奴隷開放【ウルヘイド帝国】
俺達は一番の問題となる最後の大国である帝国が一望出来る丘の上にきていた。
やはりエマは平気そうな顔をしていても体が震えているな。
無理そうなら一度エマを魔王城へと帰してもいいかもしれん。
この国が一番奴隷を使い、一番奴隷に対して扱いがひどい国だ。
単純に前回も目についた。
一応話し合いをするつもりなんだがこの国だけはどうなるかわからん。
なんにせよ考えていても何も始まらない。
「エマ、もし駄目そうなら無理せず声をかけろ」
「ううん、パパがいるから大丈夫」
無理した笑顔でそう答えるエマ。
本当に強い娘だ。
「それじゃー行くぞ」
俺は城の近くへと転移した。
王国とは違う独特の空気をしている街だ。
「なんだが楽しそうではないわね」
「私は怖いです」
何かと圧力なり制限なりがあるのだろうな。
これを自由とは言わない。
やがて城の正門が見えてきた。
近くにいた兵士に伝言を頼んだ。
「勇者セレネと魔王アルスだ。女王に用があって来た。伝言を頼む」
固まって動かなく兵士。
「俺は気が短い。早く行け」
「はひ」
兵士は気の抜けた返事をして慌てて走って行った。
俺は兵士を待つことなく城へと歩を進める。
「アルス、待たなくていいの?」
「ここは行けるとこまで行く」
あんな奴の返事を待っていたら日が暮れる。
その都度同じことを言えばなんとかなるだろう。
だが、何故か誰からも声をかけられないまますんなりと正門前まで到着した。
兵士の数はいるのに、なんでだ?
「お待ちしておりました。勇者様に魔王様。どうぞこちらへご案内致します」
丁寧に執事が対応してくれた。
俺達は不思議に思いつつも言う通りに城の中をついていった。
しばらく歩くと玉座の間へと到着をした。
「こちらで女王様がお待ちでございます」
扉をくぐると品のない派手なドレスをきた女が玉座に深く腰をかけていた。
「そなたらが勇者に魔王か」
「よく、俺達が来ることがわかったな」
「ははは、そなたの配下が知らせてくれたのじゃ。今日の昼過ぎにたずねてくるとな」
ああ、魔獣狩りの件を任せていた配下が口を聞いてくれていたということか。
「そうだったのか、それはこちらの手違いだ。済まなかったな」
「よい、で奴隷の開放を望んでおる、というのじゃな?」
「そうだ。奴隷制度の撤廃、奴隷の開放、奴隷の生活と安全の保証、それが要件だ」
ニヤーっと嫌らしい笑みを浮かべながら女王は語りだした。
「それは出来ぬ話しじゃ。この国は帝国とは言え自由の国じゃ。強制は出来ん。当然それを成す事も自由じゃ。妾は止めん。お主が全ての奴隷を購入して開放し、お主が全ての奴隷の生活と安全を保証すれば良い」
なるほど。そうきたか。
「わかった。で、この国にはどれくらいの奴隷がいる?」
「さてな。妾とて全ての奴隷の数など把握しておらん。そなたが全ての奴隷を買うと言うのであれば集めさせる事も出来るが数千、数万はおるかも知れぬな」
「では集めてもらおう」
「さすがに直ぐには無理じゃ、後日、日を設けて集めてやろう。だが全ての奴隷が集まるかは知らぬぞ。あくまで自由じゃからな」
「なるほど、その後また奴隷を集めようと、再び奴隷になろうと自由ということだな」
「察しが良いではないか、そなたの有り金全てを使って開放してみせよ。奴隷は所有者の言い値じゃ。到底払えるものではないと思うがのう」
あくまで奴隷は損得に使うか。
俺が買った所で他から奴隷を集めてくる。
どうかすれば金になるからと無理やり奴隷を作ってくるだろうな。
イタチごっこをさせたいわけか。
「言い値は無理だな。この国から奴隷制度は撤廃させる。それまでに奴隷を売りたいと言うヤツがいるなら買ってやるが、奴隷制度が撤廃されればこちらとて買うことは出来ないからな。素直に手放してもらう事になるだけだ」
これまた嫌らしい目をしながら語り出した。
「ここは自由の国。そんな契約は意味がないのじゃ。売りたい物を好きに仕入れて好きに売り、買いたい物を好きに買う。それだけじゃ。それをそなたにいちいち文句を言われる筋合いはないのじゃ」
正論ぽく言い放っているが自由を履き違えている。
