そのカフェのタオルは森の香りーSide 樹ー
超短編。
大切な出会いなんだからもっと引き伸ばしなさいよ.... 自分。
まじかよ、ってぐらい短い。
いやこれからゆっくり進めますよ!
実はこのカフェにはモデルがありまして、
ほんとに二階席にソファ。オレンジのシェードランプに、大きな窓からは大きな木が見えて、
冬には積もる雪が見える、そんなカフェが実在します。
ドビュッシーのアラベスク一番を聴きながらどうぞ。
(聴き始めたら、読み終わります。笑)
出先で急な雨に見舞われた。
屋根の軒下で済ませられるレベルではどんどんなくなって、ただ雨音が強くなっていく。
目先にあったカフェへ足早に駆け込む。
「いらっしゃいませ。よかったらお使いください。」
気の利く店員がタオルを貸してくれた。
タオルからは森の香りがした。
二階席に案内されると、左手奥のソファ席に腰掛けた。
「お待たせいたしました。」
「ありがとうございます。」
ダウンライトに、コーヒー豊かな香り。オレンジ色のシェードランプが温かみをもって光を放ち、雨ですっかり体温を奪われた身体が、じわじわと温まっていく。
静かに聞こえるアラベスク一番の選曲も、心を溶かしてくれた。
ふと、階段を挟んで隣にいる女性に気がつく。
あ、
あの女性どこかで。
金の小さな腕時計が少しまくったセーターの袖から見えた。
かすかに見えるその腕の細さが女性らしさを強調していて、たまに耳に髪をかけるしぐさがまるでスローモーションのように感じた。
彼女は静かに、この空気に溶け込むようにして、文庫本を静かにめくっていた。
その光景だけがまるで絵画みたいに、そこだけ月の光に照らされたように、美しくて、ただ、
作品を見るように、でも僕の目線が決してその空気を壊さないように、そっと彼女と彼女を取り巻く光を眺めた。
あの、そうですね、あの、
雰囲気だけ、感じて頂ければもうありがたすぎます。
雰囲気すら感じねえよ、というそこのあなたも、ここまで読んでくださっただけ、尊いです。
ありがとうございました。
泉