表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神代の魔導具士 豊穣の女神  作者: 黒猫ミー助
ソルガ原書
131/287

◆4-32 イメディング姉妹

フローレンス視点




 クラウディア様やルナメリア様と同じ席です。

 怖…苦手なジェシカさんは学校交流会に来ない様ですし、少しは落ち着けます。


 ルナメリア様とは面識があまり無いので緊張しますけれど、彼女自身もクラウディア様以外とは接する気は無いようですね。

 お陰で、私も気負わずに相対する事が出来ますし、まぁまぁ悪くはないですわ。

 ただ、デミトリクス様とは離れてしまいましたのは残念です。

 …全く、あの禿頭(とくとう)の御方も少しは気を利かせて、好きな者同士の相席にするとかしてくれれば良かったのに…。気が利かないですわね。



 私達の座る円卓の向かい側で立ち上がった女生徒、神学校シエンティア・パラディスの生徒代表のマリアベル=フェレマ=イメディングが挨拶をした。


 彼女が促すと、すぐ隣に座っていた顔立ちのそっくりな女生徒が気怠(けだる)そうに立ち上がった。

 髪の色も目の色もマリアベルにそっくりな漆黒。

 波打つ髪質も同じ様だったが、髪の長さは女性には珍しく、ヴァネッサみたいに短く切り揃えられていた。


 「…妹のクララベル=フェレマ=イメディングよ……宜しく」

 その女生徒は、酷くぶっきらぼうに挨拶した。


 …フェレマ、フェレマ…そんな浸礼名ありましたっけ?

 神様の名前って、覚えにくくて困りますわ。

 しかし、ウェーブのかかった漆黒の髪に漆黒の瞳とは珍しいですわね。クラウディア様みたいな綺麗な黒髪…羨ましいです。


 姉のマリアベルは妹の様子に溜息をつきながら、これからの事について話し始めた。

 「…私達姉妹が施設の案内と各班長の取り纏めを致します。

 班内で解決出来ない問題等が起きましたら、私達をお呼び下さいませ」


 マリアベルが号令を掛けると、其々の円卓から一人づつ班長役の生徒が立ち上がって、自己紹介を始めた。


 各班長を見る振りをしつつ、自然な雰囲気を醸し出しながらデミトリクスに目を向ける。



 デミトリクス様とは別の席になってしまいましたが、デミトリクス様とヴァネッサ様が離れた席になったのは僥倖です。

 お互いイーブンの状態に見えますわね。一見。


 しかしこちらは、お姉様であるクラウディア様と同席。

 将を射んと欲すれば先ず馬を射よ…ですわ。


 幸い、私がデミトリクス様に抱き着いた時も、クラウディア様は否定も拒否もしておりませんでした。

 必ずしもヴァネッサ様を認めた訳では無いようですわ。

 なら、第一夫人の席は空く可能性がある…という事ですわね。


 でも、どの様にしたら親密な関係になれるのでしょう…?

 クラウディア様の事は、あまり存じ上げないのですよね…。


 料理人顔負けの手つきで魚を捌いたり、食材をご自分で調達したり、妖精を脅したり…。考え方から行動まで常識的な貴族とは違い過ぎます。


 好きな物…そうそう、魔導具の話しには興味があった様に感じられました。姉弟揃って魔導具好きなのでしょうか?

 魔導具士を目指している可能性もありますわね。


 そういえば、魔導具士カーティ教授の授業も選択しているらしい…と聞いたことがあった様な…?レータの情報でしたか?

 魔導具士を目指す人が選択する科目を取得すれば、お近付きになれるかしら…?


 「……ンス様、フローレンス様!」


 えっ!?


