【勇者視点】7
引き続き勇者視点のお話です。
宝箱があった。
行き止まりの部屋でアンデットを撃退したのだが、その部屋の真ん中に宝箱があった。
「うわぁーー宝箱なんてはじめてみたぁーー」
今まで勇者としていろんなところへ派遣されて行った。
時には魔物の群れを倒しに洞窟や森へ行ったり、時には紛争地帯で人と戦うために辺境地や海を超えた島へ行ったりしたこともある。
本当に短い勇者の活動期間でいろんな場所へ行った。
それでも宝箱なんて初めて見たのだ。
「罠とかじゃないよね?」
部屋に入ってきた時には無かったはず。
無かったと思う。
アンデットを倒したことで現れたのか?
そういった仕掛けだったのか?
警戒しつつも私は好奇心には勝てずに宝箱を開けた。
箱を開けると、開いた隙間から湯気が立ち上る。
やっぱり罠、と思った。
だが同時に襲ってきたのは美味しそうな匂いだった。
宝箱の中には出来立ての料理が入っていた。
「うわぁーご飯だぁー」
朝ごはんを食べてからどれくらい経過したんだろう。
丸一日近くは経過しているだろうか。
戦いの中に身を置いている時は空腹すら感じない。
感じないけど、お腹は空いている。
そんな状態であったこともあり、なんの疑いなく食べた。
「美味しぃー」
やはり食べているときが一番幸せだ。
周りの状況など全て忘れて食事を楽しんだ。
量はまったく足りないが出来立てのご飯は疲れを一気に吹き飛ばしてくれる気がした。
「うふふ、ごちそうさまでした。ありがと」
誰にでもなく、宝箱へと感謝を述べた。
食べた後、急な眠気に襲われた。
別に毒などではないはずだ。
単純に疲れているのと温かい食事に気が緩んだのだろう。
部屋に再び聖属性の魔術を使って簡単な結界を作ってから短い時間だが睡眠をとった。
目覚めた時、結界のおかげか周りに変わりはなかった。
さぁ気を引き締めてがんばろう!
短い時間の睡眠だったが食事のお陰でだいぶ体力は回復はした。
私は気合を入れ直しダンジョン探索を再開した。
私がこれまで歩いてきたダンジョンの道や構造なんてまったく覚えていない。
冒険者ならマッピングしながらが基本なのだろうが、そんな技術は私にはないので気の向くまま、どんどん道を進むことにした。
出てくるのは相変わらずアンデットモンスターばかりだ。
出てきたアンデットは聖属性の魔術で一掃した。
そうして進むこと半日程度だろうか。
進んだ先の部屋で地下へと続く階段を見つけた。
本当は地上に出たかったので上へ向かう階段が良かった。
けど、下りの階段を見つけてしまったのだからしょうがない。
別の階段を探しに行けば恐らくこの階段のある部屋へは戻って来れない気がする。
いや戻って来る自信がない。
考えた結果、私は迷わずに地下へ続く階段を降りた。
危なそうだったら引き返せば良いぐらいの考えもあった。
下の階へと降りてだいぶ歩いたが上の階と状況は何も変わらなかった。
洞窟の風景も相変わらず似たような感じだし、出てくる魔物も相変わらずアンデット、お陰で魔力の残量が少し心もとない。
片っ端から聖属性の魔術で一掃してきたのが仇となった。
アンデットの足は遅い。
できる限り魔術を控えるために無駄な戦闘を避けながら進んだ。
そして今まで見てきた部屋よりも少し広い部屋に辿り着いた。
完全に敵が出てくる空気だ。
でも戻っていても仕方ない。
私は部屋の中へと足を踏み入れた。
それが間違いだった。
案の定現れるアンデットの群れ。
「浄化の光」
アンデットを一掃させ部屋を調べようと思ったら地面の至るところが再び盛り上がった。
今までで一番大量のアンデットの群れ。
「浄化の光」
魔術で一掃するが、更に別の地面が盛り上がり続けていく。
「浄化の光」
そして更に、別の地面。
「浄化の光」
「浄化の光、浄化の光、浄化の光」
部屋のアンデットは完全に退治した。
