夢
風呂を出て浴衣姿のディアブロと二人、歩いて食堂へと向かう。
食堂の扉を開けるとそこにはバカでかいケーキが用意されていた。
「なんだこれは」
「ウエディングケーキにございます」
「なんなんだこれは」
「ウエディングケーキにございます」
余りの意味のわからなさに二度も同じやり取りをしてしまった。
「何故ウエディングケーキなのだ?」
「勇者からのご要望がございましたので」
「あいつの意見聞く前に俺に聞けよ!」
「反対されると思いましたので」
「反対するだろ! 俺あいつと結婚すんの?」
「先程そのように仰られていましたので」
「してないよ。一回もそんな話してないよ」
「ははは、良いではないですか結婚如き」
「如きちゃうわ!」
「ははは」
「笑って誤魔化すな!」
なんだこの流れは理解が追いつかん。
ハメられているぞ。
「アルス様は勇者がお嫌いですか?」
ディアブロから思いもよらない質問がきた。
「嫌いではない」
「でしたらご結婚なさるべきです」
「だったら出会うやつの大半と結婚しないといけなくなるぞ」
「今現在此処にいるのは勇者のみでございます」
「いきなり結婚になる理由がわからんぞ」
「理由などございません、後悔なさいませんか?」
後悔と言われても困る。
後悔するから結婚するというのがわからない。
勇者には強くなって貰って俺を殺してもらわないといけない。
そのために勇者の身の回りに囲うというのはわかる。
だからと言って結婚?
嫌いではない。
では好きかと言われても困る。
結婚。
死ぬまで添い遂げる。
そういった意味では勇者は俺を殺す。
看取るということか。
とくに問題がないような気がしてきた。
近いうちに俺は死んで元の世界に戻る。
確かに問題はない気がする。
思考の渦に沈んでいた。
食堂の扉が開いた事で我に返る。
勇者が戻ってきたようだ。
ウエディングドレスだった。
綺麗だった。
俺は浴衣でと言ったはずだが、完全にハメられているな。
不思議と嫌な気はしなかった。
「今すぐ城にいる全員を連れてこい!」
俺はそう命令した。
こうなったらガッツリやる!
やるなら徹底的にだ!
俺は魔力を一気に開放して城中に巡らせた。
城にいるヤツは俺の魔術で強制的に服装を変えた。
これで全員正装だ!
まだ午前中だがもうすぐ昼になることから俺の服はシルバーのフロックコートだ。
黒が正装なのは知っているが俺の好みだから無視だ。
全ての配下を集めるには食堂では収まらないので無駄にバカでかい二階の大ホールに人や物を含め全て移動。
万を超える配下が集まった。
以前俺が言ったこともありみんな人型の姿だ。
そして俺の魔術でみんな正装だ。
俺は一人中央にいる。
改めて扉からウエディングドレスに身を包んだ勇者が俺のところまで歩いてくる。
俺が手を出すと勇者が手を乗せる。
「「「「ウァーーーー!!!」」」」
歓声があがる。が無視だ。
俺と勇者が横並びになると奥にいるのは神父姿のディアブロ。
こいつはなにをしているのだろう。
「本日はこれまでにない素晴らしい日になりました。ここにいるすべての者が証明となります。ここに魔王様と勇者様の結婚が成りました」
「「「「ウァーーーー!!!」」」」
凄い歓声だった。
その後、俺と勇者は交互に誓いの言葉を交わし神父ディアブロ立会いの元、婚姻の儀を交したのだった。
俺達は魔族だ。教会も神も形式など知らん。
婚姻の儀をを交わしたらそのまま大ホールで披露宴だ。
場所など変えん!移動が大変過ぎる!
順番も場所も気にしないと言ったのは俺だが、いきなりケーキ入刀となった。
凄まじく照れている勇者、スタートからずっとブリキ人形のようになっている。
そしてケーキ入刀でディアブロが持ってきたのはいままで一度も振るわれたことの無かったオリハルコンの剣だった。
ちょいまて!
俺はこの日のために世界最高金属を使ってこの剣を作ったのか?
まったく出番がなかったことを考えると可哀想な剣である。
こんな時ぐらい使ってやるべきか?
それでいいのかオリハルコン?
問いかけに応えるように小さくピカッ! と光りやがった。
半端なく嫌な予感がしたがこんなときぐらい使ってやるとしよう。
俺と勇者は横に並び俺がオリハルコンの剣を持つと勇者が手を沿えた。
一旦二人で剣を天に掲げストップ、
「「「「ウァーーーー!!!」」」」
歓声が上がる。
何故か泣いてるやつがいる。
そしてケーキの方へ剣を向けてストップ、
「「「「ウァーーーー!!!」」」」
面倒くさいがディアブロからの指示だ。
良くわからんが凄いお願いされたからおとなしく従っている。
そしていよいよケーキ入刀。
「それでは番となった魔王様と勇者様の初めての共同作業です」
つがいってのにかなりツッコミを入れたかったがこらえる。
勇者と二人でそっと剣をケーキに差し入れた。
「「「「ウァーーーー!!!」」」」
またしても大歓声が上がる。
だから何故見ているお前らが泣いている。
オリハルコンの剣もピカッ! とアピールしているがあえて無視だ。
まさかお前の出番がここだとは俺も思わなかった。
なんだか申し訳ない。
再びオリハルコンの剣はピカッ! と光ると大丈夫と言っているようだったがあえて無視だ。
「それでは皆様魔王様と勇者様を祝うパーティの始まりです」
「「「「ウァーーーー!!!」」」」
どこからともなく現れた数々のテーブル、その上に並ぶ数々の料理と飲み物。
みんな遠慮することなく飲み食いを始めた。
「一段落かな?」
声をかけ勇者を見ると震えながら泣いていた。
「どうかしたのか?」
「やっと結婚できました」
「そんな結婚に憧れていたのか?」
「夢みたいです」
「残念ながら夢ではないな」
「こんなに幸せなことはありません」
「らしくないな。個性が死んでいるぞ」
「どんな個性ですか?」
「お前は俺を退屈させない」
「これでも無理して頑張ったんですよ」
「あれは演技だったのか?」
「半分はそうです。それと私はオマエではないですよ」
「わかっている、セレネ」
「あは、初めて名前で呼んでくれましたね」
「しらん」
「こんな日がくることを夢見ていました」
「夢見るぐらいなら俺に言え、全て叶えてやる」
「幸せすぎて私死ぬんですかね」
「セレネが死ぬことは俺が許さん、俺を殺してもらわないとな」
「貴方を殺すことは出来ないかもしれません」
「やってもらう」
「覚悟はしておきます」
「それから俺は貴方ではないアルスだ」
「えっ?」
「俺の名はアルス・ディルナルだ」
「初めての名前を教えてくれましたね」
「不服か?」
「いいえアルス、私幸せだよ」
俺達はキスをした。
「「「「ウァーーーー!!!」」」」
これまでで一番の歓声が上がった。
この日、俺はセレネと結婚をした。
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