 名前を呼ばれて振り返る。

 リヘザレータが私を見ていた。


 「自己紹介です。フローレンス様の番ですわ」


 …考え事に没頭し過ぎてしまいましたわね…。

 既にルナメリア様とクラウディア様の紹介は終わってましたか。家格から言って私の番ですね。


 私は徐ろに立ち上がり、高位貴族の立場に恥じない様な挨拶をした。


 マリアベル様はニコニコと表情を造り、私を見つめていますが、クララベル様は関心が無いようです。欠伸(あくび)をしながら窓の外を眺めています。


 親王国派である私の事は知られているのでしょうね。

 敵意や悪意は感じませんが、好意も勿論無いようです。


 無感情。

 どうでもいい相手、と思っているのかしらね。

 帝国人に見下されるのは…腹が立ちます。

 しかしまぁ…お互い様ですか。


 自己紹介を終えると、其々の学校の様子等をネタに軽いお喋りが始まった。其々の席の班長の子達が会話を振る。

 しかしまだ、ギクシャクとした空気が茶会室に流れていて会話が続かない。


 マリアベル様は誰に対しても、相変わらずニコニコとした当たり障りの無い表情。

 国籍、身分、人種まで区別しないのですね。驚きます。


 クララベル様は誰に対しても、相変わらず無関心。

 こちらは別の意味で驚いたのですが、自分達のクラスメイト達に対しても距離を空けている様です。


 王国人であるクラウディア様や私に対する態度は解ります。

 でも、聖教国の、明らかに幼い天才侯爵令嬢に対してまで、態度を変えないのですね…。

 帝国人なら、ルナメリア様に対してはゴマをすると思ってましたのに。

 意外な反応。差異をつけない様に気を付けているのかしら?


 「少しは同席の方の事が分かりましたでしょうか?

 まずは、礼儀作法の授業を兼ねたお茶会となります」

 

 マリアベルが合図すると、壁際に居た帝国側貴族の側仕え達が一斉に動き出した。

 そして、全ての席にお茶とお菓子が用意された。


 注がれたお茶のカップを各自で適当に取り、お菓子の乗ったハイティースタンドから、各々が好きな物を選ぶ。

 そして、最後に残った1つをマリアベルが取る。


 準備が整うと、作法に則ってマリアベルが一口食べて見せて、毒のないことをアピールした。

 各テーブルの班長も同じ様にして、毒の有無を確認した後に、お茶会が始まった。


 …集団茶会での礼儀作法は帝国人も変わらないのですね。当然ですけれど。


 少し心配だったのは、野性的…いえ…少し逞しいクラウディア様は大丈夫かしら?と思って、横目で作法を見てましたが…、完璧でしたね。


 普段の行動が突飛過ぎて、まともな貴族作法が出来るのかしらと心配してましたけれど、杞憂でしたか。

 腐っても高位貴族なのですね。あら…失言です。

 …となると、デミトリクス様も…?


 私はデミトリクスの様子を、おまけのついでに、ヴァネッサの様子も確認した。


 …デミトリクス様…お美しい…。完璧ですわ…

 すぐ、お隣で拝見出来たら良かったのに…残念。

 下手な護衛騎士達よりお強く、そこら辺の貴族より優雅。

 いつも何処か遠くを見つめている物憂げな美少年…。

 完璧過ぎます…。…私のモノにしたいですわ…!


 …ヴァネッサ様……ちっ……!完璧ですか…

 何か、荒を探せたら良かったのに…残念。

 目が見えない筈なのに、動作に一切の惑いがありません。

 男装していれば女性を惑わす妖艶さ。

 これで女で無ければ完璧だったのに…。


 …ん…?私は一体何を考えていたのでしょう…?



 「気になりますか?」

 突然話し掛けられたのでびっくりして振り返った。

 マリアベルがこちらを見てニコニコしていた。


 「この後は、全班合同での外授業となります。

 班毎に分かれますが、気になる方がいらっしゃいましたら、他の班に混じって頂いても構いません」

 「お気遣いありがとう存じます」


 …あら、杓子定規ではなく柔軟な方ですのね。

 好感が持てますわ。


 その後のお茶会は無難な話題に終始した。

 好きな物や好きな事。

 好きな授業や苦手な授業。

 尊敬する神様の話題に尊敬する王族の話題など…。

 ほとんど自己紹介の延長ですね。

 まだ、お互いを知りませんし、仕方ありません。


 …そういえば、リオネリウス様がどこにも居ませんわね。学校交流会の主催者の筈ですが…。

 後日行われる予定のパーティ準備で忙しいのでしょうか?

