表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神代の魔導具士 豊穣の女神  作者: 黒猫ミー助
ソルガ原書
101/287

◆4-7 変人教授の見解

クラウディア視点




 「これでは駄目だろうね」

 カーティ教授の発言を聞き、私は心の中で拍手した。


 彼女は即座に、魔導具の使用目的から欠点までも見抜いた。その上で私を疑った。

 やはり、この人は()い。


 ガラティアお姉ちゃんは、膨大な知識があり多種多様な魔導具や機械の作製方法を知っているが、それをどの素材で作製すれば適当かを知らない。


 正確には、彼女は元の素材を知ってはいるが、『現代』の素材を使用した再現方法を知らない。

 『太古』の時代にあった、数々の便利な素材で作製する方法を知っているだけ。

 だから私は彼女の知識を元に、『現代』の素材で試行錯誤して再現してきた。

 何度もトライ・アンド・エラーを繰り返して。


 今回、ガラティアお姉ちゃんがろ過素材として提案した『炭素ナノ繊維』なんて、聞いたこともないし入手方法もわからない。

 どういう物か、どうやって作るかも分からない。

 この意識の差を埋める方法を、随分前から考えていた。

 彼女自身も、この『時代』の素材をどうやって自分の知識に近づけるか、苦労していた。


 『魔導銃』を製作する時も苦労した。

 魔石と魔素制限回路の耐久度、発現回路と銃本体の強度、何度も試行錯誤した。

 最終的な設計図はガラティアお姉ちゃんが示してくれるから、そこへ向かって走ればいい。

 けど、普通の素材で突っ走って何度も暴発の危機に直面した。

 今使っている魔導銃ですら、彼女の設計予定数値を大幅に下回っている。


 …未だにボルトアクション式だし。

 …ブローバックとかに必要なマイクロミリ単位の調整なんて、熟練の金型工でも無理なのよ…。

 お姉ちゃんの話では、手作りで作製した職人が何処かの島国に居たとかナントカ…大法螺吹いてたけどね。

 …本当だったらバケモノよね。大金積んで雇うわよ。


 だから、私もガラティアお姉ちゃんも、()()()()()()()()()()



 「…成程、流石カーティ教授ですね。アルドレダ先生にその様に報告しておきます」

 「…彼女は分かっていて、私に聞いてきたのかな?」

 「…?。分からないから聞いたのでは?」

 「…うん…そうだよね…」


 カーティ教授は口元に手を当てて一人でブツブツと呟いていた。


 「それで、どうすれば良いと思われますか?」

 「え…?何が?」

 「このマスク…ですが、どうすれば改良出来ると、教授なら考えますか?」

 私は諦めきれなくて、つい余計な事を訊いてしまった。


 「私ならねぇ…。そうだねぇ…」

 暫く考え込んだ後、徐ろに口を開いた。

 「さっきも言ったように、ろ過装置を改良するしか無い」


 これは普通の素材では駄目だろう。

 使える可能性のある物は『魔導素材』。

 魔素を誘導吸着する素材は、実験で使用する事もあるから何種類か知っているが、マスクのサイズが問題になる。

 私の知っている素材では、ろ過部分に使用出来るだけの素材は手に入らない。

 手に入っても、望む結果が出るかどうかも分からない。

 もっと吸着効率が良くて量もある素材を見つけられないと、これ以上の改良は出来ないだろうね。と、カーティ教授は話した。


 私にとって絶望的な解答だった。

 彼女が、誤魔化しも嘘もついていない事は分かったから。

 彼女が知らないなら、この国では誰も知らないだろう。

 魔素マスクは諦めるしか無いという意味だ。

 それはデーメーテールへの道が、時間の掛かるノーラ頼みの道しか無くなった事を意味した。


 「カーティ教授でも難しいですか…」

 少し残念な気持ちが、口に出てしまった。


 「…あまりお役に立てなくてごめんね。

 帝国の図書館を覗けたら、何か良い素材が見つかるかも知れないけどね〜」

 「帝国の図書館?」

 突然彼女から出てきた言葉に、思わず飛び付いた。


 「聞いた事ない?

 帝国って魔導具開発の先進国だったでしょ?

 嘘か本当か知らないけれど、帝国の図書館には未知の魔導具や魔導具素材に関する本が所蔵されているらしいよ。

 その本を参考書にして魔導具を作っていた…っていう噂」


 その時、それまで黙って聞いていたイルルカが、何かを思い出した様に口を開いた。

 「あっ…!そういえば、僕、聞いた事があります。

 イリアス枢機卿の部下が、この前の事件調査でギルド職員から聴き取りをした時に、職員が雑談ついでに話したそうです」


 なんでも、逮捕された魔導具士ギルドの元副ギルド長が、若い頃に帝国で魔導具製作について学んでいた時の事を、一緒に呑んでいた職員が訊いたそうだ。


 元副ギルド長の当時の上司達が、その本について話していた事があったらしい。

 王宮図書館に貸出を頼むとか、王族の許可が…とか言っていたそうだ。

 彼が必死に頼み込んでも、外国人だからという理由で読ませてくれなかった事を、酒の席で愚痴っていたそうだ。


 「イリアス様が、食事の席で僕に話して聞かせてくれました」

 「食事の席で話す内容?捜査内容話したの…?機密じゃないの…?」


 何を話しているんだ、あの人…

 食事中の沈黙に耐え切れず、話題に困って話したな?

