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神代の魔導具士 豊穣の女神  作者: 黒猫ミー助
ソルガ原書
112/287

◆4-18 下らない理由

第三者視点




 学校交流会の班分けが発表された。

 他の生徒達は授業中で、掲示板のある講堂前広間に誰も居ない時を狙って、ジェシカ達はアルドレダと一緒に班分けを確認しに来た。


 「広間の扉には鍵を掛けたわ」

 「何で班分け確認の為に、こんなにコソコソするのです?」

 ヴァネッサが首を傾げながらアルドレダに尋ねた。


 「私達には準備が必要でしょう?

 何が必要か、誰が持って行くかを話し合わなきゃならないからね」


 ティーバ・アポストロのメンバー達の出発日を見て、問題発生時や緊急依頼が来た時用に、武器や道具を積込む馬車を確認する必要がある。

 メンバーの武器を運ぶ馬車だけは、隠し倉庫付きの物を用意しなければならない。検問所で発見されないように。


 魔道銃や短剣程度なら護身用として言い訳が出来るけれど、クラウディアの魔導銃やジェシカのウルミは見られると不味い。

 特にデミトリクスの魔導銃なんて、国家機密の塊だ。

 別の馬車で纏めて運んでも良いが、もしも緊急で必要になった時、手元に無いと仕事にならない。


 「だからね、何時出発する馬車に私達の隠し倉庫馬車を紛れ込ませる手配をするか、そして、どの規模の倉庫馬車を同行させる必要があるかを、各々の意見を聞きながら決めるのよ」



 クラウディアとデミトリクスは、まだ首都に帰ってきていない。

 マリアンヌは、基礎4科の授業中で居ない。

 なので、ジェシカ、ヴァネッサ、ルーナ、サリー、そしてアルドレダが掲示板の前に集まって話していた。


 「あれ?なんでクラウ達と私達、別の班なの?」

 班分けの掲示板を見ながら、ルーナがアルドレダに尋ねた。

 「ヴァネッサも別…?というか、ヴァネッサだけ専用馬車…?なんで…?」

 「えっ…?私、皆と離れちゃうの?」


 今回の交流会、参加人数が多かった為に中継地点の街の高級宿が足りなくなった。

 だから、複数の班に分けて1日ずつずらしながら移動することになった。

 第1班が中継地点の街Aを出発した日の夜に、第2班が街Aに到着、宿泊する。

 第2班が出発したら、第3班が宿泊…と続く。


 その班分けに、ルーナ達は驚いた。


 クラウディアやマクスウェル達王国貴族の班と、ヴァネッサのみの班、ルーナ、ジェシカ、イルルカ達の班で分けられていた。


 「実はね…」

 アルドレダが困った顔で理由を説明した。


 今回の学校交流会は帝国で開催される事から、王国出身貴族や王国派閥貴族の参加者はほとんど居ないだろうと思っていた。

 しかし蓋を開けてみると、意外と王国派閥貴族の参加者が多かった。


 「その王国派閥の貴族達が、提案と言うか…忠告と言うか…強迫というか…」


 簡単に言うと、王国派閥貴族達を中心に多数の女子生徒達が、『提案』という名の自分達の要求のゴリ押しをして来た。


 王国出身貴族や王国派閥貴族が、道中での無用なトラブルに巻き込まれる可能性を示唆した。

 帝国出身貴族や帝国支持者達との争いに発展して、折角の『帝国の御招待』に水を差しては申し訳無い。

 だから問題に発展しそうな芽は、早めに潰しておくべきでは無いでしょうか?

 その為にも、我々王国派閥と王国出身貴族だけを一つに纏めて、別の班にした方が宜しいのでは?

 あ…ヴァネッサ様は畏れ多いので、専用馬車にするべきでしょう。ヘルメス枢機卿猊下に失礼ない様に、下賤な者達と一緒にするべきでは無いと愚考致します。

 聖教国貴族なら、その程度の心遣い出来ますわよね…?


 「…で、受付の子がゴリ押しされたそうよ」

 アルドレダは溜息をついた。


 「何それ?王国派閥だけで固まるなんて…。帝国と交流を深めに行くイベントの意義、全否定じゃない?」

 ルーナは、『提案』の馬鹿馬鹿しさに呆れた。


 「でも、教師の中にもそれを危惧した人が一人二人では無くてね…。確かにその危険もあるのよね…」

 反対するにしても、『笛』のメンバーを一纏めにしておきたい、なんて言える訳もない。


 「何かあるわね…。

 王国派閥貴族達が、一丸となってイベントを壊そうとしている?帝国派閥と聖教国の仲違いを狙ってるとか?あ〜、クラウが居ればなぁ…」

 ジェシカが疑念を口にし、裏が有るのではないかと考え込んでいた。


 「それが、今回の参加者や提案者達の名前を見ると…何となく理由が見えてきて…というか…何と言えばいいのか…」

 アルドレダは、ヴァネッサをチラチラと見ながら口ごもった。


 「参加者や提案者にメロヴィング家のお嬢様でも居ましたか?」

 突然、サリーが口を挟んだ。

 「良く知ってるわね…」アルドレダは呟いた。


 「実は、侍女友達に聞いた話なのですが…」

 そう言って、説明しだした。


 今年の初めから、学校内での不純異性交遊を問題として提言している家が複数あった。

 その中心がメロヴィング家だった。


 「不純異性交遊と王国派閥だけ纏めるのと…、どんな関係があるの?」

 ヴァネッサが首を傾げる。


 サリーがヴァネッサの方を見ながら解説した。


 近頃、貴族の男女が寄宿舎で不純異性交遊をしていて目に余る。

 例え婚約していたとしても、結婚までは男女の席は別々にするべきでは?