 リオネリウス様がデミトリクス様に絡むとヴァネッサ様が嫌がるので、私は嬉しいのですけれど…。


 …あら、コルヌアルヴァのヘレナ様も居ませんのね。気付きませんでした。そもそも、参加していましたっけ?

 ほとんどの帝国派閥貴族は参加表明していた筈ですけれど…

 ホテルでもお会いした覚えがありませんわね…?はて…?


 …まぁ、帝国貴族の事なんて、どうでも良いのですけれど。




◆◆◆




 茶会の後は皆で着替えをし、一階出入口前に集合した。

 その後、マリアベルのクラスの生徒達が先導して、私達を運動場に案内してくれた。


 …機械や道具類は、なかなか良い物が揃ってますわね…

 品質はサンクタム・レリジオに劣らない様ですわ。

 悔しいけれど…


 「こちらが剣槍術の広場です。奥に見えるのが馬場。建物の裏手に弓道場と砲術訓練所がございます。

 …デミトリクス様はどちらを選ばれますか?」


 「何故デミちゃん?」

 クラウディアが思わず口にした。


 「デミトリクス様が選ばれた場所に人が集中するような気がしましたの。

 人数の振り分けに困らない様に、予め何処に行くかを聞いておいた方が良いかと思いまして」


 …確かに…見る目あるわね。

 まさか…マリアベル様までデミトリクス様を狙ってませんわよね…?


 「…デミちゃん、また馬術を受けてきたら?…ヴァネッサと一緒に…」

 「公開処刑はもう止めて…」

 …ヴァネッサ様が顔を真っ赤にして叫びました。

 私も見たくありませんから、冗談でも止めて欲しいです。


 「色男のデミトリクス様〜でしたっけ?私とお付き合い願えません?剣で…ですけれど」

 今迄黙っていたクララベルがニヤニヤしながら口を開いた。


 「こら!クララ。失礼ですよ!」

 「良いじゃない。モテモテの王国貴族の強さを見てみたいのよ」


 何コイツ?露骨に喧嘩を売ってきましたわ。

 でもまぁ…デミトリクス様の剣技…少し興味ありますわね…


 デミトリクスがクラウディアを見ると、クラウディアは軽く頷いた。


 「良いよ。武器はどこ…?」

 「おっ!良いねぇ…そこに仕舞ってある奴から好きなの選びなよ。私は自前のモノを使わせてもらうよ」

 そう言って、後ろに置いてあった大きな長持の様な箱の中から、かなり大きな両手剣を持ち出した。


 …な、な、なんですの?あんなの卑怯ですわ!


 何?あの巨大な剣は?

 刀身も長いけれど持ち手も長い!

 身長くらいある両手剣なんて、重すぎて持てないでしょう?

 なんで持ち上げられるのですか!?

 あの細腕で、化け物ですか!?

 そもそも剣術の授業なら木刀で行うものではないのですか!?危険ではありませんか!


 「ツヴァイヘッダーっていう武器だ。

 もし、箱の中の武器だと不足なら、槍とか好きな物持ち出しても構わないよ?

 この剣だと、槍の穂先ごと叩き壊しちゃうけどね」


 「…じゃぁ…僕はこれとこれを…」

 デミトリクスはクララベルの武器を見ながら、箱の中から剣を二本選んだ。


 デミトリクス様も、何故平気な顔で武器を選べるのですか!?

 選んだ物はレイピアと小刀…?

 クララベル様の大剣とは届く範囲が違い過ぎますし、細過ぎます。無茶ですわ!


 クララベルも同じ事を思ったのか、キョトンとした顔をしてから笑い出した。

 マリアベルは困った顔をしてクララベルを止めようとしている。

 クララベルはひとしきり笑った後に、真面目な顔になりデミトリクスを睨みつけた。


 「そんな小物で?良い度胸だ、色男…さあ!やろうか!」

 そう言って、彼女はツヴァイヘッダーを正眼に構えた。



 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