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「先輩……」

 彼が一人で住むアパートは、大学の近く。この近所。はたして場所はどこだっただろう。

 頼りない私を叱責するように、ピースが強くふるえる。道を教えてあげると、他のピースを探すときのように、腕の中のふるえが私の行く道を教えてくれる。

 私の行きたい道と、ピースが教えてくれる道は一緒なんだ。この先に、ピースがあって、そして私の知りたいことがある。

 私はなぜ失踪したのか。

 誰かに――先輩に、はたして私は何を伝えたかったのか。

 

 たどり着くまでの道。ピースを見つけた。

 側溝のどぶをさらうと出てきた。人の家の庭にも埋まっていた。

 まるでヘンゼルとグレーテル。転々と隠されたピースが、行く道を教えてくれる。

 ユイちゃん、と私を呼ぶ声。甘く、粘つく声。それを聞いて、私は一体何を思っていたのだろう。

 一番大事なピースがない。だから思い出せない。こまごまとしたピースに隠された記憶も必要だけど、幼いころの思い出なんてあとでもいい。今は、私の手がかりを集めなければならない。

 核がないといけない。多くを知っているピースがないと意味がない。

 共鳴を続けるピースに導かれながら、私は一歩一歩、先輩の家へと近づいてゆく。家に彼がいるかなんてわからない。でも今は、行くしかない。

 アルバイトに行ってくるね。家族にそう告げた私。いつもならまっすぐ行くはずなのに、その日にかぎって違う道をすすんだ。

 半そでのユニフォームは店についてから着る。ミクリヤと名前のついた私のネームが、カバンの中でケータイとぶつかってかちかちと音をたてる。

 その日で、私はバイトを辞めるつもりだった。それはどうして。そのピースはまだ私の手元にない。

 ぐいぐいと身体をひっぱるピースの共鳴が弱まって、私は目的のアパートを見上げた。錆びついた自転車がいくつもとめられた砂利道。乱暴に停められた車。大学生の集まるアパートなんてどこもこんな感じだ。

 先輩の部屋は二階。私は塗装の剥げた階段を上る。導かれるまま、部屋にたどり着く。

 チャイムは鳴らさなかった。鍵がかかってるのも気にしなかった。

 私は部屋に入り、玄関にちらばった靴を踏んで短い廊下を渡った。ワンルームの小さな部屋。フローリングの上に寝転がる先輩の足がちらりと見える。

 西日が差して、暑くなった室内。開け放たれたベランダの窓。パソコンの画面が、暗いまま室内でたたずんでいる。

 私の腕から、袋からあふれて抱えきれなくなったピースがこぼれおちる。その、どしゃ、という音に気づいて先輩はこちらを向いた。

「――ひッ」

 短く吸った呼気が声帯をふるわせたらしい。先輩が私を見て目を丸くしていた。――そうか、先輩には私のことが見えるらしい。

 声をあげることもできずに硬直する先輩を尻目に、私は背を向けて台所に向かう。この部屋はピースに満ちていて、互いが呼び合う共鳴で部屋全体が振動しているようだった。

 私は冷蔵庫の前で膝をつく。そしてためらいもなく開けた。先輩がやめろと言おうとしたらしいひきつった声だけが、静まり返った室内でやけに響いた。

 中を見て、私はやはりと呟いた。

 食料が少なく、みはらしのいい仕切り板の上に、行儀よく鎮座しているピース。私の記憶に欠かせない、核ともいえる大事な欠片。

 それは私の――ミクリヤユイの、切断された生首だった。

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