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      ○○


 ピースの共鳴を頼りに公園やコンビニなどをめぐり、私は手持ちの数を増やした。

 けれどそれも、あらかた近所を探し回るとぱたりとなくなってしまった。ピースも共鳴をやめ、おとなしく私に抱かれている。パズルのピースなのだから動かないのが当然なんだろうけど、静かにされては私が困る。

 私はとりあえず、手持ちのピースをあわせてみることにした。一定のところに留まったほうがピースも仲間を探しやすいということを学んでいたので、そのまま道路に座った。

 人通りはない。平日の午後だというのに、買い物に出かける主婦の姿ですら見ない。どうもここらへんのアパートに住んでいるのは、家に帰って寝るだけの労働者や学生ばかりのようだった。

 はじめはまったくわからなかったピースも、ふたつみっつなら合わさるものが出てきた。ひとつ、大きくパーツができあがったものもあるけれど、それも単体では意味がない。やはりわけのわからないもののほうが多かった。

 あらためてそれを袋に戻していると、静かだったピースたちが急にふるえだした。ピースの騒ぎが大きいのは、近くに仲間がいるから。でも、あたりには民家の壁しかない。

 ピースの揺れが、他のピースが近づいてくるのを教えてくれる。でも、まわりに動いているものはない。空に鳥の姿はない。

 近づき、近づき、そばに来ると手の中の欠片がさらに強くふるえた。それでもピースの姿はなかった。

 姿の見えないそれは、やがて私から遠ざかっていった。

「……一体、どこに?」

 共鳴をやめたピースを手に、私は呆然と呟く。そして、ふと自分の足元を見つめた。

「地下?」

 この熱したアスファルトの、下。そこにあるのは、と考えればきっと上下水道。たしかにあの流れの速さから考えればそうかもしれないけど、私にコンクリートを突き破ってピースをとりだすなんて荒業はできない。

 今のピースはあきらめるしかない。

 共鳴をやめたピースが寂しそうで、私はごめんねと呟きながら立ち上がる。どうやらこれ以上ここで待っていても進展はないらしい。

 ピースが流れてきた道を頼りにすすめば、またなにか手がかりがあるかもしれない。そう、この先には商店街がある。

 どうやら私は、ここの地理を知っているらしい。


 すこし歩くと、住宅街を抜けて商店街にたどり着いた。さびれがちの商店街は、近所に大きなショッピングセンターができたせいで、かつてあった賑わいが静まりつつあった。

 学生が買い物に行くと安くしたりサービスしてくれたりと、食料品を買うにも外食するにも優しさのあふれた商店街。そこに足を踏み入れると、早速共鳴が始まってゴミ箱から他のピースたちを見つけた。

 それでもだいたい集め終えてしまえば、またピースはぴたりと静かになる。私はなんとかこの状況の打開策を見つけなければと、商店街を歩きながらない頭を懸命に働かせた。

 私はこの商店街を知っている。この地域になじみがある。じゃあ自分は誰なのか。

 ふと、私は電気屋さんのテレビの前で立ち止まった。

 ちょうど、夕方のワイドショーがはじまった時間だった。画面の中で、ピンクのカーディガンを着たアナウンサーが淡々と原稿を読み上げている。政治の話、芸能の話。不思議とその情報は私の頭も覚えていた。

『――帰宅途中に行方不明になったミクリヤユイさんですが、いまだに足取りがつかめていません。警察はミクリヤさんがアルバイトに行くと家族に伝えて家を出たことから、家出と事件の両面で捜査を進めています……』

 ミクリヤユイ。

 画面に映る女子高生の写真を、私はウィンドウにはりついてまじまじと見つめた。

 行方不明になっているのは私だった。

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