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神代の魔導具士 豊穣の女神  作者: 黒猫ミー助
ソルガ原書
103/287

◆4-9 リオネリウスの都合

クラウディア視点




 「それで、いつ行く?今?今?今でしょ!」

 カーティ教授が部屋の中で踊っている。


 「どうするのよ…アレ…手に負えないわよ」

 「変人とは聞いていたが…あそこまで貴族の枠組みをぶち壊す人物だとは思ってもみなかった…どうするかな…」

 「…二人共、酷い言い方だね…」

 「そうよね〜。酷いわよね〜。私の事何だと思っているのかしらね〜」

 3人でヒソヒソ話していたら、いきなり教授が顔を突っ込んで来た。


 「話が進まないから、さっさと条件を話してくれないかしら?」

 私が諦めてリオネリウスに話を促した。


 リオネリウスは溜息をつき、一度咳払いをした後で話し始めた。


 「実は、聖教国の重要人物を我が国に招きたい…と、考えている。

 本当は枢機卿や教皇猊下を招きたい処だが、今現在のオレの実力で招く事の出来る人物限定で…と条件をつけられてな…」

 「随分とぶっちゃけたわね…取り敢えずの間に合わせか…」

 「え?…どういう事?」



 帝国の王子達は、それぞれ与えられた分野で己の実力を示さないとならないとのこと。

 その成果をもって、今後の帝国内での力関係が決まるそうだ。



 第1王子は貴族と軍隊。


 高位貴族達の取り纏めと、軍内部で自身の実力を示し貴族軍人達の信頼を得る事。

 その為に、地方の野盗や反乱地域の平定を先頭に立って行わなければならない。

 臆病者には向かない仕事。


 軍の最高指揮官となるので、当然、次期王帝の最有力候補。

 有能さを示せれば絶対的安定の地位。下位の王子達がひっくり返す目は無くなる。


 但し、過半数の貴族軍人達の支持が得られず、軍部を分裂させると内乱になる可能性が高くなる。

 内乱になったとしても、それをすぐに平定して実力を示せば問題ない。

 即時鎮圧と苛烈な事後処理で国を安定させる事が、大切な仕事。


 もし己の力で平定出来ず、レヴォーグ家の親戚筋や他の高位貴族達が乗り出して来たら、平定後に合議される事になる。

 もしも親族合議の場で無能判定されて見放されると、一気に転落する怖い地位でもある。

 転落した場合は反乱を扇動する可能性を考慮され、ほとんどの場合、次期王帝により処刑されてきた。



 第2王子は議会と貿易。


 貴族上院議員から市民下院議員までを含めた多数の議員達から見下されない為の伝手(つて)や根回しを覚え、且つ、他の大国との貿易・取引で成果を出す事。

 その為に、帝国周辺の大国の貴族や豪商達と大きな契約を取り交わし、上下議員達を上手く使い新たな法律を制定するなどして、貿易が円滑に進む様にしなければならない。

 帝国内の立法と司法を思い通りに出来る仕事。


 軍の『暴力』には敵わなくとも、法の『暴力』を行使出来る地位。

 裏から国を牛耳り、人心掌握と手練手管で第1王子を追い落とせる可能性のある立場。

 ただしこれも、多数の貴族上院議員達の支持が無ければ、ただの案山子(かかし)