 衆人環視の中で、同じ席で男女が食事をするなんて言語道断。

 簡単に言えば、人の目の前でイチャイチャしてんじゃねーよ。

 「…だ、そうですよ?」


 そこまで言って、皆がヴァネッサを見た。

 「え…?え…?」

 ヴァネッサは突然自分に向けて集まった意識に驚いて、よろめいた。

 倒れそうになったヴァネッサをジェシカが支えた。


 「今回、提案をしてきた貴族は、王国派閥貴族だけでなく、一部の帝国派閥貴族も居てね…。

 共通しているのが、ヴァネッサとデミトリクスが食堂でイチャイチャしているのを何とか止めろ、と苦情を入れてきた女子生徒達ばかりで…

 学校としては他人の男女交際に口を挟む気はないの。

 中には幼い頃からの許嫁だからと、常に一緒の席で授業を受ける子達もいるし…」


 あまりの下らなさに、ルーナは脱力してしゃがみ込んでしまった。

 「つまり…ヴァネッサとデミトリクスを旅行中引き離しておきたいから、こんな馬鹿な事をした…?く…くだらない…」

 「その通りでございます」サリーは淡々と答えた。


 「加えて言えば、苦情を入れた家の娘達は、デミトリクス様やヴァネッサ様に懸想している娘達ばかり…。

 今回の旅行中にお二人を引き離して、空いた席に自分が座ろうと狙っているのでしょうね」

 サリーの言葉にルーナは少し疑問を抱いた。


 「ん…?懸想している娘…だよね?

 デミトリクスは分かるけれど、ヴァネッサに懸想している『娘』…?

 ヴァネッサは女の子だよ?知らない娘が居るの?」


 ジェシカとアルドレダは、何とも言えずにそっぽを向いた。

 サリーは、「高貴な貴族女性の間では、当たり前の事ですよ?」と、ルーナに真剣な顔で嘘を教え込む。


 「男は臭くて汚いですからね。

 高貴な女性は、むしろ、男を毛嫌いするものですよ」

 「デミは臭くないし、汚くないわ!」

 ヴァネッサが反論する。


 「男は成長すると、臭くて汚くなるイキモノですよ」

 「お父ちゃんは臭くないし、汚くないわ!」

 ジェシカが反論する。


 「…チッ…うるさ…ゴホン!

 兎に角、高貴な女性は女性の恋人を持つ事が普通なのですよ。お嬢様も如何です?」

 「「「嘘を教えるな!!」」」

 三人が同時に突っ込んだ。



 「…よく分からないけど…今回の班分けに、政治的な意図は無いという事なのね?私達に余計な仕事は来ないのよね?」

 ルーナはアルドレダに確認した。

 「そうね…。今のところは、大した問題が起こる予兆はないわね」

 「え…?ちょっと…」


 「それなら、気にしないで旅行を楽しみましょうか。

 私、途中で集団行動抜けて、帝国の叔父さんに挨拶に行きたいんだけど。いい?」

 「そうね。

 高位貴族の晩餐会は、オマリーと一緒に出てもらわないと困るけれど。それ以外の日を指定して外出許可申請出しておいて」

 「ねぇ…ちょっと…」


 「お嬢様も、その晩餐会に出席する予定ですか?」

 「そうよ。

 リオネリウス王子の手柄にする約束で費用を引き出しているから、キベレ侯の愛娘が侯爵代理で出席する事になるわね。

 そうそう、ちゃんと制服を用意して行ってね。

 ルーナ達は学校の生徒代表という扱いだから。」


 「ねぇってば!」

 ヴァネッサが大声で皆を止めた。

 「問題無いどころか、大問題じゃないの!

 私のデミトリクスに危険が迫っているのよ!」


 皆は面倒臭そうに目を逸らす。


 「お願いします!先生の力で助けて下さい!何でもしますから!」

 ヴァネッサが、突然アルドレダの腰にしがみついた。


 「では、学校交流会の支度がありますので…。

 お嬢様、一度侯爵邸に帰宅致しましょう。

 晩餐会で話しても良い事と駄目な事を、侯爵様達とご相談致しませんと…」

 「そうね。

 サリー、お父様に先触れをお願い」

 「畏まりました」

 ※ルーナとサリーは、しずしずと戦場から逃げ出した!※


 「あ〜!

 私も晩餐会の打ち合わせと、外出許可申請の準備しないと!忙しい、忙しい!」

 ※ジェシカは、音もなく戦場から逃げ出した!※


 「あ!私も!

 え〜…外出許可申請の受付するように、言っておかないと!」

 「絶対に!…離さない!!」

 ※アルドレダは回り込まれてしまった!!※


 「ええい!離せ!!離すのだ!!!

 先生は仕事が山積みなのよ!下らない事には関わりたくないわ!」

 「あ……アビ…アビゲイル…先生!」

 「え!何故それを!?」

 「全部知ってますよ!先生の秘密!

 フッフッフ…バラされたく無ければ協力して下さい!」

 「くそ!いつの間に!

 報告では、喋らなければバレない筈では!?」

 「ふっふっふっ…

 私の能力からは逃れられないのよ…!

 フレイスティナの事も知ってますよ!

 そして!貴女との関係も!!」

 「な…何ですって…!」

 「協力すると誓いなさい…。そうすれば黙っていてあげるわよ?」

 「くっ…、なんて恐ろしい娘…」


 ※アビゲイルはヴァネッサの軍門に降った…※

 ※ヴァネッサは、協力者アビゲイルを手に入れた!※



 

※ヴァネッサはアビゲイル(アルドレダ)の事は何も知りません。

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