ご主人様
長く空いてしまってすいません
よろしくお願いします
「......おい、見つけてきたぞ」
「こんな朝から一体なんだい...ってあんたその紙の束はもしかして...」
「あぁ中身を確認してくれ」
俺は十数枚の書類の束をマリアに渡す
「夜中どっかに行ったと思ったら、オラス・ノマロの屋敷に忍び込んできてたのかい」
マリアは書類に目を通しながら話す
俺は「まぁな」と答えてため息をつく
(アレウスさん、渡すもの渡したんですし寝ましょうよぉ...)
俺だって早く眠りたいんだよエリーナの...
どうしてこうなったんだろうか、当初の計画ではもっとスムーズにノマロ家が邪神教であるという証拠を掴んでかえってくるはずだった
だが気づけば俺が孤児院に帰ってきた時間は既に朝日が昇っていた
(作戦もなしに出たとこ勝負の行き当たりばったりですからね。こうなるのも当然...というかですねアレウスさん、フェイト...フェイトですよ悪いのは...なんですかその剣、じゃじゃ馬にほどがあります...)
エリーナの言っていることが最も過ぎて返す言葉もない
オラスの屋敷に潜入する時だ、窓を壊して入ろうとして窓ガラスが割れる音をフェイトで斬って消したんだ。その直後だ、急激に魔力をもってかれて俺は身体を動かすこともままならなかった
どうにか物置部屋みたいなとこに入って身を隠したまま倒れていたが、あれはかなりきつかった
山を斬った時は多少魔力を持ってかれるだけであぁはならなかったんだけどな
(それは多分ですけど...山っていう物理物質を斬るよりも音という物理現象を斬る方がこの世界の法則に反していたからじゃないですか?そのぶん反動が大きかったんですよ...)
確かにな、音を伝達する波を斬るとかだったらまだ楽だった可能性があるかもな
発想力の問題か、そこは使っていくうちに慣れていくしかなさそうだな
「...で、証拠としてはどうだ?」
「あぁこれはかなりいいが...大問題だね。貴族のお家1つが邪神教であったなんて、ノマロ家だけで済む問題じゃない可能性もある」
「そういう難しいのはわからんが...この証拠があれば色々と動けるんだよな?」
「任せときな、これはしばらく預かるがかまわないね?」
「こっからはマリアの信頼出来る筋とやらに任せるよ...さて、俺は疲れたから少し休む」
早く床でもなんでもいいから横になって眠りたい。そして俺はおぼつかない足取りで自分用の部屋へと向かう
「......何が起こってんだはこれは?」
扉を開けるとミラが三指をたてて俺を出迎えてくれた
「お帰りなさいませアレウス様」
「あ、あぁ...ただいま」
え、ほんとに何が起こってんだ?
この混乱は眠いからとかじゃない、たぶんどんな時でも俺は今みたいな反応をするだろう
「た、体調の方はどうなんだミラ?」
「はい、アレウス様や孤児院の皆さんのおかげでこの通り回復しました」
「そうか...それはよかったんだが、そのアレウス様っていうのはやめてくれないか?」
「ですがアレウス様は命の恩人、敬意を表さないのは失礼にあたります」
「いや、うーん...」
困ったな、ミラは至って真剣な顔してるし...それに眠すぎで考えが上手くまとまらない
(別に悪いことではないんじゃないですか?ふぁ〜...アレウスさん、流石に私もしんどいんで早く寝ましょう)
そうだな、この話は一旦置いとかせてもらって眠らせてもらおう
「ミラ、悪いが少しだけ眠ってから話してもいいか?」
「はい、アレウス様。では昼頃に声をかけさせていただきます」
「いやだからとりあえずアレウス様っていうのはやめてくれ...あと起こしてくれるのは助かるから頼む...」
俺はおちそうな意識をなんとか保ってミラに答える
「...では......とお呼びするのはどうでしょう?」
「あぁアレウス様以外ならなんでもいい.........ぞ」
なんて言ったか聞こえなかったけど別の呼び方を提案してくれたなら助かる
俺はそう考えながら深い眠りへとおちていった
◇
「...様、...人様、起きてください」
誰かに身体をゆすられる感覚がする
この声はミラ...そうか、そういえば昼頃に起こしてくれるって言ってたな
「ん...悪いなミラ、起こしてもらって」
「いえ、これくらいならば問題はありません。今お昼ご飯の時間ですが、ご主人様もお食べになりますよね?」
「あぁそうだな、俺ももら......おう?」
.今なんか変な瞬間なかったか?
「なぁミラ...」
「はい、ご主人様」
「.........」
どうなってんだ?
ご主人様って俺の事...だよな?
「ご主人様?」
「はい、ご主人様です」
俺は自分のことを指さして聞いてみるとミラにいい笑顔で返される
どうしてこうなった?
