22、約束
両腕を折られた鬼道が痛みに叫ぶ。
だらりと力なく腕を床に這わせている。
「絶対ぶっ殺してやるから、覚えてやがれ……」
まだまだ口が減らない様子なので、俺は折れ曲がった腕を思いっきり蹴り上げた。
大きく身体が跳ね上がり、もう一度絶叫をする鬼道。
「次は両足、いってみようか」
そう言ってから、俺は鬼道の右足に足を乗せる。
徐々に体重を乗せていき、苦しそうな鬼道の呻き声が耳に届く。
それでも、俺を睨みつけるのは止めない。
「やっぱりやめだ」
俺はそう呟いてから、賭けに負けたおっさんどもを見る。
「痛い目見たくなかったら、鬼道を椅子に座らせて縛り上げろ」
俺の言葉に、おっさんたちは鬼道を伺い見る。
誰も進んではやりたがらないようなので、ブラジャーを身に着けたおっさんの顔面を血だらけになるまで殴る。
「や、やる! やりますから!」
それを見ていた他の連中は、素直になって鬼道を縛り上げた。
俺はそれから、こういうこともあろうかと懐に隠し持っていたペンチを取り出す。
「今からお前の歯を抜く。もう二度と悪さをしませんと誓えるようになったら、喋れるうちに話してくれ」
俺の言葉に、椅子に縛り挙げられた鬼道は反抗的な視線を向けてきた。
ありがたかった。
躊躇うことなく、拷問をすることができるから。
俺は鬼道の口を無理やり開かせてペンチをつっこみ、まずは前歯を一本引っこ抜く。
十分に痛みを感じるだけの間を与えてから、次に八重歯を抜く。
呻き声を上げながら涙をあふれさせていたが、構わず3本目を抜くと、
「ず、ずびませんでした……」
と、涙を流して謝罪をしていたが、何を言っていたのか分からなかったのでもう一本いってみた。
「やめでぇっ!」
泣き叫ぶ鬼道の口にペンチを突っ込みながら、俺は言う。
「俺が調べたところによると、お前は薬物乱用、暴行、強盗、詐欺、強姦……殺人こそしてねぇが、何人もの人間を自殺に追い込んだクソ野郎だ。その上バカみてぇな半グレ組織作って、手下どもも好き勝手やってやがる。俺はそういうくそみてぇな野郎が苦しむのを見るのが、たまらなく嬉しいもんでよ」
そう言ってから、俺はさらにもう一本、歯を抜いた。
――麻酔なしの抜歯で、15本。
涙と血で塗れた顔面。
失禁して濡れた下半身と床。
「悪いごど、もう二度どしないがらぁ……。ゆるじてぇ」
「そのくらいにしといたらどうですか、若?」
溜め息を吐きながら俺にそう言ったのは、葛城だった。
「……そうだな。流石に飽きてきた」
楽しい拷問の時間は終わり。
最後の意思確認をする。
「もう二度と悪さはしない。薬にも関わらない。ウチのシマにも手を出さない。俺の言葉には絶対に逆らわない。これが守れるなら、解放してやる」
俺の言葉に、何度も首を縦に振る鬼道。
拷問の成果は十分あったようだ。
「今日のところはこのくらいにしておくが。今の約束をたがえたら、次は残りの歯と手足の爪と両耳、それから両目と鼻がなくなるので、覚悟をしておいてください」
俺の言葉を聞いた鬼道は、最後の脅しを聞いちゃいなかった。
なぜなら、この地獄から解放されることが分かり、安堵して失神してしまったからだ。
それを見てから、俺は葛城に声を掛けた。
「うし、俺が仕事してる間、葛城も色々やってくれてたようだな」
「下っ端のチンピラと変態親父どものガラは抑えてます」
今この倉庫にいるのは、俺と葛城と鬼道だけ。
「こいつ、医者に連れてやってくれや」
「手配しておきます」
そう言ってから、葛城は電話をした。
血と汗と体液の臭いで、倉庫内はすっかり臭くなっていた。
俺は失神した鬼道と電話をしている葛城を残し、倉庫の外に出る。
すると……。
「あの……助けてくれてありがと」
外に出た俺に、バカ女が声を掛けてきた。
そう言えばこいつを助けるためにカチコミを掛けたのを、すっかり忘れていた。




