19話
「よし、出るか」
悪魔を倒したあと俺はミラの元まで戻り、オラス・ノマロの屋敷から出る準備を済ませる
とりあえずオラス・ノマロ身柄も確保して脱出しなければならない
ミラは抱えて出て行くとしてこの男は重力魔法で浮かして持っていけばいい
重力魔法でオラス・ノマロを浮かせた時だ
「お前たち大人しくしてここから動くな!!!!」
大きな声が外から聞こえて来る
なんだなんだと思って外を見てみたら衛兵のような格好をした人間がわらわらと正門の方から歩いてきていた
そしてその中に知ってる人間の姿がある。この街の冒険者ギルドのトップ、ギルドマスターのドーラ、その隣には孤児院のシスターであるマリア、そして二人のそばに初めて見る男が1人…身なりと行動からして上の地位にある人間に見える
とりあえず味方だと思うから俺はミラを抱えてふわふわと重力魔法で飛んで近づいてよく
「っ!?何者だ!!かこめぇ!!!」
何故か護衛のようなやつらから囲まれて槍を構えられている
どうにか無抵抗アピールをしたいのだがミラを抱えていてそれはできない
「その男は私たちの味方だよ、ダレル頼んだよ」
「なるほどこの男が、お前たち槍を下ろせ!!」
マリアが隣の男に声かけ、そしてその隣の男の一声で兵士たちは武器を下ろし引き下がる
何者だ?
「アレウス、あんたでかい騒ぎをなるべく起こすなって言わかったかい?領主様の屋敷から煙が出てるって朝から大騒ぎだよ」
「あー…それはすまない事故だよ。てか、なんでお前がここにいるマリア、エミリアは大丈夫なのか?」
「エミリアは無事保護して今教会にいるよ。それで何があったか教えてくれるかい?」
「あぁまぁそれはいいが…」
俺は後ろに立つとても身分の高そうな男をチラリと見る
男は俺の目線に気づいて話してくれと言った態度を取るのでエミリアを助けた後の何があったのかを話す
「オラス・ノマロから悪魔が現れて、その悪魔をあんたが倒したって?」
「あぁ本当だよ、嘘は言ってない」
兵士たちがオラスの部下たちを拘束して連れて行ってるのを横目に俺はそう答える
「閣下、オラス・ノマロの身柄を拘束しました。そして身体の一部に悪魔と契約した者に現れる紋章のようなものが描かれていました。」
「ふむ、ではこの男が言っていたことは本当か」
兵士がこちらにやってきてオラス・ノマロの身柄を拘束したことを報告して来る。どうや俺の話をきて部屋に向かわせていたらしい
しかしいまこの兵士「閣下」って呼んでたな
この四十代くらいの男は本当に一体何者なんだ?
「アレウス、こいつが誰か気になるみたいだね。この男はダレル・マグネス、マグネス公爵家の現当主だよ」
「こ、公爵???」
公爵っていうことは貴族だよな?それに公爵って貴族の中でもたぶんかなり偉い地位な気がしたんだが…
(たぶん王族の一個か二個くらい次に偉い爵位ですよ、アレウスさん!!無礼な態度とったら即刻打首獄門、市中引き回しの刑ですって!!!)