「アレウス様って呼んでたのは覚えてるんだが...」
「はい。ですの代わりにご主人様と呼んでもいいですか?と聞かせていただき、ご主人様はそれでいいとおっしゃいましたので」
「な、なるほど...」
そんなことあったか?...いや、確かに眠りに落ちる前にミラにそんなことを聞かれてた気がする
よく聞こえなかったがあまりの眠さに俺は適当に了承してしまった可能性が高い
(ふぁ〜...おはようございます...ってどうしたんですか?)
この女神...呑気に起きやがって...
こっちは今ミラにご主人様と呼ばれて困ってるとこなのによ...
(アレウスさんそういう趣味だったんですか...?)
違うわ!!
(でも、ミラさんみたいな可愛い子にご主人様って呼ばれるのって悪くない...いや、むしろ男性にとっては最高なことだと思うのですが)
「......確かに」
「??どうしたんですか?」
「あ、いや、気にしないでくれ。というかだな、どうして俺のことをアレウス様とかご主人様みたいな感じで呼びたいんだ?」
「それは私がそうご主人様のことをお呼びしたいからです。命を救っていただいたのはもちろんのことですが、それ以上に私自身がご主人様に奉仕する立場にありたいと願っているからです」
「なるほど...」
なるほど...とか言ってるが全然言っている意味がわからない
なんだよ俺に仕える立場にありたいって...
(まっさかアレウスさんに惚れたみたいなことはないと思いたいですけど...ミラさんを見る限り完全にアレウスさんに惚れてるようにしか聞こえませんね。ここはもういっそ俺の奴隷になれくらい言っちゃってもいいんじゃないですか?)
「いや、奴隷って...」
「奴隷...はい、奴隷でもかまいません。この一件が終わったあともご主人様の側に置いていただけるのならば私は貴方様の奴隷になってもかまいません」
「えぇ...」
この目の前の娘も何言っちゃってんの?
(ひゅ〜、アレウスさんやりますねぇ。異世界にきて早速奴隷メイド手に入れちゃいましたか)
うぜぇ、この頭の中に聞こえてくる女神の声が何よりもうざい
ミラもミラで凄い澄んだ瞳で俺のことを見つめ続けるし、この状況どうしたらいいんだ...
「お兄ちゃーん、お昼一緒に食べよー!!」
その声は...エレナ!!なんていいタイミングなんだ!!
「ミラ、悪いが先に昼ごはんにしてもいいか?エレナー、今行くから待っててくれ!!」
「はぁ〜い」
エレナの元気な声が返ってくる
そしてミラはというと...
「はい、ご主人様の仰せのままに」
メイドのように綺麗にお辞儀をして俺に答えるのだった
◇
「あんたが寝ている間にあんたに合わせたいやつに話をつけておいたよ」
「はやいな、それで向こうの反応は?」
「あぁノマロ家を潰せると知って喜んでたよ。これ食べたらそいつのとこに行ってもらいたい、冒険者ギルドに行って受付でアンタの名前出せば問題ないよ」
「冒険者ギルドか、わかった食べたらすぐ向かうよ」
昼飯をみんなで食べながらマリアに答える
マリアは午前中にやることは済ませてきてくれたわけだ、仕事が早くて助かる
「ご主人様、私もついて行ってよろしいでしょうか?」
「あー...そうだな、姿バレない程度に変装さえすれば問題はないだろうし、そろそろミラとの約束のためにも行動をとるべきか」
「ありがとうございます」
(なんでしょうね、恐ろしいくらいご主人様と呼ばれるのがしっくりきますね)
そうなんだ、誰もミラが俺のことをご主人様と言っても疑問にしないんだ
触らぬ神に祟りなしって可能性もあるが...
(そんなこと言いながらもアレウスさんも割と呼ばれて悪い気はしてないし、なんならしっくりきちゃってますからね)
そう、そうなんだよ
ミラにご主人様と何回か呼ばれて気づいたら抵抗感がなくなっていた
(アレウスさんの深層心理ではそういった征服欲が強いのかもしれませんねぇ...つまりドS、ですね)
やめろ勝手に俺の深層心理を判定するじゃない
......しかしまだ呼ばれて小一時間しか経ってないのにこの馴染みようだからな...もうこれでもいいかって判断になってしまっている
そして昼ごはんを食べ終え冒険者ギルドに向かう
俺はいつもの街で買ったシンプルな格好、そしてミラは顔が周りに見られないように外套をかぶりスカーフをマスクのようにして顔の半分を隠し完全に顔を見られないようにしている
傍から見たら完全に不審者だが冒険者の中にこういう奴が多い(特に魔法使い系)から街で歩いていても似たような格好をしたヤツらがいるから問題はない
そして冒険者ギルドにたどり着き、受付へと向かい俺の名前をいう
「はい、アレウスさんですね。では今すぐギルドマスターにお取次ぎしますので少々お待ちください」
「ギルドマスター...?」
まさかマリアが言ってた伝って...
そして俺とミラは受付嬢の案内の元冒険者ギルドの上階へと連れていかれた
お読みいただきありがとうございました