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神代の魔導具士 豊穣の女神  作者: 黒猫ミー助
ソルガ原書
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◆4-31 学校交流会

第三者視点




 皆は、『知識の泉』で高価な本をそれぞれ購入して、家数棟分の価値の本を大事そうに抱えながら帰った。

 ホテルに戻って食事をしていると、ルーナが今日買った本について話し出した。


 「それで、それで、手から糸を出して空中を飛び回る魔人が、悪い人達を倒していくお話なのですよ。多分…。

 やられている人達の顔が悪かったから、多分悪人なのでしょう。

 絵の中に書かれている言葉は古代語でしょうか…?なので、詳しい内容は分からなかったのですけれど…。

 一つ一つの絵が、今にも動き出そうとしている様に見えて、とても斬新な美術本でした。

 塗られていた色絵の具は、修復士が足したのだと思いますが、とても丁寧に直されていたのでしょうね。とても綺麗な色でした。

 これまで見た絵画や、教会のステンドグラス、聖書の挿絵とは全く違っていました。

 美しい物、心が落ち着く物が、『美術』だと思っていましたが…、あの様に心がざわめく『美術』もあるのですね。

 初めての体験でしたわ。あの本を購入して正解でした!」


 ルーナがとても興奮していた。


 食事をしながら興奮して話してはいるが、優雅さや上品さは変わらない。育ちの良さの表れだろうか。

 楽しそうに話す彼女を見て、皆はニコニコしていた。

 他人の多い場所では必要な事以外はあまり話さないルーナにしては、とても珍しい光景だった。

 周囲の席の人々に対する彼女の緊張感も、和らいでいた。

 ルーナを見守るサリーも相好(そうごう)を崩していた。


 「古代文書って内容も分からない話ばかりかと思っていたけれど、絵で表現してくれるのはわかり易くて良いよね。

 僕も欲しかったけど、…流石に兌換紙幣5枚は…イリアス様に申し訳無いし無理だよなぁ…」

 「うちも…金貨2〜3枚の図録程度なら買えたけれど、持って来たお金をそんなに使えない…。

 またカニス家みたいな奴等にやられない様に貯金してないと怖いし…」

 男共が揃って溜息をついた。


 「読みたいのでしたら、本をお貸ししますわ」


 「えっ?いいの?」

 「やった…!」

 「わ…私も拝見させて頂いても…」


 「お嬢様の本ですから、丁寧に扱わない場合は命をもって清算して頂きます。宜しいですね?」

 サリーが太い釘を刺す。

 3人は青い顔で、首を何度も縦に振った。


 「ジェシカ様の本はどうでしたか?表装がとても美しい本でしたが」

 マリアンヌが、ふと、食事の手を止めて尋ねた。


 「私?あ〜…ベッドに放り出したままで、まだ開封してないや…」

 「金貨10枚分を、そんなに雑に扱うなんて…」

 頭を抱えるマリアンヌ。


 「私の事より、そこの姉弟よ。

 あの意味の解らない本に、あれだけ出すなんて…そっちの方が驚きじゃない?私の買った図鑑は役に立つ本よ」

 ジェシカは持っていたカトラリーでデミトリクスを指し示した。


 「ちょっと…カトラリーをデミに向けないで。下品よ。

 デミが好きな本なんだから、意味が分からなくても当然価値のある物よ」

 ヴァネッサが自信あり気に応える。


 「どんな内容なのかは聞いたの?」

 ジェシカの質問に、ヴァネッサは顔を背けた。

 「…相手がデミトリクスでなければ、全力で止めてたわ…」


 「デミちゃん、あの本は役に立ちそう?」

 クラウディアがデミトリクスに尋ねる。


 「…うん。あれは、とても良い本だったよ…。

 ヴァネッサ、ありがとう」

 ヴァネッサは頬を赤らめて目を潤ませた。


 『チョロい…』

 皆の考えが揃った瞬間だった。



 ルーナは食事を終えてカトラリーを置くと、徐ろにクラウディアを見て尋ねた。


 「それで結局、クラウの買った本は何だったの?」

 「…そうそう、私も気になってた。

 意味の解らない古代語に、変な模様の入った同じ図形が並んでいるだけの本…。もう一冊なんか言語も無かったし。

 …美術品なの?私には落書きにしか見えなかったけれど。

 それを即決で。しかも、まだ未修復品なのに」

 ジェシカも話に入ってきて、見た内容を皆に説明した。


 「…そうね、あれはガラクタよ。

 美術品としては、前衛的で面白い作品…とも言えるわね。

 今は、まだ…ね」

 クラウディアの妙な言い方に、皆は首を傾げた。


 「まだ…?」

 「まだ足りない。あの店にあの本を売った奴が判れば…」

 そう言って、クラウディアは黙ってしまった。




◆◆◆




 「じゃあ!私は叔父様に会ってくるから〜!皆様、お勉強頑張って下さいませ!」

 珍しく綺麗におめかししたジェシカが、満面の笑顔で手を振りながら、オマリーと一緒にホテルのロビーを出ていった。


