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神代の魔導具士 豊穣の女神  作者: 黒猫ミー助
ソルガ原書
123/287

◆4-29 知識の泉

ジェシカ視点




 クラウディアは、私達の到着より数日遅れると聞いた。

 律儀にも、他の生徒達とゆっくりと馬車の旅を楽しんでいるらしい。あの娘が、そんな物楽しむとも思えないけれど。

 どうせ、ヴァネッサを見捨てられなくて…とかでしょう。


 父ちゃんと遊べるかと思っていたけど、帝国の重鎮達と祝賀会についての打ち合わせがあるとかで連日留守にしていた。

 ルーナもサリーも、キベレ侯爵代理と一緒に帝国の王宮に行っていて遊べない。身分が高いと色々と面倒なのね。

 つまらない…。


 初日暇だったので、昼は帝国の首都中を一人で探検した。

 私の好きな裏通りや犯罪者の居そうな場所を狙って。

 帝国の自称護衛達が凄く嫌そうな顔でついて来た。


 色々と興味のある物や人を見つけたが、監視が居たので調べられなかった。

 帝国の護衛達が常に監視してるし、私に聴こえる様に愚痴を言ったりと五月蝿くて邪魔だったので、下町辺りで監視を撒いてやった。結果、アルドレダ先生に怒られたけどね。

 青褪めながらこちらを探す姿には溜飲が下がった。


 街の寂れた裏通りや倉庫街で面白い物をいくつも発見。でも私の頭じゃ何に使う物かよく分からなかった。クラウディアに要相談。


 私達を見失った事で、護衛騎士達は酷く叱られたらしく、次の日からは人数が倍増していた。

 決して目を離さない様にと、お偉いさんに言われたらしくて、視線が鬱陶しかった。

 こちらを監視する目の中に殺意が混じってたのには笑えたけどね。

 小娘に監視を撒かれたのが、そんなに腹立たしかったのかな?


 いくら増えても変わらないのに無駄な事。

 自分達より弱い護衛なんて邪魔だし、臭いし、五月蝿い。


 護衛騎士達をぞろぞろと引き連れて、お嬢様然とした服装で散策するのは悪目立ちして嫌だった。

 けど、アルドレダ先生の顔を立てて、1日だけ付き合ってあげた。丁度戻って居たルーナとサリーを巻き込んで。


 目立たない様に豪華な馬車に乗り、普通に高位貴族御用達の高級店を散策した。嫌だったけど。

 とても嫌だったけど。大切な事なので2回言うわ。


 でもそのおかげで、とても珍しい物を見つけた。…というか、あんな店初めて見た。聖教国にはない…わよね?知らないけど。

 クラウディアなら絶対好きそう。


 …私はあまり興味ないのだけれど、教えてあげれば喜ぶだろう。



 朝の稽古はここでも続けている。


 監視は部屋の外とホテルの入口にしか居ないので、窓から出入りすれば気付かれない。

 パックは連れていないので、音を消しているだけで姿は消していない。でも、誰も気付かない。

 …本当に監視なのか?こいつら…


 セルペンスの様な化け物が実は監視してました…なんて事を想定して、フェイクを混ぜた追跡者の炙り出しをしてみたが、誰も来ないし視線も悪寒も感じない。

 そもそも朝の稽古で軍部に忍び込んでいる事がバレたら、またアルドレダ先生に怒られるだろうけど何も言われていない。


 流石に諜報部はマズイと思って侵入は避けた。

 バーゼルの奴はデミに片足吹っ飛ばされたから、そもそも生きているか知らないけれど、万が一でも私を知ってる可能性のある奴に顔を見られたくなかったし。


 諜報部以外の情報でも、役に立つ事はいっぱいあったから満足。

 変な設計図は手に入れたし、怪しい事してる人間も何人か見つけたし。


 エレノア様に報告したら褒めてくれた。嬉しい。

 美味しいご飯も奢ってくれたし、引き続き自由にやって良いよと、お墨付きも貰えた。五月蝿い護衛達も排除しておいてくれた。

 ただ、役に立つからと、少し怖い同行者を付けられた。

 …本当は一人でやる方が気が楽なんだけど。

 でも、こちらに協力的なので我慢する。


 実際、とても役に立った。

 諜報部にも潜入出来たし、バーゼルの情報も貰えた。

 やはり生きていたらしい。しぶとい奴。

 数日間の調査でかなりの情報が集まった。



 私が新しい遊び場を開拓していたら、クラウ達が合流した。

 全く…この私を待たせるなんて…。

 良いご身分ですこと。


 …実際、本当に良いご身分なので嫌味にもならないわ…。

 でも、これでようやく!思いっきり遊べるわ!



