表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神代の魔導具士 豊穣の女神  作者: 黒猫ミー助
ソルガ原書
110/287

◆4-16 裏方のお仕事

第三者視点




 「意外と参加者が多かった様ですね。良かったですわ。リオネリウス様」

 「『意外』は余計だ。馬鹿者。王子の人徳があれば当然の事」

 「見て下さい。王国民や王国派閥からの参加もありますよ。

 絶対来ないと思ってましたけれど…」

 「ちょっと見せてみろ…また、こいつ等か…。

 こいつ等の宿泊施設だけ豚小屋にしてやろうか…」

 「そういう事は帝国の品と評判を落とすだけです。

 嫌がらせなら、帝国とは関係無いところでやって下さい!」

 「ただの冗談だろう…。これだから女は…全く…」

 「酷い女性差別!聞きましたか?リオネリウス様!」


 「あー!五月蝿い!黙って仕事しろ!」


 リオネリウスの居室の円卓で、彼と彼の侍女、そして護衛騎士が、今回の学校行事の参加者を纏め、参加名簿を作成しつつ無駄口をたたいていた。


 「大体…何でこんなに大事に…!全部あいつのせいだ!お陰で私まで雑用する羽目に…」

 リオネリウスはブツブツと呟きながら、リストに名前と家名、王国寄りか帝国寄りか、聖教国内での将来的な重要度、警戒対象、勧誘対象等々を記載していった。


 「今回仕事を頼んだヨーク家のご令嬢ですか?

 確かに規模は予定より遥かに大きくなりましたが…

 お陰様で、王子の手柄と評判はうなぎ登りではないですか!」

 「しかし、奴は王国の貴族だぞ!こんなに手を貸すなど、何か裏があるに違いない!」

 「…ああ、報酬を渡す約束しているからな…」


 報酬と聞いて、侍女は興味を持って話し始めた。


 「金銭ですか!?それとも宝石?

 シューメットの珊瑚のネックレス…綺麗ですよね…。

 宵闇水晶の耳飾りも大人の女!って感じで良いですよね!

 それともローザ・ヴィヴィの金装飾をあしらったオーダーシューズですか!?

 いいなぁ…私にも贈って下さる方はいらっしゃらないかしら…」

 そう言いながら、侍女はリオネリウスをじっと見つめる。


 リオネリウスは、わざと彼女の方を見ずに黙って仕事を続けた。

 護衛騎士は溜息をつきながら無視をして、宿泊費や食費を計算していく。


 「装飾品ではないのですか…?

 他に帝国の特産品とかですか?

 高級牛肉をご馳走するとか?

 私は麒麟魚と芳香キノコのパイが食べたいですね〜」

 「勝手に一人で食べに行け」

 護衛騎士が冷たく言い放つ。


 「食べ物でもない…?他に私が欲しい物は…

 まさか!

