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30/31

30,センター

「おっ、てか若じゃん。オッスオッス!」


 遅刻したにもかかわらず、俺を見るや軽いノリでテンション高めにそう言葉をかけてきた、黒髪のツインテールに左右の瞳が紅と碧のオッドアイが特徴的な(もちろんカラコン)、可愛らしい女。


 彼女こそ、この熱狂的なファンに支えられている地下アイドルグループ『とめどなく純情』の一番人気、不動のセンター神峰聖羅(かみねせいら)だ。


 そのノリに対してか、ルックスに対してかは不明だが、隣に立っていた鵜崎も驚いた表情を浮かべていた。


「おう、久しぶりだな聖羅。なんだか……痩せたみたいだけど、ちゃんと食ってるか?」


「分かる―? ダイエットの成果、めっちゃ嬉しーんだけど!」


 聖羅は元々細身ではなかったが、今は明らかに細くなっていた。

 ダイエットとは言っても、急に体重を落としすぎではないだろうか。


「このグループは激しいダンスも持ち味なんだろ? 厳しすぎる食事制限なんかで、倒れたりすんなよ?」


「って言っても、ダイエット始めてからの方がめっちゃ動けるようになってるから、心配ご無用!」


 聖羅はそう言ってサムズアップをして見せる。


「聖羅ー、遅刻は罰金千円だからー」


 背後から、メンバーの一人が声を固くして聖羅に向かって言う。


「はいはい、分かってるってー。言われなくっても社長に罰金払っとくから」


 悪びれた様子もなくヘラヘラ笑いながら、聖羅はそう返答した。


「罰金、払えば良いってものじゃないっしょ。最近あんたさ、遅刻多過ぎなんだよ。センターでファンも多いからって調子乗ってんの?」


 どうやら聖羅は遅刻の常習犯のようだ。

 それに対して、メンバーは憤りを覚えているようで、責めるように言った。


「調子には乗ってないけど、調子は良い! 明日の定例ライブ楽しみじゃーん」


 ブイブイ、と調子よく……というか、一見煽っているように聖羅は言う。

 聖羅的には悪気は何もないのだろうが、流石に空気が読めていない。


 聖羅以外のメンバー4人は、聖羅の態度を見て表情を強張らせて……そのまま、言葉を呑みこんだ。

 どうやら、グループ内には既に不和が生まれているようだった。


「はい、それじゃあ聖羅も来たようだし、休憩終わり! 練習、再開するよ!」


 ぱんぱん、と手を叩きそう言ったのはレッスンコーチだった。

 その言葉に従い、グループメンバーたちはダンスレッスンを再開した。


 ライブで何曲歌って踊ってもパフォーマンスを落とさないために、激しい練習をこなしている彼女たち。

 その中でも抜群の集中力を発揮している聖羅。

 レッスンに途中参加のため、体力が余っているだけなのか。

 それともセンターを張るに相応しい体力とセンスをもとから備えているためなのか。

 今日のレッスンを見ただけでは、詳しくは分からない。


 それでも、レッスンが始まる前はあれだけ聖羅に敵愾心を持っていたメンバーも、彼女の練習への取り組みに対しては一切文句を言っていない。

 実力は認めているのだろう。

 だからこそ、遅刻なんてせずに他のグループメンバーと歩調を合わせ、真剣になってほしいと考えているのだ。


『とめどなく純情』のグループメンバーは、基本的に俺が夜回り中に声をかけた女たちだ。

 夜の店を紹介するには年齢がネックだが、ルックスは抜群で根性もありそうな奴らを、ここの社長に紹介した。


 だから、こいつらの頑張りを俺は応援したいと思ってる。

 ……俺に何かできることはないか、社長に色々と事情を聞いてみよう。


「鵜崎、一旦社長のところに戻るか」


 俺の言葉に無言で頷いた鵜崎の視線の先には、誰よりも楽しそうに踊る聖羅がいた。


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