 「クラウ!こっち、こっち。面白い店を見つけたのよ!」

 「長旅で疲れてないの?元気よねぇ…。明日から学校もあるのよ…休ませてよ…」

 「年寄り臭いわね。私は明日から叔父さんの家に行かなきゃならないから、今の内に遊ばないと!」


 そう言って、私は見つけておいた店にクラウディア達を案内した。



 『平民立入禁止』

 そうは書いていないけれど、扉の装飾がそう主張している。


 私はこの店に入る為に、この動きにくいフリル多めの制服を着てきたのよ…?嫌なのに。

 いつもの服装なら、扉に手を触れた瞬間に追い出されかねない位の嫌味(豪華)な扉。

 …建前は隠すもの、本音は出すもの。


 事実、平民達は店の周囲どころか通りにも全く居ない。

 高そうな生地で出来た服に身を包んだ、鼻につく様な嫌な奴等しか歩いていない。



 建物の素材も、厚い石材と耐火レンガ。

 上階を支える梁や桁は物凄く厚い。

 火事が起きても耐えきりそうな頑丈な造り。

 地震には弱そうだけれど…そもそも地震の無い国だしね。


 建物の大きさに対して窓が小さい。

 高価な魔導灯をいっぱい設置してあるから、中は明るいけれど。

 窓を大きくとれば、こんなに明りなんて必要無いのに。

 金持ちの考える事は分からないわね。



 「凄く広い空間でしょ?声が反響するのよ。面白いわよね。

 皆と一緒に見たかったから、私、まだちゃんと商品を見てないのよ。一応、ある程度買える様に少し多目に用意してきたわ」

 「本当…あまり視ない建物…不思議な感覚だね。声が響く…」

 ルーナとヴァネッサが、自分の声を出して響きを楽しんでいる。


 大きな広間に、豪華な装飾の机がいくつも並べてある。

 それぞれの机の上には枠が鉄で出来た頑丈そうな大きな硝子のケースが置いてある。


 ケースの中には多種多様な本が並べて置いてあった。

 聖教国や帝国の言語で書かれた本が多数だったが、中には外国語らしき読めない言葉の本や、美しい絵の描いてある本もあった。

 中には、字そのものが絵の様な複雑な記号で書かれている不思議な本もあった。


 …こんな変な文字を使う国があるのね…。種類が多すぎて、私じゃ覚えられないわ。


 「なにコレ…」


 大量に並べられた多種多様の本を見て、クラウディアが驚いている。


 クックック…計画通り…。


 成程、帝国には聖教国より優れた文化があると豪語するだけの事はある。

 ()()クラウディアを驚かすなんて!


 「凄いでしょ。『本』の専門店よ。中古のだけどね」


 『本』とは一冊一冊を発注して、望んだ内容を書かせる物。

 個別注文、個別仕上げなので、手間も時間もお金も掛かる。

 紙質や表紙に良い羊皮紙を使用したり、表紙を宝石で装飾される程の物になると、一冊で下位貴族の家一軒程の価値になる本もある。


 学校の図書室に置いてある本は、元は誰かが作らせた物。

 要らなくなった、若しくはお金に困った等で、寄付されたり売られたりした物。

 中古でも、その価値は物凄く高い。


 クラウディアが学校に居る時、暇があれば図書室か工作室に居たことを知っている。

 教会の彼女の自室にも、何冊もの高そうな本が大切に保管されていた事も。

 だからきっと興味を持つと思ったのだけれど、大成功だったわね。


 硝子ケースの中には、豪華な装飾を施された美しい革張りの本から、数百年は経っていると思われる本まであった。

 本は中が見える様に拡げて置いてあり、買う前に内容や本の状態を確かめられる様になっている。

 硝子ケースの横の隙間から手を入れて、ページをめくれる様になっていた。



 表紙の状態も良く、装飾も立派な本ばかりが並ぶケースの中には、私でも見覚えのある物があった。


 私達のよく知っている聖教国の聖書や聖典。これは何冊も積み重なっている。

 他の本に比べて安価だ。それでも売価単位は金貨表示だけど。

 教会の上層部が『印刷』という技術で同じ物を何冊も作っている。

 おかげで、貧しい農村にまで一冊は置いてある。


 他には、帝国の過去の支配者を称える歴史本。

 女性が好みそうな、悲恋物語。

 男性が好きそうな、騎士が魔物を狩るお話。

 貴族の所作やダンスの手順を絵で表した教本。

 サンクタム・レリジオの教科書まであった。

 …覚えてしまえば必要無いモノだしね…。


 他にも、複雑な何かの機械の設計図。

 何処かの建物の平面図や矩計図(かなばかりず)

