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転生エルフの復讐劇  作者: 白い彗星
平和な日常
2/24

エルフとしての転生



 私は、一度死んだ。


 夢や物語の中の話ではない。私は一度、確かに死んだのだ。原因は……なんだったか。事故だったか、それとも事件だったか。今となっては、憶えていない。


 けれど、再び目を覚ましたときのこと……あのときのことは、今でも鮮明に思い出せる。



「……ぁ?」



 死んだはずの私の目に映ったのは、青い空だった。雲一つない、快晴……気持ちのいい、青空。あぁ、でもこれは窓の向こうの景色、か。


 ほんの数瞬間前まで、痛みに悶えていたはずの体……不思議と痛みはなく、代わりにあるのは自由に動かせる手足。でも、自分の意思で動かせる反面、思ったほど自在に動かすことができない。


 記憶していた手足の"長さ"が、違ったのだ。



「あら、目が覚めたみたいね!」


「おぉ、そうか!」



 声が、聞こえた。若い女と男のものだ。必死に視線をさ迷わせる。首はうまく動かない。しかし、視界に映りこむものがあった。


 さらさらの金色の髪、うっとりしてしまうほど輝く緑色の瞳、そして長く尖った耳……それは、多くの創作物で登場する、エルフという種族にそっくりであった。え、異世界……?


 どうやら私は、この女の人に抱えられているらしい。頭を持たれている感覚。そして、この角度……私を見つめる微笑ましい笑顔……



 『転生』



 そんな言葉が、ふと頭に浮かんだ。馬鹿馬鹿しい、漫画の読みすぎだと笑いたくなった。けれど、自由にならない体が、私を見る目が、まるで赤ん坊に対するそれと同じだった。


 せめて鏡でもあれば、と思うが、この部屋の中にそれらしいものは……ダメだ、首が動かないからよくわからない。言葉でも話せればいいんだけど、出てくるのは「あぅ」だの「うぁ」だの……まるっきり赤ん坊のそれだ。


 死んだ……その事実はあり、それなのにこうして私の意識ははっきりしている。それでも妙に頭がスッキリしているのは、なぜだろうか。試しに、思い出せることを思い出してみようか。


 ええと……家族構成は、四人。お母さんがいて、お父さんがいて、弟がいて。私は華の女子高生……だったような気がする。料理は苦手だけど裁縫は得意、部活は手芸部に所属していた。うん、学校には通っていたっぽい。


 それから……友達は、それなりにいたし。彼氏は、いなかったけど。あぁ、死ぬ前に彼氏作ってリア充の仲間入りしたかったなぁ。死因は……ダメだ、思い出そうとすると体が震える。もう少し落ち着いてから思い出すことにしよう。


 後は……そうそう、名前。自分の名前だよ、一番大切なことじゃないか。ええと、私の、名前……名前、は……



「レーア」


「!」



 名前……それは、思い出すよりも先に別の方向から呼ばれた。


 それは、私の名前……なのだろうか? いや、私は日本人だ。あ、元日本人だ。ここが異世界だとしたら。だからレーアなんて、外国の名前っぽい名前なわけがない。


 じゃあレーアってのが今の私の名前で……でも、妙にしっくりくるのはなんでだろう。もしかして、生前の私は『レーア』に似た名前だったのだろうか。



「レーア、今日もかわいいわ。あぁ、私の娘、いや天使……!」



 と、私の名前を呼ぶ女性は私の頬に自分の頬を擦り付けてくる。すりすりしてくる。あぁ、夢かと思ってたけど人肌があったかい……やっぱり現実?


 娘、ってこの人、お母さんなのか……ずいぶん若いな。パッと見、20代で全然通るぞ。あ、でもエルフって長寿って設定だから、見た目はこうでも中身はかなりのおばあちゃんの可能性も……


 ていうか、ここが異世界だとしたら、この世界にも天使って概念あるのね。



「ずるいぞミリィ、我が娘を俺にも抱っこさせてくれ」



 横から私を、というか私とミリィと呼ばれた女性(ははおや)を抱き締めるのは、おそらく父親だろう男性。てか娘言うたし。む、これまた若い……しかもイケメンときた。おぉ、まつげ長……!


 いいなぁ、私もこんなイケメンと青春してみたかったなぁ。ミリィさん、こんなイケメンとイチャコラしたのか……まったくうらやましい。今の私にこの人の血が半分流れてると思うと、ちょっと興奮するな。


 エルフってのは、ミリィさんみたいに長い長髪が映えると思っていたけど……うん、短髪もありだね。切り揃えた髪から覗くまつげが素敵だわ。


 あー、私この人たちのことお父さんお母さんって呼ばなきゃいけないのか……さすがに名前で呼ぶわけにもな。まあまだ喋れないんだけど。てかミリィさんおっぱいでけぇ、ふわっふわだよ、うらやましい。


 あれ、これをうらやましいって思うってことは、生前の私はお胸が……



「見てこのキラキラした瞳、きっとあなたに似たのよ」


「このサラサラの髪はキミ譲りだろうね、顔立ちもそっくりだ。将来は美人さんになるぞ」


「もう、あなたったら……んっ」



 ……あのー、目の前でイチャイチャするのやめてもらえませんかね。見せつけてんのか! キスの経験もない私に見せつけてんのかこら!


 しかし、私の顔はミリィさん似……ということは、今言ってたように将来美人さんになる可能性が高い。おまけにボインか……悪くない。


 とはいえ、目の前でいちゃつかれるのは腹立たしいので……



「おぎゃー!」


「きゃっ……まあまあ、どうしたの?」


「なにか怖いことでもあったのかい?」



 赤ん坊とはいえ目の前でイチャイチャするあなたたちが怖いよ、強いて言うなら。


 声は思ったものを出せない。が、こうやって叫べば声は出る。ほとんど癇癪のようなものだが。


 目の前で慌てる二人……体をまさぐられ、頬にキスされたりもする。その温もり、感覚……やっぱり夢じゃ、ない。となると、この人たち、本当にエルフ……? つまり、エルフの子供である私も……?


 どうやら……私は一度死んじゃった後、エルフとして異世界に転生したらしい。

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