ミラノバ
遅くなって申し訳ございません
よろしくお願いします
「失礼するぞ」
俺はそう言ってハーフエルフの少女がいる部屋へと入る
入るのは俺一人、マリアには
「あんたが連れてきたんだからあんたに任せるよ。あとで詳しい話を聞かせておくれ、私は私でやるべきことをやっておくよ」
と言って俺一人に任せてきた
実際俺が連れてきたわけだし、俺が対応するのが当然か
「調子はどうだ?」
「えっと...あなたは...?」
「あぁ俺はお前をここに来たやつだよ、み...いや、なんでもない」
危うくミラノバと名前を言うところだった。俺が勝手にスキルで見て知った名前だ、うっかり言ったら怪しまれる
「私を助けてくれた人...まさかっ──」
ミラノバが顔を一瞬だけ下げてバッと顔を上げる。その瞳は黄金に輝いていた、俺があの時見た輝きと同じだ
これがこいつのもつ魔眼「月光」、なるほど確かに月光のような輝きを放っている
たぶん魔眼で見て俺の言ってることを判断してるのだろう
「で、納得いったか?」
「あ...す、すいません。これはそのなんでもないんです...」
「魔眼のことか?別に気にすることでも隠すことでもないから謝らなくていいぞ?」
「不気味がらないのですか?」
「いや、別に?むしろ綺麗だと思ったくらいなんだが」
「そ、そうですか...それはありがとうございます」
なんか気にしてるみたいだったけど、そこまで気にすることでもないだろ
希少な分、警戒は必要だけどそういった反応じゃなかったしな
「ご紹介が遅くなって申し訳ありません、私はミラノバと申します。ミラとお呼びください」
「あぁわかった、ミラだな。気になったんだが視力を失ってただろ?あの魔眼のおかげか?あー...それが魔眼の能力に関わるなら言わなくてもいいぞ?」
「いえ、助けて貰った恩人ですのでお答えするのが当然です。私の魔眼の能力を魔力を色で視えること、アレウスさんを見た時大きな輝きが私に視え救いを求めた次第です」
魔力を色で見るねぇ...魔力を可視化できるって考えればいいのか?
こりゃまたすごい能力をもっている事で
魔法を発動しない限り魔力を見ることは出来ない。たしかに魔力が高まったりすれば感知することが可能だが、静かに魔力を練られたりしたら感知するのは難しい
だから可視化というのはある意味最強の魔力感知能力だな
「あの...魔眼を見てもなんとも思わないのですか?」
「ん?あー...そりゃもちろんすごいと思うぞ、初めて見た時は驚いたしな。こう見えて結構驚いてたんだぞ?」
「い、いえ、そういうことではないんです。その...母に幼い頃から魔眼は忌み嫌われることだから隠しておきなさいと何度もきつく言われてきたものなので...」
「なるほど、俺はそういった悪い印象は持ってないから安心しろ」
この世界ではそういう風習があるのか?
昔魔眼は呪われし瞳とか根拠もないのに偉いやつが言ってそれが常識になってしまったとか
(もしくはミラさんのお母さんが彼女を守るために嘘を教えていたかもしれません)
たしかにな、そういう考え方もあるのか
魔眼持ちとかいう珍しい存在、もしかしたら移植とか可能かもしれないし
娘を守るために魔眼を持っていることを他人に知られないようにするための母なりの愛ゆえの嘘かもしれないな
「その魔眼については誰にも言わないから安心してくれ。で、1番聞きたいところなんだがどうしてもお前は悪魔に呪いなんてかけられていた」
「悪魔...ですか...?」
ミラが首をかしげる
もしかして自分が悪魔に呪われていたって知らないのか?
