願い
よろしくお願いします
「ははははっ!まだまだ甘いぞアレウス!!」
「くそっ!!まだまだ!!」
俺は手のひらから雷魔法を放つ
「それも甘いわ!!」
だがそれをトリスは素手で弾き飛ばす
「じゃあ次はこっちからいかせてもらうぞ?」
トリスはそう言った瞬間に姿を消す
そしてノータイムで俺の背後へと転移してくる
「くっ!!」
俺はなんとか背後からの一撃をガードする
だがトリスの攻撃はそれだけでは終わらなかった。トリスは転移魔法による瞬間移動を繰り返しラッシュを繰り出す
だが俺もここで負けるわけにはいかない
俺はなんとかトリスの攻撃を防ぐ
トリスだってずっと瞬間移動を出来るわけじゃない
こんだけしていればいつか過度の空間移動による次元酔いを起こすはずだ
そして酔う前に瞬間移動を利用した転移ラッシュをやめるはずだ
「これを防げるようになったのは流石だな」
「あぁお前に一年近く鍛えられたら、これくらいはできるようになるっつーの!!」
俺はトリスが転移やめた瞬間を見計らって周囲の重力を強くする
これは俺が3つもつ魔法のうちの一つの重力魔法の基本能力だ
ある程度はレジストされて効果が薄まるがトリスの動きに制限をつけることくらいならできる
俺は強力な重力場を維持しながら、トリスに接近する
そして雷魔法を発動させ、磁力を操作し周りの砂鉄で剣を構成する
「では私も同じように応えよう」
そう言ってトリスも俺のように雷魔法を発動させて砂鉄で剣を作り出す
そして互いの剣がぶつかり合う
自分がこの世界に来てもうすぐ1年になる
この1年で俺はトリスのおかげでとても強くなれたと実感できる
だからこそよりわかってくることがある
目の前のトリスという存在がどれほど圧倒的かということを
「いいぞ、いいぞアレウス!!楽しいぞ!!」
俺より圧倒的に負荷がかかってるというのにこの笑顔ですからね
なんだよ楽しいって、こっちは命懸けでやってるっての!!
互いに致命傷は与えることができなくても、傷を作ることが出来る
だが互いに回復魔法が使えるからこそ、その傷は瞬時に回復する
そしてそのレベルを超え、お互いが回復が間に合わないほどの斬り合いへと至る
まずいな、非常にまずい
俺は今どんどん追い込まれている
雷、回復、重力
俺は自分がもつ全ての魔法を現在同時併用しながら戦っている
もちろん魔力による身体強化だって行っている
別に魔法の並行操作は難なくできるんだが、流石に長期化すると脳が焼き切れそうになるし魔力だって無限にあるわけじゃないからいつか尽きる
だからどこかで一撃で決めるしかないな
俺は慎重にそのタイミングを探る
だがそのタイミングは来ることはなくなる
「トリス!!」
トリスが斬り合いの最中に意識を失った
危うくトリスの首を斬るところだった
俺は全ての魔法を解除してトリスを受けとめる
一体何が起こった?トリスが意識を失う寸前まで絶好調だった
意識を失う様子なんてなかった、むしろ俺が意識を失いそうなくらいだったし
「くそ、考えても答えは出ないか」
俺はトリスを抱き上げてログハウスへと戻る
そしてトリスをベッドに寝かせて、椅子を持ってきて側に座る
「身体に異変はないな...」
回復魔法を応用してトリスの身体を診るがどこにも問題は無い
そしてその1時間後にトリスの意識は戻った
「私は...そうか、意識を失っていたのか」
「あぁ、やりあってる途中だったからびびったぞ」
「すまない、迷惑をかけたな」
意識を戻したトリスはいつも通りだった
「どれくらい眠っていた?」
「そうだな、1時間くらいだが...」
「そうか...また時間が伸びているな」
「おい、またってお前...」
「いや、なんでもない気にするな」
気にするなと言われる方が無理なんだが、だけどトリスだし問いただしたところで聞いてはくれないだろう
「そういえば修行の途中だったな、再開しよう」
「ふざさるなアホ、今日はもうやめとけ」
「だが師匠としてはな...」
「だったらその師匠の弟子を心配させるような行動はとらないでくれ」
「むっ、それは確かに...そうだな」
トリスはしぶしぶだが納得し、ベッドに座りなおす
「だけど今日は色々驚かされるぞ、いきなり実戦とかいいだすわ、その実戦の途中で倒れるわ」
「それはすまなかったな。だがただの修行をしても今のお前にはもう物足りなかっただろ?」
「あぁまぁそれはそうだが...とりあえず今日のおかけで俺はまだまだだと思ったよ」
