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転生エルフの復讐劇  作者: 白い彗星
平和な日常
3/24

遊び相手



 私は、一度死に、この異世界にエルフとして転生した。


 そう、受け入れるのに時間はかからなかった。なにせ、家の窓の外から見える景色は、私の知っている現代日本ではなく……深く生い茂った、緑の木々が広がっていたから。そして、外にはたくさんのエルフがいたから。


 赤ん坊である私は、首が動くようになっても、体がある程度自由に動かせるようになっても、せいぜい窓の外を覗くことしかできない。外には出られないし、喋れもしないから暇を潰す時間が、それしかないのだ。


 そうして、ここで過ごすうち、私は両親からの愛情を受けてみるみる育っていった。はいはいができるくらいになってからは、家中を動き回ったものだ。


 その度に、母さんに叱られる。危ないから見てないところに行っちゃいけません、と。逆に父さんは、元気でいいじゃないかと笑っていた。



「ライヤーさん、こんにちはー」


「おぉ、もうこんな時間か」



 父さんは、どうやらここではみんなから結構頼りにされているらしい。日々誰か訪ねてきては、仕事を依頼していく。みんなに頼られる父さんが、ちょっぴり自慢だ。



「ミリィさん、こないだのお裾分けありがとうね。はい、これよかったら」


「まあ、ありがとう!」



 母さんは、とにかく近所付き合いがうまい。世渡り上手……ってやつだろう。人と人との輪を広めていっている。


 こうして、毎日のように人が訪れる。だから、自由に動けるようになってからは、自室ではなくいつもはいはいでリビングにいるのが日課になっていた。暇より、賑やかの方がいいから。


 すると、赤ん坊に興味を惹かれる人も多いわけで……



「まー、レーアちゃん、今日もかわいいわねぇ」


「ほぉ、もうこんなに大きくなったのか」


「めんこいのぉ」



 と、まあいろんな人が接してくれるわけで。まだ「あー」とか「うー」しか喋れないため、会話はできないが、とりあえずきゃっきゃ言っとけば大人は喜ぶ。お年寄りは特に喜ぶ。


 とはいえ、転生してからまだ、私はエルフの子供と接していない。小さな子はみんな外で遊んでいるから、わざわざここに来たりはしない。


 だが、それでも日々は、変化していくもので。



「こんにちはミリィさん。ほら、あんたも挨拶しな」


「……どうも」



 それは、かわいらしい少年だった。一見すると男の子か女の子かわからなかったが、声が男の子だった。ズボンも履いてたし……って、判断材料少なすぎるか。ただ、目付きはよろしくない。


 短く切ってある金髪に、目はまんまるとしている。母親だろう、その腰よりも少し小さいくらい。歳は、どれくらいだろう。私とあまり変わらないのか、それともエルフだからあれで何十年生きているとか。


 とにかく、初めて訪れた男の子に、私の興味は惹かれていた。



「あー、あー」


「……ん?」



 男の子の足下まで移動し、ズボンを引っ張る。こうして、自分から誰かに接近するのは初めてだ。


 しばし、見つめあう。



「あらあらレーアちゃん、今日もかわいいねぇ」


「あーぅ!」



 この人はよく来る、母さんのママ友だ。けど、息子らしきこの男の子は初めて見る。本人は意識していないのだろうが、そんな目で見られたら普通の赤ん坊なら泣いちゃうぞ。


 それから、男の子は私に手を伸ばして……



「ぅ……?」



 頭を、撫でられた。


 小さな手だ。けれど、あたたかい……なんだか、安心してしまうような。



「あらあら、この子がこんなことするなんて、珍しいわね」



 すると、しゃがんだ母親らしき人が、男の子の頭をわしわしと撫でる。男の子は不機嫌そうな表情になるが、手を振り払いはしない。


 なんだ、撫でられて照れているのか?



「レーアもなついてるみたいね。二人で少し、遊んで来たら?」


「この子はダン、レーアちゃんよろしくね」


「あーぃ!」


「ちょ、ちょっと勝手に……わわ!」



 この男の子は、ダンという名前なのか。ようやくしゃべったと思ったが、遊び相手ができた私はいそいそと服を引っ張る。


 男の子……ダンはやがて呆れたように、ため息を漏らして。部屋に移動し、遊ぶことに。


 とはいっても、部屋の中でできることなんて、おもちゃで遊ぶことくらいしかできないけど……異世界のおもちゃ、というのは非常に私の興味を引き、遊ぶのに退屈しなかったが、一人で遊ぶのもさすがに飽きてきた。遊び相手ができたのは、幸いだ。



「はぁ、なんで俺がこんなことを」



 と言いつつ、ダンはちゃんと私の遊び相手を務めてくれた。きっと、面倒見がいいのだろう。


 それ甘えて、私はおもちゃで殴ったり蹴ったりもした。時々不機嫌な顔をしたが、それでも本気で怒ることはなかった。



「まあ、すっかり仲良くなったのね」


「……ろこああよ」



 どれくらい時間が経っただろう、部屋に足を踏み入れたダンの母親は、私たちを微笑ましそうに見つめていた。しかし、ダンの返事ははっきりしないものだ。


 それもそのはず、私がダンの口を引っ張っているから。うまく声が出せないのだろう。



「今日は遊んでくれてありがとうね、レーアちゃん」


「俺が遊んでたんだが!?」



 最初見た時はぶっきらぼうというか、無口な少年だと思っていたけど、遊んでみると結構世話焼きで、面白い子だというのがわかった。


 その日を境に、ダンはちょくちょくウチを訪れるようになった。

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