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神代の魔導具士 豊穣の女神  作者: 黒猫ミー助
第一章 女神に捧ぐ祭り
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◆1-12 暴風少女

三人称視点





 エレノア司教達が教会を不在にしている間の事。

 教会女性棟の3階、貴族子女専用の部屋の中で、暴風が起きていた。


 「まだ帰ってこないの…?」


 暴走しかけている魔力のせいで、漏れ出た膨大な魔素が強い風の波形魔術となって部屋中を飛び交っていた。

 針金入りの窓硝子や頑丈な扉が激しく震え、今にも吹き飛びそうになっている。


 「いけない…落ち着かなきゃ」


 部屋の主、金髪青眼、齢9つのこの少女は、大人の拳大の魔石をギュッと握って、溢れる出る魔力の風を鎮めた。魔力がいっぱいに溜まった魔石は、これで10個目になる。



 魔力を放ち、今にも部屋を破壊しそうな、この少女は、

 ルナメリア=クストゥス=キベレ 通称ルーナ

 聖教国選帝侯の一人、キベレ侯爵の娘だ。


 この少女は『感情を抑えるのが難しい多動性障害』を持っているギフテッドだ。


 『一人』で、『我慢』する。この事が、この少女にはとても難しい。


 クラウディアやジェシカ、パック等、信頼する人(妖精)が周りにいる時は彼女も落ち着ける。

 しかし、既に6日も帰って来ない。仕事だと理解していても、危険な仕事だとも理解しているので、帰りが遅いと不安になる。



 部屋の様子が落ち着くと、コンコン…と、部屋の扉が叩かれる。

 ルーナがそっと扉を開けると、扉の外に夕食を持った侍女が立っていた。



 本来、貴族の子でも側仕えを連れて教会には入れない。ただ、それだと着替えすら自分で出来ない貴族の子女では生活が出来ない。その為、13歳以上の女性の中から『姉役』を募集する。


 姉役は横暴で我儘な貴族の子女にあたる事もあるが、教会の他の仕事は免除され、教会からの手当と貴族家からの手当が支給されるので、成人後、教会を出るつもりの修道女達には人気のある仕事だった。

 また、姉役を任され、妹役の貴族子女に気に入られた者は、貴族子女の成人後、侍女として雇われる事もあった。

 それは、平民の孤児にとっては夢のような出世だった。


 その為、ルーナにも当然の事ながら、姉役の募集があったのだが…



 ルーナには、『感情を抑えるのが苦手』なだけでなく、『極度の人見知り』と言うのもあり、気を許した相手以外には近寄ろうともしなかった。

 知らない人間が無遠慮に近づくと、反射的に強烈な波形魔術で吹き飛ばしてしまう。

 その為、姉役にいくら高額を提示しても決まらなかった。


 仕方が無いので、父親の選帝侯は教皇から特別許可を取り付け、ルーナの隣の空き部屋にルーナの侍女専用客室を作らせた。

 ルーナがいる間のみ、教会内を自由に行動する事が出来る『客人』という立場を創設した。


 教会の規則により、側仕えは置けないが『客人』が勝手にルーナの世話をするのは目を瞑るという理屈。


 侯爵家からは、身の回りの世話をする為の侍女が派遣されているが、暴走しかけているルーナの世話をするには役者不足なので、危険な時は部屋に入らず、必要な物だけを届ける様にしている。