「ミラの身体感覚が奪われたのは悪魔に呪われたせいだ。もしかして別で心当たりとかあるのか?」
「は、はい...その、実は私奴隷に落とされてしまいましてそれが原因だと思ってたんですけど...」
奴隷...奴隷か
これは俺とエリーナが考えていたことが当たっていそうだな。面倒事が厄介事にランクアップした感じだな
ミラ自身呪われていたことは知らなかった、逆に俺は知らなかったがミラは奴隷におとされていた
呪いと奴隷化は同列に考えるのは間違いだとは思うが何かしらの関連はあるはずだ。
「ミラ、どうしてお前は奴隷におとされた?」
この質問は結構重要な質問だ
この街に来て学んだんだが、この世界の奴隷には大きく2つある
借金返済などのために金を工面するために金銭と引き換えに自分や身内を奴隷にする借金奴隷
そして犯罪したものに対する罰の一種として奴隷に落とす犯罪奴隷だ
昔は戦争奴隷なんかもいたらしいけど直近100年は戦争などはなくそういった奴隷はいないらしい
だがこれらの法律によって定められた合法な奴隷だ
だがこの世界には誘拐などによって連れてきた人々を強制的に奴隷させた違法な奴隷が存在する
ミラはこのうちどの奴隷にあたるのか、これを知る必要がある
「私は...その、借金奴隷です。私は母と二人暮しなのですが生活が苦しく、母が仕えさせていただいている領主であるノマロ家に私も仕えさせていただくために奴隷になりました」
「仕えるってメイドみたいなことか?だけど、メイドとして働くためにわざわざ奴隷になる必要はあるのか?」
借金奴隷になる場合それなりの額は奴隷になった時に得られるはずだ
わざわざ働くために奴隷にさせるのがこの世界の常識なのか?ある意味担保としての役割とかあるのかもしれない
そこらへんの判断はつかないがミラの様子を見る限り本当のことを言っている気がしない
根拠は全くないし、ただの勘に過ぎないんだけど
「ミラ、何か隠してるんだったら本当のことを話して欲しい。俺はお前を助けた時点で最後までお前に力を貸そうと考えてる」
俺はミラの顔を真剣に見て告げる
ミラは一瞬目をそらすために俯くが、顔をあげもう一度俺と顔を合わせる
「母を...言うことを聞かなかったらノマロ様のメイドとしてお仕えしている母を犯罪奴隷におとすと脅されて...私...私どうしようもなくて...」
言葉と共にミラの瞳から涙がこぼれてくる
俺はただひたすら頷きミラの話を聞く
ミラは現ノマロ男爵家当主ガストン・ノマロが治めている街の近くの村の出身。そしてミラの母親はガストンの邸宅のメイドとして働いているみたいだ
ミラも15歳になった頃から母の手伝いのためにたまにノマロ家の邸宅に赴いて、ちょうどこの街を治めているガストンの息子オラス・ノマロがミラを見つけてたいそう気に入ったことが事のはじまりらしい
ミラは何度か誘われその度に丁重の断りを入れていたが、ついに向こうが痺れを切らしたのかミラの母親を脅しの材料として無理やりにでもミラを我がものにしようとした
「─で、ミラは母親を護るためにオラスのものになることを受け入れたのか」
「はい...その時にオラス・ノマロの奴隷になることも受け入れてしまい」
「で、お前はなんとか奴隷商から逃げて切ってここにいたるというわけか」
ミラのだいたいの事情は理解出来た
さて、今現段階の一番の問題は───
(うぅ...ひっぐ...なんて、なんて可哀想な話なんですかっ...!!アレウスさん!!絶対、絶対ミラさんのことを助けてあげましょう!!)
某運命の女神がひたすらうるさい
最初ミラの話を聞いてる時は黙っていたんだが、途中からミラの泣く声とともにこいつの泣く声も聞こえ始めこの次第である
なんでこいつの方がミラより泣いてんだ
「ミラ、お前はこれからどうしたい?」
「これから...?」
「あぁ逃げるにしても、なんにしてもお前に俺は力をかしてやる」
「私...私は...」
ミラは困ったような顔をして答えあぐねている
だいたい何に迷ってるのか想像はつく
可能性としては
俺に何から何まで助けてもらうことの申し訳なさから助けて欲しいと言いにくいこと
もしくは助けてもらうことは決まってるがどこまでお願いしてもらえばいいかわからないこと
(逃がしてもらうことくらいはお願いできるけど、お母さんを助けてほしいまでなんて言えないって感じですかねぇ)
そんなところだろうな
図々しい奴だったらいざ知らず、ミラはそういうタイプじゃなそうだし
既に1回助けて貰ってるにのにまだ助けを願うことに罪悪感のようなものがあるのかもしれない
俺から全てを解決してやろうと提案も出来るがそれはしない、それはただの俺のエゴだし押しつけになる可能性もあるからな
というわけで俺...というか俺とエリーナは頭の中で考えつく限りのミラの答えを話し合ってこれからどうするかを決めていく
「あ、あの...」
そしてついにミラが口を開く
「あなた様...アレウス様が持たれる魔力の凄さはこの魔眼で確認しております。アレウス様の実力は相当なものであると見込んでのお願いがあります───────」
そしてミラが言ったお願いは俺たちの斜め上をいくおねがいであった
お読みいただきありがとうございます