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笑ってばかりいる  作者: 昼夜寒暖差
平サラリーマンでも闇社会の英雄になれるかな?
2/4

寒さや退屈に負けた時、文明は開かれるという話


外に出て、まずは坂を下っていくことにした。

下級区はいくつかの団地が存在しており、大まかに4分できる。うち2つは北部にある住宅団地。中央から南部に伸びる産業団地、西部にある管理機構である。管理機構が下級区の出来事を上級区、中級区へと報告する警ら隊の運営を行っている。


管理機構から南東に向かって下がるこの坂、まずは中腹の広場まで出てみないことには、道の分岐が出てこない作りになっている。


とはいえ、匂いは商業団地の方からで間違いないだろう。食品の販売提供は9割以上のそこで行われるのだから。


下り坂だから、行きは良い。

急傾斜の階段や、滑り落ちるようなスロープが続くということはない。基本的には平坦な道が敷かれている。


5分ほど歩いたか。


「あれ、匂いは?」


中腹の少し手前で、匂いが途切れた。

さっきまでずっと香っていたはずなのに。


「えぇ、まじか。戻んのか…。」


本当に匂いに近づいていれば、今頃もっと強烈に感じていたはずだろう。匂いも、火の暖かさも。


どうしたものか、ここに歩いて来る間、それらしいものは見かけなかった。

見落としたか?実は家のすぐ近くだった?などといろいろ考えていると不意に背中が、にゃっと伸びる。

腰のあたりを鋭い風がすり抜けていった。

驚いて、緊張してしまった。心臓がにゃーん、と震えて鳴いた。


「風向き、いつ変わった?あれ?ぼく真っ直ぐ下ってきたか?」


そうか、そうか。呟きながらまた興奮してきた。風向きが変わって匂いが途切れた。

完全に匂いを追えなくなってしまったが、恐らく真っ直ぐ下っていけばたどり着きそうだ、そう思いながら二の足を踏む。


「疲れたんだよなあ…。もう面倒くさいなあ。」


目的もなくフラつくのは性分ではなかった。匂いを追いかけている間はそれが楽しかったから良かったものの、ヒントのない謎解きはすぐに匙を投げ出す質だった。

踵を返し、今来た道に向き直る。


ぐぅ、と声を掛けられる。空腹を訴えかけてくる。


「ちょっとコンビニまで行っておくか」


ぐるりとまた身を翻し、中腹の分岐を右折したところにあるコンビニを目指すことにした。


「何食べよっかなあ」


目的さえあれば難なく道中は楽しめる。さて、もう少し夜の街を徘徊しようかな。


おでんはいい、あんまりお金を使わなくても温かい出汁を沢山飲める。コンビニのおでんは最高なんだ。熱々の、しみしみの、ほろほろの。この気持ちを1句したためるならこのあたりの枕詞がつくだろう。


昼間の混雑が落ち着いて、それでもまだ什器に残り続けるおでん具があったら、それはぼくの為にそうなる運命だったのだ。

王道のおでん具もいいが、腹を満たしてくれるのは、変わり種。邪道と呼ぶ人もいるがそれはおでんをアレンジしたと思っているからだ。断じて違う。ロールキャベツにデミグラスではなく出汁を掛けただけ。ウインナーもそう。ケチャップにも合うが、出汁にも合う。蛸串については、


……蛸串については、ここでの言及は控えよう。下級区民は被差別者だから、同じ被差別者にも優しいんだ。


おでんを食べよう。部屋に漂ってきた、炭と香辛料が焼ける匂いは忘れがたく、物悲しいが。帰りがけ見つけたら、それも食べよう。


道を右折するとコンビニの光が路肩まで見えていた。おでんの救助信号を受信した気持ちになり、コンビニへ急ぐ。

入って店内を意味なく一周。新商品を見逃したくない気持ちはあるが、どうせ買わない。

酒も飲まない。飲むのは決まってコークを缶で、300mlのもので。いつか観た映画に影響されてずっとそうして来た。歌が上手くなるほど喉にいいお茶や、水素の音がするミネラルウォーターなんかは目もくれず。添加物を水に溶かしてガスを注入した、この黒い禍々しい飲み物が何より好きだし、おでんと合わないとか、そんな事は気にしない。


思い返すと映画の登場人物はコークを缶から飲み、残り少なになると、ウイスキーを入れて割って飲んでいたが、思春期のぼくはウイスキーは美味しいものではなかったし、コークのウイスキー割を飲むその外国人の【異常さ】だけが光ってみえた。

そこから抜き取って形骸化した、今のルーティンはとにかくコークは缶で、300mlだ。

ペットボトルはもちろん、500mlも違う。


コークは缶で300ml。


おでんは、大根とロールキャベツがあったので。出汁を並々注いでもらった。


出汁をズズズっと啜りながら帰り道をゆく。折角温かいおでんを食べているのに、ルーティンのせいで買ったコーラが上着のポケットからお腹を冷やす。居心地が悪い。


周りのよくある評価もこういうところを見られているのだろう。

墓穴を掘る。自分の首を絞める。自分で墓を用意して人の手を煩わせずに天へ昇る。完全な自己完結にケチを付けられた嫌な思い出も蘇ってきた。寒さというのは、かなり厄介な難敵なのだ。

寒さとグルメと強すぎるこだわり。

もう少しお付き合いいただくところになります。

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