それと引き換えに私の魔力は尽きた。
一息ついてから探索を進めようと休憩することにした。
すると変な音が聞こえた気がした。
私が入ってきた通路のほうからだ。
耳を澄ますとうめき声が聞こえる。
うめき声が段々と近づいて来ている。
嫌な予感しかしない。
倒さずにやり過ごしたアンデットの群れが追いついてきたのだ。
「ギャャーー!」
一目散に逃げた。
魔力は尽きた。
聖属性の武器はない。
アンデットを倒す方法がないのだ。
ひたすら逃げた。
私はめちゃめちゃ走った。
どれぐらい逃げただろうか。
かなりの時間逃げ続けている。
そんなとき通路の窪みの奥にある部屋を見つけた。
小さな小部屋だった。
部屋の中央には宝箱。
アンデットが現れる気配は今のところない。
思い切って宝箱を開けると良い匂いがした。
「やったぁーー! 食事だぁーー!」
逃げ回って息も上がっている。嫌いなアンデットに追いかけられて精神的にも疲れている。
私は何も考えられず目の前の料理を一気に食べた。
「本当にありがと、ごちそうさまです」
食べ終わってやっといろんな考えが脳裏をよぎった。
これからどうするか?
結界を張って休憩するのが一番だが結界を張る魔力がない。
移動しなくては行けないのだが襲ってくるアンデットを倒す方法がない。
「ん? 宝箱にまだなにかある」
宝箱には私が食べ終わった後のお皿とは別に瓶があった。
飲み物? かと思ったがその瓶を手に取って驚く。
「これって魔力回復用のポーション!」
通常の怪我などを治すポーションは私も持っている。
戦闘などに身を投じる者の必須アイテムといえる。
だが、魔力回復ポーションは相当に貴重だ。数が少なすぎて購入するとなると王国の一等地に高級な住宅もろもろ一式揃えるのと変わらないぐらいの値段がする。
普通の人が手を出せるような品物ではない。
私も実物を見るのは今回で二回目だ。
こんな物がこんな所にあるなんて、売ったらいくら
になるんだろう。
一瞬そんなことも頭をよぎったが、私の魔力はカラッポだ。
私は勿体ないと思いながら一気に魔力回復ポーションを飲み干した。
「まっずぅぅーーーぃッ!!」
激マズだった。
この世が終わったかと思うぐらい苦かった、苦すぎた。
余りのマズさに一瞬死んだかと思った。
そんな味の感想とは裏腹に効果がとんでもなく凄かった。
体が熱くなりどんどん魔力が回復していくのがわかった。
「これで怖いもん無しだ!」
でもひとまず休憩。
小部屋に結界を張って短い時間の仮眠をとった。
仮眠をとった後は探索を開始する。
一気に気持ちが楽になった。
また魔力が切れたら洒落にならないので節約しながらだけど、アンデットを倒せる魔術が使えるというアドバンテージは精神的にかなり大きい。
探索すること数時間だろうか辿り着いた別の部屋にはまた宝箱が置いてあったのだ。
警戒することなく一気に開ける。
「これって剣?」
宝箱には剣が入っていた。
銀色なんだけど、薄いピンクの様な不思議な色をしている剣だ。
ダイヤくんを腰に差し、宝箱の中の剣を手に取る。
「軽い!」
ダイヤくんほどではないがかなり軽いショートソードだった。
柄の先端には小さな宝石の様な物が埋まっている。
凝った作りだなぁとか思って驚愕する。
「これって魔石?!」
見たこともない輝きを持った光の魔石が埋まっている。
こんな光の魔石は見たことがなどない。
軽く魔力を流すと刀剣が聖属性の白い光に包まれた。
「ふふ、ありがと魔王、ちゃんとこれも返しに行くからね」
テンション爆上がりで私はダンジョン探索、改めアンデット退治へと足を踏み出した。
「アイツ等、駆逐してやる!」
きっと今の私は魔王の様な笑顔をしているのだろう。
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