「も、申し訳ありません!!公爵様であると存じずに無礼な態度を取ってしまって!!」
とりあえず俺はエリーナの言葉を聞いてすぐに頭を下げる
「はっはっは、流石にあんたでも公爵様には無礼な態度は取れないみたいだね」
マリアが俺のことを見て意地悪そうに笑う
いや、王族の次くらいに偉いとか聞かされたらこんな態度にもなるだろ普通
「シスターマリアあまり仰々しく紹介するのはやめてくれと言っている。かおをあげてくれ冒険者アレウスよ」
俺は公爵様に言われた通り顔を上げる
「紹介にあった通り私はマグネス公爵家現当主ダリル・マグネスという、よろしく。此度の件大変感謝する」
「は、はい。冒険者をやってますアレウスと言います」
俺は差し出された手に握り自分の自己紹介をする
「しかし君が悪魔を倒したということは相当な実力者ということになるね。悪魔は相当強い生き者だ」
「どうですかね…戦った感じは特に脅威を感じはしませんでしたが」
というか正直ミラを殺されかけてブチギレていてほぼ覚えてない
(しかも戦いというよりは一方的な虐殺でしたもんね〜)
エリーナの一言に若干イラッとしたが、たしかに一方的にこっちがボコってただけだからな戦った気もしないな
「あの悪魔と対峙して脅威に感じなかったとはとんでもない逸材だ。ふむ…その言葉を確かめたくはなるが、まずはこの場を収めないとならぬな」
ダリル公爵そういって部下を何人か呼んで指示を出す
「アレウス、君には本当に感謝している。あとでもう少し詳しい話をしたいがまずは休んでくれたまえ、その彼女も安全なとこで休ませるべきだろうしな。こちらのことは我々に任せて欲しい」
「この場はこの公爵に任せとけばいいよ、あんたはミラと一緒に教会に戻りな。エミリアがあんたたちの心配をしてたから早く顔を見せてやりな」
マリアもそういうのでこの場は偉い人に任せて俺はミラを抱えて教会に戻る
あとで呼ばれるといったがマリア曰く「悪いようにはならない」みたいなので心配はなさそうだ
しかしマリアが言ってた伝って公爵家のことだったんだな、ノマロ家は伯爵。それより上の地位の公爵を呼んできたわけだ
それに伝があるマリアって何者なんだ?しかも結構親しい感じで話してたし
そんなことを考えながら歩いていたら気づいたら教会についていた
教会に着いた後はエミリアに無事を伝え、ミラをベッドに寝かせ俺も間借りしてる自分の部屋と戻る
ひと段落ついてたと思ったら、ドッと疲れが押し寄せてきた。そしてその疲れに身を任せて俺は意識を失うように眠った
◇
不意に目が覚めた
「頭いてぇ…どれくらい寝てたんだ?」
俺は窓の外を見てみると既に日が落ちて夜になっていた
教会に着いて俺が寝落ちたので朝だからほぼ半日以上寝てたことになるのか
結構寝てたな、そんな疲れたことしたか?と思ったがミラのこともあったので精神的な疲れがあったのかもな
そういえばミラは大丈夫だろうか、そう思った瞬間に扉が開く音がする
「…!!ご主人様!!」
そこには桶とタオルを持って入ってきたミラの姿があった
「ミラ、うわっと…!!」
「ご主人様ご主人様…ご主人様…!!よかった!!目を覚まされて…!!」
ミラが涙を流しながら俺に抱きついて来る
俺はそんなミラに戸惑いながらもミラの頭に手を置いて話はじめる
「ミラ、お前が元気そうでよかった」
「はい、ご主人様もご無事で何よりです」
ご無事でなによりって、俺なんかよりミラの方がよっぽど危険だっんだけどな
(ふぁ〜、よく寝てました。‥ってこれどういう状況ですかアレウスさん)
呑気なあくびと共にエリーナが俺に声をかけてくる
いや、俺もよくわからん
とりあえず落ち着かせて話を聞いてみるか
「ミラ、とりあえず離れてもらえないか…?」
「嫌です、しばらくこうさせてください…」
そう言って俺を抱きしめる力を強くする
(あら〜、何があったが知りませんがよかったですねアレウスさん〜……あのなんだかミラさんの抱きしめる力が強くなってません…?)
た、たしかになんか体が痛いような
「あの…ミラさん…?」
「ご主人様良かったです、貴方様に何かあったら私は…!!」
ミラには俺の声が届いてないみたいだ
というかどんどんミラの力が強くなって、身体がついに「ミシィ」と不吉な音を立て始める
「み──」
俺がもう一度ミラの名を呼ぼうとした時だ
ボギィッ!!!!
「ギャァァォァァァァァ!!!!」
(ギャァァァァァァァァ!!!!)
