を愛していらっしゃらないのね!

 見損ないましたわ!


 私は、ヴァネッサの直ぐ隣にいたマリアンヌに声を掛けた。


 「マリアンヌ様!一緒に抗議して試合を止めさせましょう!」

 「フローレンス様?…デミトリクス様なら、きっと大丈夫ですわ」


 …こいつもか!

 何?このデミトリクス様神格化は?

 たしかに!万能の美少年ですけれど。

 学業も、魔道銃の扱いも、茶会の礼儀作法も、美しさも完璧ですけれど!

 その綺麗な(かんばせ)に傷でもついたらどうするのですか!!


 「確かに、完璧なデミトリクス様なら負けませんけれど!

 万が一、美しいお顔に傷でもついたら大事ではありませんか!」


 「デミトリクス様は剣技も素晴らしいと聞いてますよ?

 だから大丈夫。多分負けません!

 フローレンス様も一緒に応援致しましょう!」


 剣技も得意なのですか?知りませんでしたわ。

 やはり完璧美少年…!

 もしかして、皆知ってるから止めませんの?


 私は周囲の様子を見回した。


 マクスウェル様は眉間にシワを寄せて、何か考え込んでいる様です。そうですよね?やはり、心配ですよね。

 イルルカ様も心配そうな顔をして、ソワソワと落ち着かない様子。

 レータはクラウディア様と、何かお話をしています。

 あの子はあの子で、試合を止めようと努力してくれている様子です。


 でも、普段からデミトリクス様をやっかんでいる男子生徒達はニヤニヤしています。

 彼が女生徒から女教師までの人気を独り占めしてるからって、なんてみっともない!

 だから貴方達はもてないのです!


 女子生徒達の反応は半々というところですか…。

 勝つ事を信じて疑わない娘達は、普段からデミトリクス様に心酔している生徒達。本当に神格化してますのね…。


 いつも、デミトリクス様にヴァネッサ様を奪われた、とか、意味の解らない事を言っている娘達は、心配そうな顔をしています…。

 変な趣味だと思っていた娘達が、この中では一番まともに見えますわ。


 対して、シエンティアの生徒達は、哀れむ様な目でデミトリクス様を見ています。

 蔑む様な目でも、見下す様な目でも、嘲笑う様な目でもありません。

 ただ、可哀想な屠殺場の動物を見る様な目で、デミトリクス様を見ています。


 …あちらの学校の生徒達も、彼女を恐れている?

 彼女が負けるなんて事は、微塵も考えていない様子ですね。


 「自ら武器を手放す、気絶するなどで続行不可能となる、降参宣言をする、以上が試合中止の合図となります」

 剣技場にマリアベルの声が響く。


 「クララベル!決してやり過ぎ無い様に!!!

 …デミトリクス様、準備は宜しいですか?」

 心配そうに確認するマリアベル。


 「うん…いいよ。いつでも」

 デミトリクスはいつもと同じ様に、淡々と応えた。


 …ああ!始まってしまいました!

 止められませんでした…。




◆◆◆



 ツヴァイヘッダーは持ち手の長い両手持ちの剣。


 支える手で柄の上部を持ち、もう片方の手で柄の下部か十字に左右に伸びる棒状の(つば)部分を握って振り回す使い方をする。


 刃引きされているのか、元々鈍器として使用する為なのか、何かを切る物では無い作りになっている。

 しかし、クララベルの身長程の長さの剣は、切れなくても遠心力が強力な凶器になる。普通の剣で受ければ剣が折れるだろう。

 重量もかなりの物の筈だが、彼女は両手でとはいえ、それを軽々と持ち上げていた。


 クララベルはゆっくりと歩きながら、長い刀身を身体の後ろに隠す様に剣を引いた。

 彼女は右手で剣の柄を支え、左手を剣の(つば)から横にのびる持ち手に添えた。


 ブオン!


 間合いに入った途端に、風を切る様な轟音と共に、剣を()いだ。

 両手で、身体ごと引っ張られる様な勢いで振り抜いた。


 「ひっ!」

 その勢いに吃驚(びっくり)して、見物人達から声が漏れた。

 ニヤニヤと見ていた男子生徒達も、今になって青い顔になった。


 …な…なんで?剣を振っただけで、ここ迄風が届くのですか?

 風を切る音も、普通の剣ではあり得ない音が出てますわ!

 どんな怪力なのよ!?


 デミトリクスは表情を全く変えずに、数歩下がる事で剣の切っ先を悠然と躱す。

 クララベルは大きく横に逸れた刀身を、腕の力だけで引き戻した。


 ブオン!


 今度は、大きく逆方向に大剣が流れる。

 デミトリクスは、再び数歩下がって避けた。


 「どうしたの?来ないの?手を抜いてあげてる間に入って来なよ。

 ほら!遠慮せずに!私の胸に飛び込んで来て!」

 クララベルが口汚く挑発した。


 …何言ってるの!

 あんな距離じゃ届くわけないわ!

 入ったら死んじゃうじゃない!


 クララベルの挑発にも全く反応せずに、デミトリクスは淡々と丁寧に攻撃を避け続けた。

 クララベルが左右に大剣を薙ぎながら、ゆっくりと歩く。

 それをデミトリクスがゆっくりと避ける。

 二人はゆっくりと同じ動作を繰り返しながら、大きく円を描く様に移動した。


 「ねぇー!来ないの?飽きてきたんだけれど?

 それとも、私みたいな男女は嫌い?嫌われちゃった?キャハハ!」


 …相変わらず、巫山戯(ふざけ)た事を…下品で見るのも嫌ですわ!

 …でもデミトリクス様から目を逸らす訳にはいきませんわ!

 出来るだけ、あの下品女を目に入れない様に応援しましょう!


 「怖い?怖い?降参するなら早くしてねー!」


 しかし、デミトリクス様は冷静ですわね…。身体の動きに怯えや震えがありませんね。怖くないのかしら?私なんて、見ているだけで腰が抜けそうなのに…。


 デミトリクス様は、相手が疲れるのを狙っているのかしら?

 そうよね!あんな重そうな剣を振り回しながら歩くなんて、大の大人でも普通は疲れて倒れますわ。

 もし、このまま相手が疲れるまで繰り返せば…

 あれだけの大剣ですもの、女性の体力では保たないでしょう!


 「てっきり、セタンタみたいに面白い奴かと思ったのに〜。

 ぶーぶー…ツマンナ〜イ……なっ!」


 クララベルはそう言いながら、いきなり動きを速めた。

 いつもの2歩の距離を1歩でつめて、デミトリクスに飛び掛かった。

 更に、大剣を振る速度も速い。


 ゴォン!


 今迄の風を切る音ではなく、剣を空気の壁に叩き付ける様な音が出た。

 いきなりの速度変化に驚いて、見物人達は息を呑んだ。

 サンクタム・レリジオの生徒達だけでなく、シエンティアの生徒達からも悲鳴が漏れる。

 女生徒達など両手で目を覆って、顔を伏せている。



 「デミトリクス様!!」

 私は手をギュッと握りしめて、思わず叫んだ。




 

意外と長くなったので分割

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