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神代の魔導具士 豊穣の女神  作者: 黒猫ミー助
ソルガ原書
107/287

◆4-13 ジェシカの新しい日常

ジェシカ視点




 …くすくすくす。


 『笛』の力は凄いわね。

 あんな雑な創り話でも、こんなに一気に広まるなんて。


 あの話を聞いた時、父ちゃんは凄く嫌がったけど。

 父ちゃんが英雄呼ばわりされるのは気持ちが良いわ。

 私にとっては本当に英雄だしね。


 皆が協力して解決した話より、1人の英雄が大活躍するお話の方が、一般市民には受けが良い。

 流石クラウディア。

 言った通りね。


 学校でも、私を見る目がかなり変わった。


 以前迄の『恐怖』『敵意』時々『殺意』に、

 『畏怖』『信頼』『崇敬』『嫉妬』が加わったわ。

 …一部の女生徒達から、『憧れ』を超える艶めかしい視線が出てきたのが…少し怖いけど。


 今でも毎朝、私は剣槍術の授業に出る。

 けれど、近頃は私に挑戦してくる輩が居ない。

 以前、担当の剣術教師が相手してくれたけれど、その次の日からは目を逸らされた。

 その日から試合の相手が居なくなった。つまらない。

 仕方なく、嫌な顔をするマクスウェルを引き摺り出して、無理矢理相手をさせる。


 マクスウェルは真っ直ぐな剣を使う。

 正統派の騎士の戦い方だ。

 そして、強い。

 力、技、護り、とてもバランスが良い。


 彼の隠し技を正面から受けたら、私の身体が十数メートル吹き飛ばされた。

 回転しながら着地したから、怪我はしなかったけど。

 男共から拍手喝采されていた。

 いい気味だ!女のくせに調子乗るな。という声が聞こえた。

 言った奴は後で引き摺り出して、皆の前で〆た。


 マクスウェルの強さは、授業に参加している男共の中では、リオネリウスの護衛見習いと双璧を成す強さだ。

 魔術式無しなら、護衛見習い達も相手にならないだろう。

 『魔術式無しなら』…。


 でもまぁ…私の相手としては役者不足。魔術式無しでも。

 クラウディアかデミトリクスが居れば、いい勝負になるだろうけれど。

 二人共、この授業には出て来ない。

 目立つ事を嫌うから。


 お父ちゃんのお陰で、私が名実共に男達を圧倒すると、彼等からは『憎しみ』『嫉妬』『恐怖』時々『尊敬』の拍手が来る。

 逆に女達からは、『痛快』『憧れ』『崇敬』の視線。


 女性の権利を法的に回復するとか色々と言っても、男尊女卑の思想は簡単には修正されない。

 だから、鬱屈した感情を、私を通して晴らしているのよね。

 少し前までは、平民出で令嬢らしく無い、穢らわしい野猿ね。的な扱いだったくせに。

 (てのひら)クルクルと、よく回るわね。




 「あ…あの…ジェシカ様、もし…お時間御座いましたら、私達のサロンに参加して…頂けませんか?」


 小腹が空いたので、食堂の料理人にお金を渡してオヤツを作って貰った。

 食べ終わって食堂を出る際に、声を掛けられた。


 「南方の国の、新しい紅茶が手に入りましたの。

 …あ、あと、新しいお菓子も御座いますのよ。

 …い…如何でしょう…?」

 上目遣いに私を見ながら聞いてくる。


 またこいつか…。面倒臭い。

 おどおどした下位貴族の令嬢が誘いに来た。

 ここの処、毎日来る。名前は…忘れた。


 離れた席でこちらを覗う高位貴族の連中。

 自分で来いよな…

 逆らえない下っ端にやらせるなよ…

 これだから貴族って嫌い。


 「嬉しいお誘いですが、申し訳御座いません。

 私、これからヴァネッサ様との先約が御座いますの」


 丁度良いので、ヴァネッサの貴族の威を借りる。

 ヴァネッサは派閥を作ってないけれど、外から見れば分からないよね。

 私達は、ヴァネッサ派閥に入っていると思われているみたいだし。


 ヴァネッサの名前を出されて、下位貴族の令嬢は何も言えず涙目になってる。

 様子を覗っている高位貴族の連中が、こちらを睨んでいる。



 超高位貴族である、ヴァネッサとの先約。

 それに横入り出来るのは、同等以上の貴族位だけ。

 この学校でヴァネッサに匹敵する高位貴族はルーナくらい。


 貴族位だけで言えば、リオネリウスのレヴォーグ公爵位が一番高いけれど、ここは聖教国。

 帝国貴族位は、それ程影響力は無い。

 そもそも、リオネリウス自身は爵位を笠に着るタイプじゃないし、ヴァネッサやルーナに敵対する理由も無いから、派閥も作らないし。


 …むしろ、リオネリウスがヴァネッサの派閥に入っていると思われてるのかな?

 そう考えるとヴァネッサ派閥って、この学校では最強の派閥になってない?

 もしかして、ヴァネッサ派閥を切り崩したくて、私を引き抜こうとしているの?