 正妃の座ですか!?」


 リオネリウスと護衛騎士が同時に吹き出した。


 「おい、ポンコツ…。仕事しないならクビにするぞ?」

 「はい!優秀な私は、そつ無く仕事をこなします!」

 そう言って、終わった仕事をリオネリウスに渡し、伸びをした。


 この侍女は無駄口を叩きながらも、リオネリウスや護衛騎士よりも早くに仕事を終わらせていた。


 「お腹が空いたので、食堂行って何か摘んできますね〜」

 そう言って、そそくさとリオネリウスの部屋を出て行った。


 「あいつが優秀な事に納得がいかん…」

 「私も同感です…」

 2人は溜息をつきながら、仕事を再開した。


 リオネリウスは暫く何事か考え込んだ後、無言で頭を振った。




◆◆◆




 サンクタム・レリジオ校の事務室はてんやわんやだった。

 アルドレダが、自身の受け持ち授業を休みにして、事務作業の取り纏めを行っていた。


 「馬車の数は足りますか?足りない場合は駅馬車を借りてきて下さい」

 「ひと月もの間借り続けると、公共交通機関に支障が出ますよ?」

 「何も、アルカディアの駅馬車を、ひと月の間ずっと占有する必要はありません。

 隣街迄行ったら、そこで新たに馬車を借りて乗ってきた馬車を返却すれば、数日程度の占有で済みますよ」

 「成程、しかし、それなら行き先の街で予め馬車の予約をしておかないといけませんね」

 「外交官吏に帝国へ連絡文書を届けに行ってもらうついでに、予約も取って貰いましょう。どのみち、宿の手配も頼まなければなりませんし」

 「わかりました。連絡しておきます」

 事務員が席を立ち、外務部連絡員呼出所へ走った。


 「少し、休憩にしましょうか」

 アルドレダが号令を掛けると、皆が手を止めて伸びをした。

 中央の円卓の上を片付けて、皆でお茶の準備をして席に着く。


 「ふぅ…参加人数が凄い事になりましたわね」


 途中から親族、侍従、護衛騎士はそれぞれ2人迄、追加で料理人とその助手までと決め直した。

 生徒の中には、親族全員のみならず、家の侍従全てを登録しようとする子が出たからだ。


 「同行者30人を登録しようとした生徒には、開いた口が塞がりませんでしたわ。

 伯爵家の生徒でしたし、アルドレダ先生が通り掛からなかったら、ごり押しされてましたわ…」


 アルドレダは、その時の情景を思い出して苦笑いした。


 「こういう機会でもないと、一生外国に行く事の無い子達も居ますからね…。でも、侍従どころか侍従の親族まで登録しようとするのはやり過ぎよね。

 そんなに登録されても、連れて行く為の馬車もありませんのに」

 「費用全額帝国持ちですからね。

 気持ちは分かりますわ。羨ましいですわね…」

 「私が生徒だった時に、こういう行事があれば良かったですのに…」

 皆、羨ましい、私も行きたい、と口々に愚痴った。


 ところで皆様…と言って、1人の事務員が口を開いた。

 「リオネリウス王子が参加を要望されていた、オマリー様を御覧になりまして?今回の帝国訪問に同行するそうですわね」


 皆、ああ…と言って、数日前に開かれた教皇庁前の閲覧式を思い出した。


 『英雄が、ボガーダンの獣を討伐した!』

 教皇自らが高位貴族達に彼を直接紹介してから暫く経った後、オマリー神父に関して変な噂が拡まった。


 空を飛んだだの、口から火を吹いただの、ボガーダンの獣の噂話とオマリーの話がゴチャゴチャになった作り話が下町に拡がり、オマリーは本当に人間か?と勘繰る者が現れた。


 流石にこれはマズイと思った教皇庁は、わざわざ下位貴族や一般市民達にも知らせる為に、改めて教皇庁前の公開広場で教皇自らオマリーを紹介した。


 ボガーダンの獣に関しては敢えて詳しくは言及せずに、オマリーの知力と魔力と魔道銃の腕前を多少大袈裟にして知らせる事で、噂と現実のギャップを縮める様に修正した。



 「凄かったですわね、あの大きな身体。

 確かに、あれなら凶悪な獣でも退治できそうですわ」


 「綺麗に整えられたお髭と、あのつぶらな瞳…とても可愛らしかったですわ…」


 「…貴女、ああいう男性が好みですの?」


 「凛としたお顔に、全てから護ってくれそうな身体…。

 教皇猊下とヘルメス枢機卿猊下に挟まれて、あの大きなお身体を小さくさせて…、凄く緊張されていた様子が微笑ましかったですわ。

 大きなクマさんが、必死に縮こまっているみたいな…とても可愛いらしい殿方ではありませんか?」


 アルドレダは話を聞きながら、乾いた笑いを浮かべた。

 思わず、そのクマは素手でグレンデルを絞め殺す化け物よ…、と言い掛けた。


 「でも、ただの獣を騎士団が討伐出来なかったというのも疑問ですけれど、その獣をたった1人で討伐したというのも、少々疑わしいですわ…」

 ひとりの事務員が呟いた。


 「あら?貴女、()()()()()と教皇猊下と枢機卿猊下の言を疑うのですか?」

 少し殺気を漏らしながら尋ねるオマリー推しの女性。


 危険な地雷を踏んだと理解した彼女は、慌てて取り繕った。

 「いえいえ!そういう意味では御座いませんの。

 ただ、生徒達の間で広まっている噂では、ボガーダンの獣は、本当は魔獣だったらしい…と、言われておりまして…。

 本当に魔獣なら、たった1人で退治出来るものなのかな…って…」


 「魔獣でしたの…?教皇猊下の発表では、巨大で凶悪な獣としか…」

 「生徒達は、毒と炎を吐く『魔狼』だったらしいと…」

 「アルドレダ先生は、何かご存知ですか?」


 次々と疑問の声が挙がる。


 アルドレダは手元のお茶を眺めつつ首を傾げた。

 「私達が滞在して居りました村は、彼が戦った場所には近い所だったらしいのですけれど、直接視認出来るような場所では御座いませんでしたし…。巨狼なのか魔狼なのか…私には何とも。