 本人が有能で第1王子が平凡以下なら、王帝に成れる可能性が最も高い。

 第1王子が有能で(くつがえ)しようのない実力があっても、自分自身の成果を示して認められれば、宰相の立場に就ける。

 例え平凡でも、波風立てずに上手く議会を回せれば、比較的安全な議会議長の地位を確保出来る。

 しかし、もし無能判定されると、貴族議員達自身の身の安全の為に、第1王子への生贄として差し出される可能性の高い危険な場所でもある。



 第3王子は市政と外交。


 騎士団を統制した市政の監視と管理、そして行政の統括。

 しかし、こちらはおまけでしかない。重要なのは外交。

 自身の実力、且つ、可能な範囲内で、外国の重要人物達と繋がりを作り、それを帝国内に示す事。

 その際、帝国民にも知名度のある人物でなければならない。

 人望の薄い人物には向かない仕事。


 数代前のレヴォーグ家当主が、聖教国教皇との繋がりで現在の地位を手に入れた。

 その為、伝統的に必ず子供達の内の一人は、聖教国との繋がりを強める為の専属外交を担う事になっている。

 その王子が、どの程度聖教国の重要人物達と『縁』を作れるか。

 その『縁』の価値を帝国内で判定し、今後、王子自身がどの程度重用されるかの指標となる。


 これは跡目争いには、ほとんど影響しない。

 外交の為に聖教国に入り(びた)るので、専属外交担当の王子自身は帝国内での知名度が低くなり、帝国市民達からの支持を得るのは難しいからだ。


 成果を見せる意味は、上の二人の補佐官の地位につけるか否かの判定用だ。

 聖教国の教皇や枢機卿、若しくは軍部に近しい重要人物と『縁』を結べば、王帝の首席補佐官に成れる可能性がある。

 聖教国の政治・経済に影響力を及ぼせる重要人物と『縁』を結べば、宰相の首席補佐官に成れる可能性がある。


 例え重要人物でなくとも、多数の聖教国貴族と『縁』を結べれば、軍幹部や貴族議員。

 普通程度の人間関係が作れれば、どんなに低くても騎士団総長程度には成れる。

 とはいえ、目に余る結果をもたらせば廃嫡されて、代わりの兄妹達が送り込まれる事になる。

 だから、あまり手を抜く訳にもいかない。



 「それで、聖教国の有名人を招いて帝国で来賓パーティを開く事が、オレの成果になる訳だが…。

 つい…カーティ教授なら帝国でも有名だし…と思ってな」

 「パーティに出て、只飯食べたら図書館入れてくれるの?大歓迎だよー」

 カーティ教授が私達のヒソヒソ話に顔を突っ込む。


 皆は黙って、彼女を残したまま位置を移してヒソヒソ話を続ける。


 「二つ返事どころか、一つも考慮せずに了承してもらえるとは考えて無くて、戸惑ったのもあるんだが…」

 「この人を自分と『縁』のある貴族だと紹介すると、逆にアンタが笑い者になる…かもしれない」

 「…うん…まぁ…早く言うと…そんな感じ…だな…」

 リオネリウスが言い淀む。

 「笑い者…?なんで?」

 イルルカが素朴な疑問をぶつけてきた。


 「本当は枢機卿、ヘルメスやイリアス猊下辺りを招きたいが、若輩の王子では荷が勝ち過ぎるわよね。

 だから、この教授程度がやっと。

 でも、いざ誘ってみたら、ヤバい人物の雰囲気が感じられて、帝国の貴族達に紹介して良いかどうか迷っているのよ。

 食事のマナーも知らないんじゃ無いかと疑っているのでしょう?」

 「お前…少しは歯に衣着せたらどうだ…?

 いや…まぁ…その通りだが…」

 「なんか、馬鹿にされてる気がするのよね。特にクラウディアちゃんに。

 これでも私、高位貴族なのよー?

 数年前までは、ちゃんとしてたのよー?

 マナーも何もかも、お茶の子さいさいなのよ?」

 再び、カーティ教授が頭を突っ込んできた。


 「そんな!この私が、敬愛する教授を馬鹿にするなんて!

 そんな事、考えた事もありませんわ!

 今現在ちゃんとしていない事を自覚していたなんて、吃驚(びっくり)して尊敬し始めたところですわ!」

 「クラウディアちゃん…嫌味が刺さって、流石の私でも痛いのよ…?もう少し丁寧に優しく扱ってくれてもいいのよ…?」


 「エレノア様に変な嫌疑をかけた上、いきなり抱き着いてくる人に、どう丁寧に対応しろと…?」

 「嫌疑ではないの!確信よ!エレノア司教はミランドラ卿!」

 「一体、何の話だ?ミランドラ卿?」

 

 イルルカが、カーティ教授はエレノア司教をミランドラという魔導具士だと思い込んでいる事を説明した。


 「ミランドラ卿か…噂は知っていたが…。

 本当はミランドラ卿と接触出来れば、彼を招待したかったのだが…」

 「正体を明かさないという事は、知られたく無いという事でしょう?

 そんな人が帝国の招待を受けるとは思えないけれど?」

 「確かに、それはそうだな…カーティ教授で我慢しておくか…」

 「私、我慢の対象なの?」

 誰も否定はしなかった。


 「兎に角、私は招待されるからね!