脊椎が折れる音と共に俺とエリーナの絶叫が響き渡った
◇
「よ、よかった治って…」
「申し訳ありません、申し訳ありません…!!」
俺は折れた背骨をさすりながら息をつく
ミラに強く抱きしめられ背骨が折れて意識を失いかけたが何と回復魔法で治して大事には至らなかった
ミラはとても申し訳なさそうに何度も謝るが、俺はそんなことよりも気になることがあった
「なぁミラ、なんか力強くなってない?」
そう、ミラには元々大の大人の背骨を抱きしめて折れるような怪力はなかったはずだ
しかも俺は常時ある程度無意識に身体強化をかけているのにもかかわらずだ
「わ、わかりません…その目覚めてからそういうことが実は多発してまして…」
ミラ自身もよくわかっておらず戸惑ってるみたいだ
(もしかしてミラさん、一度死んで蘇ったような状態なので何かしらが覚醒した可能性がありますね…天界にいた時にそう言った事例が見られると文献で呼んだことがあります。実際には見たことはないですけど、それな気がしますね)
エリーナが珍しく真面目な口調で俺にそう言ってくる
(もしかしたら今は覚醒したばかりなのでコントロールができてないのかもしれませんね。こんな華奢なのに怪力、異能と考えるのが妥当な気がしますね)
死んで蘇って覚醒か…たしかにありえるのかもしれないな
それが怪力なのはどうかと思うが…
「あの、ご主人様一度ならず二度も命をお救いいただきありがとうございます。ご主人様の回復魔法がなければ私はあの時命を落としていたでしょう」
「あー…そうだな、そう思うよな」
ミラはどうやら俺が回復魔法でミラを助けたと思ってるみたいだ
だが実際は俺がミラと共有契約で魂を共有したことによってミラの命を救っている
命を救うためとはいえ、半ば強制での契約だ。しかも代償は魂…
あの時実際何があったかを話した方がいいよな
俺はそう感じ、ミラにあの時何が起こり実際はどうやってミラを救ったかを話した
「契約ですか…そして魂を共有…」
「あぁ信じられない話だろうがそうやってミラを助けた。あの時それしか方法がなかったというのは卑怯だ。強制的に行なってしまったことは本当にすまない」
俺はミラに頭を下げる。許してくれとは言いづらいが出来れば許して欲しいところではある
「ご主人様お顔をおあげください。そのお話嘘か真、どちらであろうともご主人様が私をお救いしてくれたのは事実。それに私はご主人様のお話を信じますし、ましてや怒りを感じることもございません」
ミラがそう言いながら優しい笑顔で話を続ける
「むしろ嬉しいです。たかが私の命を救うためにご自身の魂をお使いになさってくれたことが、もう一度誓わせてもらえませんか?」
ミラは俺の手を握って力強く見つめて来る
「ご主人様、私の全てをあなたに捧げます。この身も、この心も、そして魂も全てあなたに捧げます。そしてあなたをお慕いしております、愛しています。どうか私をあなたの物にしていただけませんか?」
まさかの言葉に俺は言葉を失う
だがそんな俺に対しミラは俺の答えを待っている
(アレウスさ〜ん、女の子にここまで言わせたんですからしっかり返さないと!!)
エリーナ…てめぇ人の状況を見てたのしそうに笑いやがって
(というか私アレウスさんが戸惑ってる方に驚きですよ。アレウスさん覚えてます?アレウスさん悪魔にブチギレ出る時に俺のミラを傷つけやがって〜!!という感じで怒ってたんですよ)
たしかにそういう理由も含めてキレてたのかもな
俺は俺が思ってる以上にミラを大事にしてるわけだ
正直言い方はよくないがミラが誰かのものになると考えると、イライラとした感情が腹の底から湧いて来る
(そうそう、つまりはそういうことですよ〜!!)
この駄女神にそういうことを見透かされてると思うとさらに腹が立つが、今はそんなことはどうでもいい
ミラに言葉を返さなくちゃいけない
「ミラ、お前は俺に全てを捧げると言ったな本当にそれでいいんだな?」
「はい、そして私のご主人様へのこの敬愛も受け取っていただければなと思います」
そうだな…俺はミラの全てを受け止めよう。ミラの全てが俺のものだと言うのなら
「ミラ、俺のものになってくれ。気づいたら俺もお前のことがどうしようもなく大事になるくらい惹かれてたみたいだ…こんな言葉でいいか?」
「大変嬉しいのですが、もっとわかりやすい言葉で言っていただきたいです」
ミラが今度はからかうような表情で俺を見てくる
なかなか困ったことを言って来るじゃないか
(いいじゃないですか、ここは男らしく真っ直ぐ言いましょうよアレウスさん)
エリーナに言われなくたって言うつもりだったよ
俺は一呼吸してミラにいう
「愛してるよミラ」
「はい、私も愛していますご主人様」
俺はミラと結ばれることになった
俺の全てはミラのものだ、俺が死ぬ時がミラの死ぬ時
ミラが言っていることはそういうことだ
俺はミラのその覚悟を気持ちを愛を、全てうけとめようと心に誓う
(実際魂を共有してるのでどっちがが死んだらもう片方も死んでしまいますからね
〜)
エリーナのいらない一言さえあれば、全ての完璧の瞬間だった
この女神はいつか痛い目に遭わせようと俺はさらに心に誓った