ハーフエルフの扱い
森の中……村を訪ねてきたエルフ、そしてハーフエルフの子供。理由はわからないが、ここに置いてくれと頼み込む女性に、ダーネスさんは冷たく答えた。
断る、と。すまないとは言いつつ、それはうわべだけの言葉だと、私には思えた。
「そ、そんな……」
「……ねえ、どうして置いてあげないの?」
「れ、レーアちゃん!」
ダーネスさんが断った理由が、わからない。他の大人も、それで当然といった顔をしている。なんだ、どうしてだ……人間族や獣人族から迫害されている、同じエルフ族じゃないか。なのに、どうして。
気づけば私は、一歩前に……ダーネスさんと女性の間に、割り込んでいた。
「レーア……?」
「困ってるじゃない。同じエルフ……仲間でしょう? だったら……」
「仲間……? ……違うよ、レーア」
仲間……その言葉を、ダーネスさんは否定した。そして、私に向き合い、しゃがみ、私に目線をあわせて……私の頭に、手を、置いた。
まるで、子供に言い聞かせるように……いや、実際に子供に言い聞かせる、そんな表情を浮かべていて。
「人間族は、俺たちエルフ族を森の中へと追いやった……いわば敵だ。あの子は、そんな人間の血が入ったハーフエルフだ……そして、その母親も、また人間と密な関係を持ったということだ」
それを、当たり前のように……言っている。他の大人たちも、みんなそれが当たり前のように。
つまり、つまりだ。エルフ族は、人間族を敵視している……迫害され、こんな森の中に追いやられたのだから、それはわかる。だから、人間の血が入ったハーフエルフを拒絶する……これは、どういうことだ。
人間の血……半分が、人間の血だから、あの子はエルフなのに仲間に入れてもらえない。それに、その母親は当然、人間と関係を持って子を生んだ……
血は純粋にエルフのものでも、人間とそういう関係になったら……それだけで、あの温厚で優しいダーネスさんが拒絶するほどの、ことになるのか。
「そんな……」
向こうに見える、ラニーニさんは絶望に表情を染め、膝をつく。娘であるサニラちゃんは、まだ状況が理解できていないようで、首をかしげている。
あの様子……もしかして、ここ以外でも同じような思いを味わってきたのだろうか。他にもエルフのいる場所を訪れ、断られ、その度に傷ついて……
「……」
もしそうなんだとしたら……あの、汚れた服も体も、あらゆる所に訪れて。もしかしたら、ここに来るに至った経緯は、今のやり取りと同じように人間との関係がバレて、追い出されたのかな。
それでいろんな所を巡っていったのに、そこで断られ続けたんだとしたら……
「そんなの、悲しすぎる……」
「ん?」
目の前のダーネスさんにも聞こえないくらい、小さな声で私は言う。でも、そうだろう。
エルフ族が人間をよく思っていないのは、今の話でよくわかった。だけど、だからといって、それで人間の血を引くってだけでハーフエルフを拒絶するのは、変だ。その母親だって、ただ人間と関係を持っただけなのに。
ちゃんと愛し合ったのか、それもわからない。ただ、こうして二人だけでここを訪れたってことは……サニラちゃんの父親は、いないってことは……一緒に行動していたけど道中息絶えた、とかでなければ。
考えたくないけど、サニラちゃんの父親とは愛し合っていなくて、無理やり……その結果サニラちゃんが生まれたってことだとしたら、人間と密な関係どころじゃない。むしろラニーニさんは被害者の立場じゃないのか。
私は、二人を庇うように、立つ。両手を、広げて。
「れ、レーア……?」
「二人が、かわいそうだよ! 事情も聞かずに、追い返そうとするなんて!」
この子供がハーフエルフだからって理由だけで、みんな拒絶している。それは、おかしな話だ。せめて、この人たちの、言い分を聞いても、いいじゃないか。
自分が元人間だから、こういう疑問を持っているのか……他の子は、わからないと首をかしげている。でも、こんなのはおかしい!