第一部 見知らぬ同居人(6)
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体の節々に痛みを感じ俺は目を覚ました。
「ここはどこだ?」
ゆっくり身を起こして周囲を警戒する。
水色の壁紙、たった一つの椅子と机、無駄な物は一切ない。話を聞けばたしかここは人が暮らしているようだが、モデルルームのように生活感が感じられない。ダイニングにしては簡素すぎる。
小さなカウンターには幾つか置物があるだけで他は徹底的に整理整頓されている。俺の部屋でもアンヘルの部屋でもない。
「ここは……?」
部屋には甘酸っぱい匂いが広がり、それが籠から落ちて割れた果物のせいだとわかる。
「触れてもないのに果物が落ちるのか?」
恐る恐る出来るだけ姿勢を屈めながら果物の入っていた籠に近寄る。ミシリミシリと鳴く床の音に俺はゆっくりと今までの事を思い出した。幽霊騒ぎ、行方不明の警官、そして銃声。
「なんだ?」
果物の入っていた籠の中には銃がしまわれている。しかも、固定も細工も完璧にされた状態だ。床のスイッチを踏むと、下にしまってあった銃が上にあがり、発砲し拍子で果物が落ちた。と考えたがそれはあまりにも出来すぎた仕掛けだろう。
どうしてこんな事をする必要があるのか理解できない。しかし、ガーデンフェンスと玄関扉の仕掛けを思い出せば。どうやらここは幽霊屋敷ではなくカラクリ屋敷だ。
「隣の家の奴が聞こえたっていう銃声はこの仕掛けか?」
籠に入った銃の安全装置を作動させて周囲を警戒する。よく見れば壁紙にはいくつもの弾痕がある。それに驚いて二、三歩後退したのが運の尽きだった。再びあの「カチリ」という音が聞こえてから、まるで爆竹を使った祭りのようだ。
その音と同時にどこからも銃が出てきた。
壁にかけた絵画が外れてそこから銃が顔を出す。
壁に穴が開いてそこから銃が顔を出す。
小さなカウンターの隅に置かれた置物の間から銃が顔を出す。
その小さな鉛玉から逃げれば逃げる程、カチリカチリと嫌な音が立つ。
「くっそ! この!」
腕や足に痛みが走る。けれど、幸いどこも貫通していない。掠った程度で血も少ない。ただお気に入りのジャケットが汚れていくのが耐えられなかった。ダイニングから転がるように廊下に戻る。
外に出るよりは中に入っていった方が調査が出来る。解決出来るまで帰れない。と、考えてしまったせいか足が玄関ではなく家の奥へと動いていってしまう。
短い廊下を走る。一歩踏み出すたび、やはり壁からは銃口が顔を向けた。
カラクリ屋敷にしては金がかかりすぎているように感じる。止まるより駆け抜けた方が早いと考え、階段を登っていく。