 「あの娘…学校交流の授業体験の日程全て、外泊許可取っていったわ…」

 「勉強、嫌いだからね…」

 「ジェシカは頭良いのに、勿体無いね」

 クラウディア達が呆れた顔をしながら彼女を見送った。


 「ジェシカ様は交流会に出席なさらないの?」

 扉の陰からフローレンス達がひょっこりと顔を出した。


 「うわっ…出た」

 「失礼ですわね。人を魔物みたいに…」

 「デミの横は渡さないよ!」

 「大丈夫ですわ。反対側は空いてますもの」


 そう言ってフローレンスは、ヴァネッサの掴んでいる手とは反対側のデミトリクスの腕に絡みつく。

 「離れなさい!デミが嫌がってるじゃないの!」

 「ふっ…嫌がって無いではありませんか」

 フローレンスは鼻で笑った。

 二人の中央で両腕を引っ張られているデミトリクスは、意味が分かっていないらしく、首を傾げて考え込んでいた。


 「クラウ!助けて!」

 「二人の美少女に引っ張り凧のデミちゃん…可愛いわぁ…」

 クラウディアは、3人の様子を嬉しそうに眺めている。


 「ルーナ!助けて!」

 「サリー、学校交流会の出発はいつ?」

 「次の鐘で馬車が参ります。準備を急ぎましょう」

 ルーナとサリーは露骨に無視した。


 「マリアンヌ!助けて!」

 「…」

 マリアンヌ達3人は、既に逃げ出していた。


 「誰か〜!」

 ヴァネッサは泣きながら助けを呼んだ。

 …しかし、誰も来なかった。


 「ほほほ…ざまぁないですわね」

 「ぐぬぬ…!」

 「フローレンス様、遊んでないで下さいませ。

 そろそろ出発の準備を致しませんと…」

 リヘザレータが助け船を出した。

 「ちっ…」

 フローレンスは令嬢とは思えない舌打ちをして、掴んでいた手を離した。


 「次は学校に行った後にしてあげますわ」

 フローレンス達は踵を返し、準備の為に部屋へ戻った。


 「ベー…っだ!」

 ヴァネッサも令嬢とは思えない舌出しをして、デミトリクスを引きずって、その場を後にした。


 「ああ…面白かったのに…」

 クラウディアも二人の後を追って、ロビーから出て行った。


 「…聖教国の貴族って変わってますのね…」

 誤った認識がホテル中に拡がるのに、大して時間は掛からなかった。




◆◆◆




 帝国の神学校『シエンティア・パラディス』での交流会が始まった。

 初日はお茶会と、軽く外で身体を動かす程度の授業だけだった。歓迎と親睦を深めようという意図だ。


 神学校を選んだのは、聖教国からの生徒を問題無く受け入れるのに丁度良かったから。


 「…と、ほんの数日ですが、合同で授業を行います。

 この期間、板書等は致しません。

 できる限り、討論や交流で親睦を深めて下さい。

 食堂や茶会室は自由にご使用下さい。

 茶や菓子が必要な時は、壁のベルを押して使用人をお呼び下さい。

 ご自分の使用人達に地階の台所を使用させたい時や、食事を持ち込みたい時は、事前通達をお願いします。

 それと、特別教室や遊戯施設の使用に関しては、必ず事前許可を申請して下さい。馬場の使用も同様です。…そして…」


 頭の薄くなった男性教諭が学校と施設の説明を簡潔に済ませていく。


 クラウディア達は、学校の広い茶会室でシエンティアの生徒達と対面した。


 施設の使用法や注意事項説明をした後、聖教国生徒達の紹介をしていた男性教諭は、聖教国の生徒達の座る席を指示していき、適当に振り分けた。


 クラウディアはフローレンスやルーナ達と同じ席になったが、デミトリクスやヴァネッサ達とは離れてしまった。

 ルーナは、ジェシカが居ない為にクラウディアだけにピタリとくっつき離れない。

 授業中なので、側仕え達は教室の壁際で整列していた。サリーもその中に混じっていた。


 「聖教国のお客様のお相手は、当校代表の生徒が引き継ぎます。マリアベル様…」

 男性教諭がそう言うと、一人の女性が立ち上がった。


 「皆様、私達は隣の教室に居りますので、何か問題が発生しない限り、そっとしておいて下さいませ。疲れてるので…」

 引率教師のアデリン=メロウビットは、とても教師とは思えないセリフを残して、頭の寂しい男性教諭と共に部屋を出た。


 「…貴女の従姉妹…変わってるわね…」

 クラウディアがフローレンスに耳打ちをする。

 「昔から無気力だったけれど…近頃ますます酷くなってる気がするわ…。

 あんなのでもサンクタム・レリジオの教師やれてるのだから…才能はあるのよ…多分…」

 そう言って眉をしかめた。



 「初めまして、皆様。

 私は当校代表のマリアベル=フェレマ=イメディングと申します。

 交流会中は、私が教師の代わりにお相手を致します」

 そう言って、ウェーブのかかった長く美しい黒髪の、大人びた女生徒が挨拶をした。




 

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