 それに、ここで議論したからといって、結論の出る話では御座いませんしね…」


 皆は、成程、確かに。と納得した。


 アルドレダは続けて、

 「相手が何であれ、オマリー司祭が知恵を絞って獣を退治した事は事実でしょうし、騎士団にも出来なかった事を成し遂げた、というのは素直に評価すべき事かと思いますわ」

 と、纏めた。


 先程まで殺気を漏らしていたオマリー推しの女性が、嬉しそうにウンウンと頷く。

 「その通りですわ。

 可愛いは正義。オマリー様は可愛い。だから、オマリー様は正義ですわ!」


 皆は苦笑いする事しか出来なかった。


 「そう言えばオマリー様は独身と聞きましたが…。

 貴女…まさか…」

 1人の女性職員が、皆が敢えて口に出さなかった事を言った。


 オマリー推しの女性はニヤリと笑った。


 アルドレダが慌てて口を開いた。

 「オマリー司祭は確かに独身ですが、娘が居りますわよ。

 この寄宿舎に住むジェシカという赤髪の少女です」


 「子供付きなんて覚悟の上ですわ。

 むしろ男手ひとつで子供を育てているなんて、高評価ではありませんか!」


 ジェシカの特徴を聞いて、思い当たる節のある女性が顔を青くした。

 「もしかして…ヨーク伯爵令嬢のお友達の…?」


 アルドレダがコクンと頷くと、青褪めた女性は真剣な表情で、オマリー推しの女性に忠告した。

 「貴女の為に忠告するわ…。

 アレに関わるのは止めなさい!

 クソ面倒臭い奴が付いてくるわよ…」


 汚い言葉の上、あまりに真剣な表情だったので、皆は、彼女の身に一体何が起こったのだろうと、驚いた。

 事情を知っているアルドレダは、乾いた笑いを浮かべる事しか出来なかった。


 丁度その場に、お茶のおかわりを取りに食堂に行って帰ってきた女性が、話に加わった。


 「ジェシカ様…ああ、そう言えばジェシカ様でしたわ。

 赤髪の少女。帝国のバルト男爵家ご令嬢ですわよね」

 アルドレダが、確かにそうですけれど、何か?と尋ねると、彼女は、「先日の食堂で起きた事件の事ですが…」と話した。


 皆が興味を持って尋ねると、彼女は食堂で起きたメロヴィング家のお嬢様とジェシカのトラブルを説明した。

 「フローレンス=メロヴィング伯爵令嬢がジェシカ様を叩いたのを見たと言う人は大勢居たのですが、ジェシカ様がいつの間にか消えていたそうです。

 ジェシカ様からの訴えもありませんでした。

 なので、フローレンス様の罪は不問としたのです」


 その女性は続けて、

 「私が呼び出されて、問題の処理を頼まれました。

 フローレンス嬢はずっと、私は叩いてない、触れてもいないのに…何なの…と呟いてましたわ。

 ご自分の手をじっと見て、心ここにあらず、という様子でしたわ」と話した。


 ジェシカも消えていて、彼女が事情を聞きに部屋を訪ねたが留守だったそうだ。

 フローレンスの様子とジェシカの不審な行動から、ジェシカが何かをした可能性は考えられるが、そもそもジェシカが被害者なので、これ以上の調査も出来ない。

 結果的に被害者不在の為に、トラブル自体が無かったものとして事態を収めたとの事だった。


 アルドレダがお茶の香りを楽しみながら、静かに答えた。

 「それで良かったと思いますわ。今は英雄オマリー司祭の娘ですもの。

 下手に騒げば余計な噂が広まって、結果的に教皇猊下の不利益に繋がりかねませんもの」


 ずっと静かに聞いていた、オマリー推しの女性は、

 「成程…なかなかに手強そうなお嬢様ですね。

 しかし、障害が大きければ大きい程燃えるというモノ。

 その、お嬢様を丸め込…仲良くなれば、オマリー様に手が届くと…。

 将を射んと欲すれば先ず馬を射よですわね。

 皆様、ありがとう存じます。

 私、必ず馬を射殺(いころ)して参りますわ!」

 と、意味(わけ)の分からない宣言をした。


 皆は、もう勝手にして、と心の中で一斉に突っ込んだ。



 暫くの間、ジェシカをストーキングする女性が居ると噂になった。

 アルドレダが、1人の女性職員の耳を掴んで引きずって行くのを最後に、彼女の姿を見た者は居なくなったのだった…。



 

オマリー推しの人は配置転換されただけです。

処されてはおりませんので、ご安心下さい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