 相変わらず口下手の話下手なんだから…。


 「事件には直接関係無い事だから、友達との話題にでもしなさいって…」

 

 「うんうん、食事中の話題はやっぱり魔導具に関する事が一番だよね〜」

 何故か激しく同意する変人教授。


 まぁ…気持ちは解るけど。

 問題は、同性でこの事に同意してくれる人が、この変人教授しか居ないという事実。


 「未知の魔導具に関する本ですか…」

 「あの副ギルド長が酒の席で話したなら、本が存在するのは間違い無いって事よね〜。読みたいねぇ…。でも、外国人には見せてくれないよねぇ…」


 …私も見たい…読みたい…。想像したら余計に。

 食指が…私の食指が暴走しそう…

 落ち着け…私。ヒッヒッフー。


 「その本を読めれば、このマスクも改良出来るのでしょうか?」

 「…どうだろうね。

 私が今使っている魔素吸着素材より高性能な物が記載されているかもしれないし、無いかもしれない。断言は出来ない。

 聖教国はこの数年飛躍的に伸びただけの、未だに魔導具に関しては後進国だから…読んだ事のある人も居ないだろうし。

 もしかしたら…ミランドラ卿なら読んだ事あるかも知れないけどね…」


 「ミランドラ卿?」

 イルルカが、誰それ?という顔で聞いてきた。


 「えっ?知らない?聖教国一の有名人じゃない」

 「…カーティ教授、ミランドラ卿に関しては、魔導具や魔素の論文に詳しくない一般人には、ほぼ無名ですよ」

 「えっ!そうなの!?あれだけの功績者が!?」

 「え?功績者?」


 カーティ教授は、自身の自慢話をするかの様にミランドラ卿の自慢を始めた。


 魔導具士 ミランドラ卿

 登録時の年齢 32歳

 魔素回路や魔素半導体に関する新たな論文や、新発想の魔導具開発でとても有名な魔導具士。


 「私は、彼が実は50歳を過ぎているのではないかと思います。

 彼の論文は、文法の言い回しや使う単語等が、少し古い気がします」


 私がミランドラの魔導具論文について自分の考えを述べると、それにカーティが応えた。


 「私は、実はもっと若いんじゃないかなと思ってるけどね。

 年寄り臭い言い回しは、自分の年齢を誤魔化す為じゃないかと思うんだ。

 確かに古い文法や単語から壮年以上を連想させるが、文章の合理的で効率的な組み立て方からして、若さを感じるね」


 「合理的で効率的なのは、魔導具士なら当然の性格なのではないのですか?

 わざわざ若く見せる意味が分かりません」


 「若い魔導具士より年寄りの魔導具士の論文の方が、信用度が高いんだよ。

 何だかんだ言っても男尊女卑・年功序列は(くすぶ)っている世界だからね。

 私なんて、どれだけ年齢と性差で苦労したことか…」


 イルルカは、うん?、と言って、二人の会話に疑問を挟んだ。

 「年齢を()()()()?」


 「ああ、一般人は知らないんだったね。

 彼は()()()()なんだ」

 そう言って、魔導具士ミランドラの人物予想を解説した。


 魔導具士として登録され、いくつもの論文や作品を発表しているが、表舞台に顔を出したことはない。

 教皇や一部の枢機卿だけが彼の事を知っていて、正体を隠す事に協力しているらしい。

 その事からも高位貴族だろう事は予想される。

 昔は魔導具士が蔑まれていたから、正体を隠す高位貴族の魔導具士は多かった。

 今は魔導具士の地位も高くなったので、魔導具士○○は実は私です。と公表する貴族も増えた。


 「でも、彼だけは未だに名乗り出ないんだ。

 数々の特許も持っているが、全て教皇を経由しているらしく、最終的に誰にお金が渡っているか判らない。

 私は、魔導具士ギルドのギルド長に、正体を明かせと直談判して名簿を見せてもらった事あるけれど、登録の詳細部分は無記載だった。

 登録年度は今から8年位前だから、登録時の年齢が合っていれば現在40歳かな。

 私はもっと若いと思うけどね…」


 …あの阿呆。勝手に個人情報見せるんじゃ無いわよ…

 やっぱり助けない方が良かったか…?


 「色々な貴族の館や商館で使われている『魔導灯』が、彼の代表作品として有名だよね。

 他にあまり人に知られていない所で、『魔導モーター』とか『魔導圧縮機』とかもあるよね。

 それを応用した『遠心分離機』とか『冷却機』とかもあるんだよ。

 ただ、物凄く高価だから、手工業組合や各種ギルドでは、あまり使われてないけれど。

 精密機械加工部品研究所や薬剤薬効成分解析研究所とかには置いてあるよ。

 実は、冷却機は私も持ってる。

 金貨30枚は痛かったけどね。とても満足さ」


 …お買い上げ、ありがとうございます…。


 カーティ教授の話が止まらない。

 イルルカは目を白黒させて、頷くだけの人形と化している。


 魔導具士ミランドラ

 私の別名。


 エレノアと教皇が協力して作り出した架空の魔導具士。

 私の正体は明かせない。

 でも、作った商品は金になるから売り出したい。

 私も論文発表の場が欲しかった。


 魔導具士ギルドに、トゥーバ・アポストロの中でも特に印象の薄い人物に登録させた。

 その後、登録記録の数字を改ざんして、私が亡命してくる数年前に登録された事になっている。


 私と結びつく物は無い。

 8年前だと、私4歳だし。

 流石に4歳児の魔導具士なんて、誰も考えないわよね?

 …私は4歳の頃から魔導具を分解したり、組立て直したりして遊んでいたけれどね。


 しかし…文法や単語を工夫するだけだと、カーティ教授くらいの変人さんには通じないか…。

 とはいえ、今更文体を変えると目立つのよねぇ…。

 どうするかなぁ…?



 「実は私は、ミランドラ卿はエレノア司教と関係があるんじゃないかと考えているんだ」

 カーティ教授の突然の発言に、私はドキッとした。


 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