トリスが倒れなければ俺はトリスに負けていただろう
一撃を決めるタイミングを見計らっていたが、その一撃もたぶんうまく決まらなかっただろう
「それは名前の比較対象が私しかいないのが問題なんだろう。今のお前だったら魔王くらいは勝てると思うぞ」
「いや魔王って.........もしかしてほんとにいるのか?」
「当たり前だろ、勇者がいるなら魔王がいるに決まっている。ちなみに私は魔王を倒したことがあるぞ?」
トリスはすごいだろう?という態度をしめす
すごい冗談っぽく聞こえるがたぶんこれマジの話なんだろうな
「お前は外の世界を知らないと思うから感覚がないだろうが、今の強さだったらお前は世界最強の一角だ」
「そんな簡単に世界最強と言われてもね」
世界最強なぞそんな簡単に名乗れるもんじゃないだろ、なんかトリスの言葉を鵜呑みにすると調子乗りそうで怖いのでそうは思わないようにしておこう
「......すまない、まだ少しだるいから眠らせてもらう」
「あぁゆっくり休んでくれ」
トリスは「ありがとう」と答えるやすぐに眠りにつく
その後、トリスは突然気絶する頻度が増え、また意識を失っている時間が以前に比べ増えていた
「また私は意識を...」
「あぁ昨日よりもずっと長くな。なぁトリス、ずっと黙っていたが...」
「あぁわかっている、わかっているが待ってくれ。まだ話すわけにはいかない」
まだ、ならいつ話してくれるのだろうか
だがトリスに話す意志がない以上無理強いは出来ない
「悪い、また意識が混濁してきた」
「あぁゆっくり休んでくれ」
そしてトリスは返事もなく眠りに...いや、意識を失う
正直もう目覚めることはない危険性すらあって恐怖を感じる
トリスと出会った時のことを思い出す
トリスは俺を一年間鍛えると言っていた、そして一年間のその先については語らない
その一年が近づく度にトリスのこの症状は悪化していく
俺はこの悪い考えがただ杞憂であることを信じたい
そして日がまた流れていき、ある日の深夜だ
「アレウス、少しいいか?」
「トリスか...一体どうした?」
「いや、眠りすぎて目が覚めてしまってな。どうだ少し話でもどうだ?」
今朝再び意識を失って、俺が眠りにつく少し前に目覚めたトリス
また前回よりも意識を失っている時間が伸びていた
「ほら、コーヒーだ」
「あぁありがとう」
トリスからカップを受け取り一口つける
俺とトリスの間にはロウソクの火が1つ漂っているだけだ
「体調はどうだ?」
「不思議と悪くない。それにお前がそうやって私に気遣っててくれてると実感できるのが非常に嬉しい」
「おい、それだといつも気遣ってないみたいじゃないか」
俺の反応にトリスは「悪かった」と言いながら笑う
どうやら本当に体調がいいみたいだ
「お前とこうやって話すのも久しぶりだな」
「毎日話してるじゃないか、何言ってるんだ?」
「違う違う、雰囲気だよ雰囲気。こうやっていいムードでお前と語り合うなんてあの湖以来だろ?」
「あー...」
俺はあの時のことを思い出す
確か、俺とトリスが出会って半年だったか
その時にトリスにあの湖を教えて貰った。そして酔っ払うトリスにいじられてすげぇ恥ずかしくなって逃げたのを覚えている
「あの時アレウスは私に何か言おうとしてた気がするんだが、それを今聞いちゃダメか?」
「俺が言おうとしたこと?」
「心当たりはないか?」
なんか俺がトリスに言おうとしたことだよな
俺はあの時のことを思い出す
確かにトリスに何か言おうとしてたトリスが喋ってしまったため言えなかったことがある
それは......
「.........悪いが言えねぇ」
「やっぱりあったんだな。ほら言ってみろ?今少し体調が悪いお師匠様からのお願いだぞ?」
「トリスに可愛こぶられるのはなんか困るし、お前さっき体調悪くないって言ったよな?」
「さっきはさっき、今は今だろ?」
あぁ言えば、こう言う
でも正直話してもいいと思う
半年前と同じように雰囲気にのまれているのだろう
「トリス、あの時俺と出会えてよかったって言ってくれたろ?」
「あぁ確かに言ったな」
「...それは俺も同じなんだよ。トリスと出会えて俺もよかったよ」
「それはどういう意味でだ?」
「別に意味なんかねぇよ、そのままだ」
トリスはつまらなそうに「ふーん、そうか」と返してくる
「半年前といちこういう時のトリスはおかしいぞ」
「そうか?まぁたしかにいつもの魅力が倍増してるかもしれないな?」
確かに魅力的なのは認めざる得ないが...