『人権』これがなくては成り立たない話しなのだ。
「この国のルールに乗っ取り俺も好きにする事はゆるされるのか?」
「勿論じゃ。ここは自由の国。好きにすると良いぞよ」
俺はこの城全体を魔術で縛った。
セレネとエマを除く全ての者が動きを制限し呼吸すらも俺の監視化においた。
「言葉通り自由にさせてもらう。ひとまずこの城の全ての者の動きの自由と呼吸の自由を奪った。俺の許可なく呼吸するなよ」
「う……ぅ……」
玉座でビクビクなる女王。
軽めの呼吸ぐらいは許してやるか。
「少しは呼吸が出来るようになっただろ?俺の質問に答えろ」
「あ、あぃ……」
「お前達は調子に乗りすぎた。帝国の基盤となる者は全て処分する。この帝国は今後俺の国となって貰う。自由に俺が滅ぼし、自由に支配するのだ。この国のルールとしてなんの問題なかろう」
「そ、それは、やめてください」
「やめてと言ってもやめなかったアホは誰だ?それでやめてもらえると思っているのか?」
「お、願いします……やめて、ください」
「本当にアホだな、俺は魔王だぞ。魔王を自由にさせればどうなるかぐらいわからんかったのか?そもそも俺は話し合いに来たんだぞ。自由にして良いと言ったのはお前だ。だからお前の流儀で好きにする。以上だ」
俺はセレネに目配せをした。
セレネはそっとエマの目の前を手で覆った。
俺は魔術で女王を残し城中の人間を全て消し去った。
しーんとした空気が辺りを流れる。
全て圧縮して潰したから、血の匂いも血の跡も何も残っていない。
綺麗に城から人だけがいなくなったのだ。
前世を含めてこれまで人なんて殺したことはなかった。
今回初めて人を殺した訳だが案外何も感じないもんなんだな。
俺が魔王に転生したせいだろうか。
「お前以外の全ての者に消えてもらった。この城にはお前と俺達しかいない」
「な、……な」
先程まで俺の後ろでナイフを持って控えていた執事も玉座の間にいた数十人の武装した兵士も既に消え去っている。
「お前の間違いは魔王より立場も実力も上だと思った事だ。俺を殺せるのは世界中探しても勇者だけだぞ」
あうあう言うだけで全く動かなくなった女王。
「これでお前の政権は終わりだ。これよりこの国は俺の娘エマの国とする。文句はあるか?」
ガクガクしながら口からヨダレをたらし呆けている女王。
「おい、いるなディアブロ」
「はいここに」
「国の運営が任せれる配下と専属の世話係を数名エマにつけよ。これよりこの国は我が国、そして国王はエマとする」
「かしこまりました。直ぐに準備致します」
本当にいるから怖いんだよなぁー、こいつ。
適当に呼んだらどこでも出てきやがる。
「パパ?エマ王様になっちゃうの?」
「ははは、魔王の娘が人族の王様で何かおかしいのか?」
「うーん、わかんない?」
ははは、本当に可愛らしい娘だ。
「エマの好きなように、アホみたいなイジメのない笑える国を作ればいい。俺が力をかしてやる」
「よくわかんないけど、頑張……る?」
ははは、珍しくエマがテンパっとるな。
「基本的に毎日魔王城にいれば良い。何かあったらこちらに顔を出せば後は配下が上手くやる。気楽にやれ」
「うーーーん」
「アルスー、わたしも自分の国が欲しい!」
「やめとけ国民が死ぬ」
「なんでよー、ちょっとぐらいいいじゃない」
こいつはこいつでなんで直ぐになんでも欲しがるかなぁー。
つーかこんなんでいいのか?
ある意味一番簡単に終わってしまったな。
この後やる事といえば王の変更を国民に知らせ、奴隷制度の撤廃を宣言するぐらいか。
地味に大掛かりだなぁ。
でも派手にせんと伝わらないだろうからいきなりは無理か。
無駄な混乱を避ける為にも、宣言より先に奴隷を扱う商人と上位貴族に対する根回しが必要だな。
よし、全部丸投げしよう。
俺はこういう事に向いていない。
そう俺は地味なヤツなのだ。
ひとまずこれで奴隷開放運動は完了だな。
残る小さな国も丸投げだ。
あー疲れた。
しばらくはのんびりとしたいものだ。
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