 父ちゃんのバルト家は、父ちゃんの活躍のお陰で、今では聖教国・帝国共に影響力があるらしい。

 教皇直々に、父ちゃんへの感謝を高位貴族達の集まりで述べたそうだし…。

 ヘルメスの奴が、父ちゃんを『自分の部下』と発言したという話は腹立つけれど、今だけ言わせてやる。


 「ちょっと…ジェシカ様…?」

 「あ…フローレンス様…」

 「レータは下がってなさいな」

 一喝されて下位貴族の少女は委縮してしまい、道を空けた。


 「私のサロンに一度くらいは顔を出して下さっても良いのでは御座いませんの?

 昨日も一昨日も同じ言葉では御座いませんか。

 本当にヴァネッサ様とのお約束が御座いますの?」


 ボス猿の高位貴族が割り込んで来た。

 名前は…先程、レータさん?が呼んでいたわね。

 ふ…ふ…何とか様…忘れた。

 まぁ、どうでもいいか。


 「ちょっと…!聞いてらっしゃるの!?」


 私が下位貴族だから、逆らえないだろうと考えている?

 …そう考えると、私って入手し易いワイルドカード的な立場だと思われている?


 初めに声を掛けてきた下位貴族の令嬢がオロオロとしてる。

 どうすれば良いか分からずに瞳を潤ませながら、高位貴族と私の顔を交互に見てる。


 「…!無視…ですか…?私を馬鹿にしてらっしゃるの…?」

 彼女は顔を歪ませブルブルと震え出した。


 少し無視して考え事していただけなのに。

 …あ…確かに無視してたわ。


 「ああ…申し訳御座いません。少し考え事をしていたもので。

 それでは失礼致します」


 そう言って踵を返す。


 「…!愚弄するのもいい加減にしなさい!」


 彼女は、怒りに任せて手を振り上げた。

 周囲から悲鳴が上がった。


 パァン!!!


 彼女の手が私の顔に炸裂する…!様に見せて、寸前で避けて盛大に転ぶ。

 その際に『音』の魔術式で、強く叩かれた様な音を周囲に響かせた。


 下位貴族の令嬢は、「ひっ!」と悲鳴を漏らして、頭を抱えながら後ずさった。

 手を振り抜いた高位貴族の令嬢は、「えっ!?」と声を漏らして、自分の手を見た。


 周りで見ていた生徒達は慌てて、彼女を押さえ込んだ。

 「フローレンス嬢!何を考えているんだ!いきなり殴り掛かるなんて!」

 「…え?そんな!当たってませんわ!彼女が勝手に転んだだけです!」

 「何を言っている、はっきりと叩く音を聞いたぞ!」

 「えっ!?えっ!?そんな!違いますわ!!」

 「寮監を呼べ!」

 「私はやってませんわ!きっと魔術式ですわ!波形魔術式でぶたれた音を出したのです!」

 「国家魔術士資格所持者でも、あんなにタイミング良く魔術式を使えるわけが無いだろう?

 波形魔術式を特定の音()()にする事なんて出来るわけが無い」


 結構な騒ぎになっちゃった。

 私は、仕事の時の要領で気配を消しながら、そっと起き上がった。

 そして、誰も自分に注目していない中、それでは失礼致します。と小声で言って、彼女を中心に皆が騒いでいるのを横目に退室した。


 「違うのです!私は叩いてなどいません!」

 「…おい!被害を受けた女生徒はどこだ?」

 「あれ…?確かさっき迄ここに…?」

 食堂の中から、彼女の声が廊下まで響く。

 私とは入れ違いで、何の騒ぎだ?、と言いながら生徒達が入って行く。


 ロビーを通り過ぎて、部屋への階段を上がろうとした時、受付の女性に声を掛けられた。


 「あの…食堂で何か騒ぎがありましたか?

 何やら生徒達が騒いでいる様ですが…」

 「ええ…どうやら、高位貴族の令嬢が他のお嬢様に手を上げたらしいですわ…暴力だなんて怖いですわね…」


 私は何食わぬ顔で話して、階段をゆったりと上って行った。


 ほんと…暴力って嫌ねぇ…

 くすくすくす…


 自分で呟きながら笑いが漏れた。


 あ…いけない。受付嬢が変な顔してこちらを見てる。


 …でも、面白かった。

 あの高慢ちきな顔が。大嫌いな貴族が。

 冤罪だって泣き叫ぶ様子が…。


 くすくすくす…。

 

ジェシカの『貴族嫌い度』を表現したかった。

仲間には優しいけれど、それ以外にはトコトン冷たいジェシカ嬢。

涙目の下位貴族も、別に助けようとは微塵も思っていません。


波形魔術式は体内魔素を波形にして体外へ押し出す魔術。

魔素の波を特定の波長に固定するのはヴァネッサやジェシカ並みに熟練していないと無理。

まして、特定の音だけを出すように空気を震わせるのは、熟練の波形魔術式遣いでも難しい。


オマリーやアゴラの様に、声の波に乗せて相手に強い波長をぶつけて、神経や筋肉を麻痺させる使い方や、ヘルメスの様に言葉に乗せて耳から脳神経に影響を与えて魅力する等が主な使用方法。


単純な音を出す方が、実は難しい。


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