 読めない文字と六角形の線が複雑に並んでいる本。横に説明が書いてある様だけれど、化学式とかナントカ…、私の苦手なモノね。


 意味の解らない、文字と数字と記号の混ざった数式の描かれている本。

 夜空の星の動きを調べたと思われる天文学の図表。

 脚が六本もある猫型魔獣を描いた図録。

 綺麗な赤と黄色で彩られた見たこともない鳥の図鑑や、野草・毒草の図鑑に虫の精密画。

 …うっ…油虫まで…。リアルで気持ち悪…!



 綺麗な装飾の本とは対照的に、表紙の汚い本ばかりが並べられている場所には、変わった内容の物が多かった。

 『古代文書類』と書かれていて、紙質も羊皮紙とは全く違った物だった。


 四角い枠がいくつも並べられて、その中に今にも動き出しそうな綺麗な色の着いた絵が描かれている。

 順番に見てみると、絵自体が動いている様に見える。

 面白い。


 手から糸が出て、大きな四角い石?の間を飛び回ってる…。

 蜘蛛の巣模様の赤い服を着た糸使いの魔人のお話?

 クラウディアみたいね。


 こちらは、緑色の肌をした筋肉お化けみたいな男性が、馬のない馬車を放り投げている…。

 毛の無い緑色のグレンデル?

 アイツら、昔は緑色だったのかな?


 他には、奇妙な模様の六角形の図が描かれた本。

 紙一枚毎に子供向けの絵が大きく描かれている本。

 開くと、絵が立体的に立ち上がる変わった本もある。

 …少し子供っぽいような絵ね。結構好きかも…。


 四角いマス目に、見たことのない言語を繰り返し書いている薄い本。表紙に綺麗で精密な花の絵が描かれている。

 字の練習用?…なんて贅沢な紙の使い方だろう…

 言語学の研究者が欲しがるのかな?


 黄ばんだ古臭い紙に綺麗な穴が空いていて、芋虫の絵が描いてある本まであった。

 …何故本に穴を?一体何に使うんだろう?暗号かしら?

 言葉が分からないから、何て書いてあるか分からない…。


 「凄い…凄い!」

 クラウディアがここ迄興奮するのは初めて見たかも。


 「いらっしゃいませ、お嬢様方」

 初めて見る、身なりの良い青年が話し掛けてきた。

 私が不審な顔をしていると、彼は慌てた様に自己紹介をした。


 「初めまして。出版商会『知識の泉』へようこそ。

 私は、オーナーのヴァレンティと申します」


 「初めまして。私はジェシカ=バルト。こちらは友人のクラウディアと申します」

 私とクラウディアは丁寧に挨拶をした。


 …今のワタシはお嬢様…疲れるけれど…オジョウサマ。


 「その服装は、今話題の聖教国からいらっしゃっている生徒の方ですね。

 サンクタム・レリジオの生徒様ですと、本に興味がおありですか?」


 「ええ、勿論。素晴らしい品揃えですね」

 クラウディアが嬉しそうに本を眺めながら目を細める。


 「こんなにも本が好きなお嬢様方にいらっしゃって頂けるとは、とても嬉しく思います。どれかお気に召したものはございますか?」


 「これ!この系統の本は他にありますか!?」

 クラウディアは『古代文書類』と書かれた、汚い表紙の本ばかりが入ったケースを勢い良く指さした。


 …魔導具とか化学式・数式の本を選ぶかと思ったけれど…意外。


 顔を引きつらせたヴァレンティは、現在修復中の古代文書が他にも数点ございます。と、応えた。


 「…これらは()というよりは遺物(アーティファクト)としての価値のある物。少々値が張りますが…。

 それに、書かれている言語も解読出来ておりません。

 それでも宜しいのですか?」


 「モチロン!」

 クラウディアは間髪入れずに応えた。


 クラウディアの勢いに圧されたヴァレンティは半歩後ずさりながら、こちらでございます、と言って、私達を二階へ続く階段へ案内した。




 

次回10月31日はハロウィン企画として、この世界の別のモブの物語を少々…

思いついちゃったからね。しょうがないね。ハロウィンだし。


主要キャラクターは出ません。


追記


本当は一回で終わる程度の長さの話にする予定でしたが、思ったより量が増えました…orz

なので複数回に分けます。

3000文字程度じゃ全然足りないよパトラッシュ…


大丈夫…11月中はハロウィン。自分ルール。

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