 こうして落ち着いた時のみ、直接面会する方法をとっている。


 この侍女は『信用している』人間ではあるが、『心を許している』人間ではない。その為、ルーナの魔力暴走を抑えられないのだ。


 「お嬢様、お夕食の時間です」


 ルーナは疲れた顔で、

 「ありがとう、サリー。そこに置いて戻って。まだ危険だから…」


 「(かしこ)まりました。御用の際はお呼びください。」と、サリーは深々と礼をして扉を閉めた。




◆◆◆




 ルーナがギフテッドだと気が付いたのは、彼女が3歳の頃だった。彼女が産まれてから、ずっと世話をしていた乳母が(いとま)をもらい実家に帰った時だった。


 いつも世話をしてくれていた乳母が居ない事に癇癪を起こし、子供部屋を暴風で滅茶苦茶にしてしまったのだった。


 大人の王族レベル(レガリアスケール)を超えた魔力に驚いた両親は、至急、乳母を呼び戻し、その時は治まった。


 しかし、彼女の7歳の洗礼式でのお披露目で、彼女がギフテッドだと言う事を知った者が、彼女の誘拐を企んだ。


 その者は犯罪組織に依頼した。


 誘拐目的で深夜、彼女の部屋に忍び込もうとした賊達が、鉢合わせした彼女の乳母を刺殺した。


 それを彼女が直接目撃してしまい、魔力を暴走させた。




 二度目の暴走は凄まじかった。彼女の居た離宮を半壊させた。部屋の中心に居た彼女と彼女の亡くなった乳母以外、賊達は原型も分からない肉塊となっていた。


 結局、賊達の形が分から無くなっていた為に、何処の犯罪組織か、依頼者は誰か等は分からなかった。




 『心を許していた』乳母を殺された彼女は非常に不安定となり、両親も手に負えなくなった。


 毎日、一個で金貨一枚はする拳大の大きさの魔石を二個使い、魔力を抑えていたが、それも段々と間に合わなくなってきた。


 両親は教皇に相談し、教皇はエレノアに問題を放り投げた。


 密かに教皇からトゥーバ・アポストロに、彼女の護衛と暴走した場合の処理を依頼された。

 その時にクラウディア、ジェシカと会った。


 表向きは年齢の近い女子として、ルーナの友達になれるかのテストとして、エレノアがルーナの両親に二人を紹介した。


 両親は駄目元で二人とルーナを近づけてみた。

 そうしたら驚きの結果となったのだった。


 初めての相手には心を許さない彼女が、何故か二人を怖がらなかったのだ。

 そして突然、3人でクスクスと笑い出し、人見知りのルーナがクラウディアとジェシカに抱き着いたのだった。



 乳母が亡くなってから、一切笑わなかった彼女を教会に託す事を、両親は決意した。




◆◆◆




 ルーナが冷たい食事を一人で取っていると、外から人の走る足音がした。

 足音は彼女の部屋の外で止まると、一呼吸置いてから、扉がコンコンコンと叩かれた。そして、侍女サリーの声がした。


 「お嬢様、戻られました!」


 その短い言葉だけですぐに理解した。

 彼女は食事を中断して、走り出した。


 貴族子女としては、はしたないと怒られる所作だったが、サリーは見て見ぬ振りをして後を追った。


 ルーナとサリーは地階まで駆け下りて、平民用馬車を着ける裏口玄関の戸を開けた。

 そこには丁度、馬車から荷物を下ろすクラウディア達3人とパックが居た。

 ルーナは泥で汚れるのも構わず走り出し、クラウディアに抱き着いた。



 その様子を見ていたサリーは、ほっと胸をなで下ろし、微笑んだのだった。




◆◆◆




 「久しぶりのルーナの魔素だ!」パックはルーナに抱き着いたり、周りを飛び回ったりしていた。


 「…それでね、ノーラが血塗れで微笑んでてね、皆が引いてる中でジェシカだけお腹を鳴らしてたの…」

 クラウディアとジェシカはルーナの部屋で、道中での事や、仕事で起きた事等々を面白可笑しく話して聞かせた。


 その日は夜遅くまでおしゃべりをして、貴族用の大きなベッドで三人で一緒に寝た。


 ルーナは久しぶりに、寂しくない暖かなベッドで眠れる事に幸せを噛みしめて、夢の世界に落ちていった。



挿絵(By みてみん)

ルナメリア

プロローグで4万文字かあ…φ(..)

まだ主要人物紹介しか終わってないやん…_(┐「ε:)_


第一章終了です。


第二章は4月17日から投稿予定です。

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