 豪華な食事と図書館の鍵を用意して、首を洗って待ってらっしゃい!」

 カーティ教授が宣言してリオネリウスが渋々了承した。


 …立場が可怪(おか)しくないか?

 いや、彼女が可笑(おか)しいのか…


 「…取り敢えずは、成果になるのか…?

 予定通りではあるのだが…教授には侍女が何人も居たよな?

 彼女達を前面に立たせれば、隠せるか…?」

 リオネリウスが、カーティ教授の前だというのに堂々と、()()()()()()()()()()を検討し始めた。



 「それで、私には何の用なの?」

 「ああ、正確にはクラウディアではなく、ジェシカになんだがな。友達だろ?」

 「ジェシカも招待するの?」

 「いや、出来れば彼女の父親を招待したい」

 「…もう、噂になってるの?」

 「ああ、昨日、教皇猊下が高位貴族達の集まりで話したらしいな」

 「え…?ジェシカに何かあったの?」

 イルルカが驚いて説明を求めてきた。


 私は、オマリー神父が『ボガーダンの獣』を退治した事を話して聞かせた。

 そして、リオネリウスは帝国側の事情を説明した。


 『ボガーダンの獣』は、帝国でも貿易ルートの一つを潰した厄介な獣として認識されていた。

 帝国首都と聖教国首都を結ぶ最短ルートだったから。

 まだ帝国には伝わってないが、今後、彼は帝国内でも英雄になるだろう。

 帝国貴族出身なのに聖教国教会神父の地位を持ち、聖教国民達の英雄。

 このインパクトは大きい。


 この前のカニス家の失態を帳消しにするには流石に足りないが、聖教国との関係を修復する重要な(かすがい)になる。

 その英雄を、リオネリウスが後見して帝国に招ければ…

 外交の功績として大きく評価されるだろう。


 「出来れば、その上司であるエレノア司教も招待したいが…」

 「難しと思うわよ。今、物凄く忙しいらしいし…」

 「え?ミランドラ卿が?新しい魔導具でも開発しているの?」

 「だから、ミランドラ卿とは…はぁ…クソ面倒臭い…」

 「クラウディアちゃんに呆れられ、冷たい目で見下されるのも、中々に乙なものね…」

 カーティ教授は嬉しそうに身体をくねらせた。

 「「「うーわ…」」」


 私は敬語で話すのも馬鹿馬鹿しくなった。

 冷たい目で睨みつけると、何故か喜ぶ変態になってしまった。

 …変人教授が変態教授に…



 「それで?

 私に話したのは、ジェシカを説得しろと言いたいの?」

 「…まぁ…そうなんだが…。

 説得してくれないだろうか?と、お願いに来たわけだ。

 自分から話しても、クラウディアに聞いてくれと、丸投げするだろう事は解っている」

 「…そうね、あの娘は嫌な事は丸投げするからね…」

 「帝国王室の貴賓級招待を、嫌な事と片付けるのはお前達ぐらいだ…」

 リオネリウスは溜息をつきながら目頭をおさえた。


 「それで、説得する私には、何をくれるのかしら?」

 「…そうだな…カーティ教授と同じ、図書館の入館許可ではどうだ?」

 「…承りました!」

 「現金な奴だ…」

 リオネリウスは再び大きく溜息をついた。


 「他には誰を招待する予定なの?」

 「理想はさっき言った枢機卿猊下の誰か。だが、これはそもそも無理だと分かっている。

 父上からの招待なら可能だろうが、実績の無い自分の価値程度は知っている」


 リオネリウスは顎に手を当てて考えながら、名前を挙げていく。


 「次点で、今、聖教国中央区で人気のエレノア司教。

 しかし、無理か…?お前が言うなら無理なのだろうな…。

 聖教国の英雄と奇人…いや貴人であるカーティ教授…これだけでも、一応絵にはなるが…。

 もう少し…何か欲しい。

 出来れば枢機卿猊下の親族に来てもらって、実績にしたい処だが…枢機卿猊下の親族で、俺の知り合いと言うと…」


 そう言って、イルルカを見た。

 イルルカは、何のことか分からずキョトンとしていた。

 その後すぐに、リオネリウスの言った事を理解して、イルルカは慌てて拒否した。


 「ぼ…!僕は無理だよ!?

 貴族のパーティなんて!