やっぱりトリスの雰囲気は違う
なんなら半年前のあの時とも違う
目の前にいるトリスは儚げで、そして弱々しくて
「おい、トリス......」
「ん?どうした?」
俺はトリスを見て言葉を失う
「お前なんか身体が透けてないか...?」
「ん?......そうか、もう時間が迫っているのか」
トリスが諦めたような、そして何かを受け入れるような表情を浮かべる
「おい、時間ってどういうことだよ、何言ってるんだ?」
「ここ最近ずっと、私の体調はおかしかっただろ?そのことをお前に教える時が来たんだよ」
そう言ってトリスは俺に語る
「ここにいる私は本来の私ではない。私はここよりも遥か遠くの場所に閉じ込められ封印されている。何を言ってるか理解されていないのもわかる、だがそうなんだ納得してくれ。私は封印された状態で残す限りの力を使い、私の一部を一時的に封印から逃れることを可能とした」
トリスは「つまり...」と続ける
「ここにいる私はその一部なんだ、まだ私が私であるな。だが時間が来てこの私は私の本体へと帰ろうとしている、ここ最近意識を失うことが多かったのはそれが理由だ」
「お前の話は無理やり納得するとしてだ...そうなるとお前はどうなるんだ?」
「私はここから消えるだろう。一年間の儚き夢が終わるんだ」
ふざけるなとトリスに怒鳴りたい
だが俺の口から声が出ることはなかった
「私の存在が消えかかっているのはもうその時間がすぐそこまで迫っている兆候だろう」
「そんなんで納得できるかよ...」
「頼む、アレウス。私の話を聞いてくれ、お前との最後の時間だ。楽しく過ごしたいんだ」
「トリス...」
トリスの顔を見て、俺はもう何も言えなくなる
なぜトリスが俺の一年間鍛えると言ったのかもわかる、一年という時間は既に前から決まっていたのだ
だったら俺は...トリスの思いに応えるしかない
「私はこの一年間非常に楽しかったぞ」
「俺だって、お前に拾われてなきゃ今どうなってたかわからないよ」
「だから言ったろ?私がお前を拾ったのは運命だったのさ」
「そりゃ運命の女神様にお礼を言わなきゃな」
「残念ながら運命の女神とやらはろくでなしだ」
「なんだ、会ったことでもあるのか?」
「さぁ、どうだろうな?」
トリスが意味深に笑う
その答えはどちらを示すのか、はっきりいって分からない
冗談な気もするし、実際にあったことがある気もする
「あぁクソ...眠くなってきたな」
「......大丈夫か?」
「いや、正直きつい...アレウス、近くに来てくれないか?」
俺は席を立ち上がり、トリスに近づく
俺はどうすればいいんだ?と聞こうとする前にトリスは俺に抱きついてくる
「ふふ、こうでもしないとお前はこうさせてくれないだろ?」
「おい、さっきの嘘だったのか?マジでやめてくれよ」
「ふふっ、悪かったな。やっぱりお前を見てるとからかいたくなるんだ」
そういうトリスの抱きつく力は弱々しい
「ほら、アレウスお前も抱きしめてくれ」
「あ、あぁ...」
俺はトリスの背中に腕を回して抱きしめる
「雰囲気にのまれるのも悪くないだろ?」
「あぁこういうのもたまには悪くいかもしれない」
「もっと正直になったらどうだ?」
「うるせぇ、俺にはこうやって答えるので精一杯だ」
トリスは「そうか」と言いながら笑う
もう俺を抱きしめる力はないに等しかった。限界はすぐそこまで来てるんだろう
「あぁまったく、もっと早くからこうしてくれとお願いしておくべきだった」
「そんなこと言ってもう遅いだろ?」
「あぁそうだな、これは私が決めたことだ。だからこれで満足せねばなるまい」
トリスの身体はどんどん軽くなっていく
「おいおい、そんなに強く抱きしめるなアレウス」
「お前は別にこれくらいでも痛がるような同じじゃないだろ?」
「悪かったな女らしくなくて」
トリスはもう喋るのもしんどくなってきている
「なぁアレウス...」
「なんだ?」
「愛してるぞ」
「は?いきなりなにを...」
「なんだ?乙女の告白をお前そうやって雑に扱うのか?」
「いや、そういうつもりじゃなくてだな、お前がいきなり...」
「ふっ、まぁ私が言えれば満足だ。お前は答えなくていい。あと最後にお願いがあるんだがいいか?」
「あぁなんだ」
「私がいなくなったあと、私を見つけてくれ。そして......」
「私を殺してくれ」
トリスはそう言い残してどんどんと存在が薄まっていく
「おい、どういうことだトリス!!殺せって、お前のことは絶対探しだす。だけど殺せって...」
「アレウス、何のためにお前を鍛えたと思ってる。アレウス、お前のようなものじゃないと私を殺すことが出来ない」
「ふざけるな、ふざけるなよ!!愛してるとかいって、殺せっておかしいだろ!!」
「そうか...確かにおかしいな。だが私は愛してるお前に私を殺してほしいんだ。こんな美人にこんなお願いされてるんだぞ?喜ぶのが道理じゃないか?」
「うるせぇ、意味わかんねぇだろアホが...」
「すまない、アレウス...」
トリスはそっと手を上げて俺の頬を触れる
「アレウス、あとは頼んだぞ」
トリスはそう言い残して俺の目の前から消えた
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