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私が次にたどり着いたのは近所のコンビニエンスストアで。共鳴が強いのは店内ではなく、外に設置されたゴミ箱だった。
カラスと家庭ごみを漁ったときにも思ったけれど、どうも他の人は私が堂々とゴミ箱をひっくり返していても気にならないらしい。声をかけられることもなければ、視線を感じることもない。なぜか私を見るのはカラスや猫といった動物ばかりだった。
予想通り、ゴミ箱の中の袋から、私はまたピースを見つけた。けれど先ほどよりは多くなく、あいかわらずどこのものかもわからない。ピースが手のひらにおさまらなくなってきたので、私は集めたものを全部ビニール袋に入れて運ぶことにした。
ピースを集め終わると、コンビニを示していたほかのピースはおとなしくなる。そしてしばらく静まったかと思うと、また新たな仲間の気配を感じて道を示し始める。どうやら店内に興味はないらしい。
せっかく涼めると思ったのに。私はため息をこぼしながらも、ピースにしたがって足を運んだ。照りつける太陽は容赦なく私をあぶり、アスファルトからはいきれがたちのぼっている。早く集めないと、ピースが氷のように溶けてしまいそうで不安だった。
パズルができなければ、私は何も知らないままさまよわなければならない。道行く人に私は誰ですかと訊いたところで、訊かれた人も困って『はぁ?』としか言えないだろう。
ピースが示す道は先ほどとは違う公園につながっていて、私は木陰ですこし休むことにした。喉が渇いても、ジュースを買うお金はない。公園の水のみ場には子供がいて、わたしが近づいても知らんぷりで飲み続けていた。
コンビニの例にならって公園のゴミ箱を探してみたけれど、そこにピースはなかった。隠すほうも、何度も同じ手を使うわけではないらしい。ピースはいぜん公園の中で共鳴しているけど、この広い中で見つけるのはなかなか至難の業だ。
足が疲れて、私は芝生の上に座り込む。ベンチはサラリーマンが寝ていて座れなかった。
なぜ自分はこんなことをしているんだろう。
そう思ったところで、答えを知っているのはパズルのほかにない。集めなければ私はわからないまま。けれど集めるのは難しい。
くじけそうになって、私は横になった。
子供たちの遊ぶにぎやかな声がする。サラリーマンのいびきが聞こえる。風にふかれて木々の枝が揺れ、葉っぱが私に降りそそぐ。梢から見上げた空はやけに青かった。
私が暑さに息をつくと、ピースたちも同じなのかじっとりと汗ばんでいた。あまり暑いところには置かないほうがいい気がして、私はなるべく涼しそうなところにピースを隠す。袋を木の根のくぼみに置いて、ふと、視線を背の低い垣根にやった。
「――あ」
こういうのを、灯台下暗しというのだろうか。ピースは垣根の下にこっそりと隠されていた。木の根で泥まみれになって、なかば埋められているようだった。
数はそんなに多くない。けれど、目についたものを拾うとピースは共鳴をやめた。そしてまた、次の場所を示し始める。もう公園に用はないらしい。
袋を抱えて立ち上がり、私は軽いめまいを覚えた。倒れるほどではなくて、膝をつけばすぐにおさまる。日射病にでもなったのかと思ったけど、どうやらそういうわけでもない。
私はあらためて立ち上がり、公園をぐるりと見まわした。変わったところは何もない、平凡ですこしだけ緑の多い公園だ。
ここに私は、前も来た気がした。そう思った自分に自分でおどろいた。
やっぱり、と呟いてみる。その声を聞いてくれる人はいなくて、すぐに風にさらわれていく。梢のざわめきのほうが大きかった。
ピースを集めると、私は記憶を取り戻していくらしい。これからもっと集めて、パズルを完成させれば、私は自分が何者なのかわかるのだろう。