 無理無理無理無理!」


 「分かってるよ…。

 貴族の基本的なマナーも知らないだろうし…

 どうせ元平民を理由に、性格の悪い貴族共に散々虐められる事になるだろうしな。

 俺も、そういうのは見たくねぇ…」


 「ヴァネッサは?」

 私が聞くと、リオネリウスは渋い顔をした。

 そして、言いにくそうに口を開いた。


 「身分もマナーも見た目も性格も申し分ない…のは知っているんだがな…

 彼女の事を知っている貴族は帝国にも多いんだ…。

 いや、俺は気にはしないのだがな…。

 裏の顔を探られても痛くも痒くもないからな。

 ただ…脛に傷持つ貴族達が逃げ出す可能性があるのでな…」

 「まぁ、そうよね。

 後ろめたい奴等は近付きたくない相手でしょうし」


 他に枢機卿の関係者は知らないしな…とリオネリウスは呟いた。


 「そうだ!ルーナは?

 枢機卿様ではないけれど、侯爵家の令嬢だよ?

 僕みたいな平民から見れば、同じ天上人だしね」


 「ルナメリア=キベレ侯爵令嬢か。

 身分は問題ないのだが…別の問題がある。

 帝国では彼女の事は誰も知らない…と思う…。

 俺もキベレ侯爵の娘の存在は知らなかったからな。

 キベレ侯爵本人なら、かなりの実績になるのだがな…」


 …そうか、ずっと教会で隠して匿っていたからね。

 洗礼式に出席した後は、公の場に姿を見せてないから。


 「でも、身分としては最上の物だと思うわよ?

 今の貴方の掻き集められる範囲内ではね」

 「む…否定は出来ん…」

 「兎に角オマリー様に話をつけるにしても、誰を招待するにしても、まずはエレノア様に許可を取らないと難しいと思うわよ?」

 「それも解っている。

 その為の伝手もお前にお願いしたいから、ここ迄お前達を追いかけて来た訳だしな」

 「…出来ると、約束は出来ない。けど…やってあげるわ。

 図書館の件は、必ず許可をもぎ取ってよね?」

 リオネリウスは安堵して、許可を取る事を約束した。


 「それと…これとは別件なのだけれど、ある人からアンタに繋ぎを取ってくれと泣き付かれてね。もし嫌なら断っておくけど?」

 「ある人…?身分のはっきりしない者には会うわけにはいかんぞ?」

 「ヘレナよ。ヘレナ=コルヌアルヴァ」

 「ああ…わかった。

 何故か皆が妨害するので、疎遠になっていたな。

 後で可能な日時と場所を伝える。

 スマンな。伝書鳩みたいな事をさせて」

 「両方に貸しにしておくわ」

 「利子が高そうだ…」

 リオネリウスは引き攣った顔で苦笑いをした。


 リオネリウスは、今後の手続きの説明があるからと、カーティ教授の部屋に残った。


 私は、変人教授をリオネリウスに押し付ける丁度良い機会だと考えて、魔素マスクをひったくると、足早に彼女の部屋を出た。


 ロビーに行くと、目つきの悪い護衛騎士見習い達が、こちらを睨む。

 リオネリウスの侍女は、アワアワしながら私達を交互に見ている。

 面倒臭いので、私は彼等を無視して受付嬢に馬車の手配を頼み、そのまま建物の外に出た。

 …一緒の部屋に居ると、また難癖つけられそうだし。


 建物の裏手から来た馬車に飛び乗る。

 「ふぅ…なんか疲れたね…早く帰って一休みしたいよ…」


 …今日はイルルカのいう通りに、さっさと帰ろう。

 帰ってルーナを撫で回して昼寝したい…マリアンヌでもいいわ…


 私も疲れた!!

 暫くはカーティにもリオネリウスにも関わりたくないわ!



 

奴隷<平民<兵士<平民議員=騎士団(大体が貴族のみそっかす)


騎士団<騎士団団長=尉官軍人<騎士団総長<貴族議員=佐官軍人<議会議長=軍幹部(将官)


軍幹部<首席補佐官<宰相(普通は第2王子)<王帝(第1王子)


帝国内身分制度。大体こんなカンジ。

もし、第2王子が議会議長に成り、第3王子が首席補佐官に成ると立場逆転。

第3王子は宰相に繰り上がり、側近が首席補佐官にレベルアップ♪

おや…?第2王子の様子が……?

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