転生
改稿版ですが、最初の数話は新規のものです
俺は気づいたら白い光に包まれていた
ここはどこなんだ?、そんな疑問が出てくる
だがそれ以上に大きな疑問が浮かんでくる
俺は誰なんだ?
あたりを見渡した、自分の手や足、体を確認したい
だがただ視界には白い光が広がり何もわからない
まるで自分が雲になったようにどこかに浮かび流れているような感覚がする
「あーあー...もしもーし、聞こえてますかー?」
この空間にふさわしくない呑気な女の声が響き渡る
「あのーすいませーん、魂さーん聞こえてますかー?」
.........魂?
全く予想のできない単語が現れ少し驚く
「なんだいるじゃないですか、どうもです魂さん」
誰に挨拶をしてるんだ?
もしかして俺か?
「そうです、そうです。あなたですよ魂さん」
もしかして俺の声(?)が聞こえてくるのか?
「えぇバッチリ聞こえてますよ、どうもです」
ど、どうも...?
「なんだが元気がないですねぇ...ふむふむ、別に魂の波長には何も異常は見られないですし...どこか別のところに問題でも...」
お、おいちょっと待ってくれ。お前は誰なんだ?ここはどこだ?俺は誰──
「はいはいストップストップ、落ち着いてください。そこらへんは順番に説明しますから安心してください」
......わかったよ。なら早く説明してくれ
「了解です!!まずはですね...ここは天界のとある空間です」
天界?とある空間?一体何を言っているんだ?
「その反応は当然だと思いますが、ここは天界なんです。そしてあなたは天界に住まう魂の一つなんですよ」
天界に住まう魂?俺は魂なのか......ということは俺は死んでいるのか?
「んー...死んでいるというよりは死んでここに来たというのが正しいと思います。残念なことにあなたは結界から漏れ出て浮遊している所を私が見つけたのでどこの世界でいつ死んだかわかりません」
女は「結界内に戻して調べればわかりますが、それでは計画が台無しですからねぇ」と付け加える
わからないか...わからないと言えば、俺は自分のこともわからないんだ...俺は一体誰なんだ?
「それは死ぬ前のあなたか誰だったのか、ということを知りたいということですか?」
あぁそういうことだ
「んー...魂に記憶が刻まれているのですが、なぜか現在封印されています。私の技術なら封印をといて記憶は呼び起こせますが」
なら封印を解いてくれれば───
「たしかに可能ですがオススメできません。ネタバレしちゃいますが今からあなたは新たな世界へと転生します。その時に前世の記憶を抱えたまま生まれ変わりたいですか?確かにあなたが誰かわかるでしょう、ですが悲しい思い出、嫌な思い出もついてきます。それでもいいのですか?」
それは...たしかに嫌だな......
......え、俺転生するの?
「えぇしますよ、今これからするんですよ。おっとそろそろ始めないと時間的に少し危ないですね...そういえば自己紹介を忘れてました、私は運命を司る女神の一人エリーナと申します」
そしてエリーナと名乗る女は「よろしくお願いしますね」と言った
しかし女神か...ここが本当に天界だったら女神がいるのは当たり前なのかもしれないな
だけどこの女が女神ってのが全く信じられないんだが...
「あのー...全部私に聞こえてるので気をつけてくださいね?それに私は本当に女神なんですから信じてくださいねっ!!」
かなり食い気味にエリーナが訂正してくる
さては何回か言われた経験があるから気にしてるんだな?
「だから聞こえてるんですって......もうほんとに時間が無いので始めましょう」
始めるって何をだ?
「あなたの魂を新世界仕様にコンバートするんですよ。これから行く世界は少し特殊なのでそれに見合った魂に変化させるんですよ。それじゃあ始めますね。今から数個質問するのでそれに答えてください」
質問...?
「はい、その質問に対する解答に応じた形で能力を付与するので。えー...まずは魂さんが一番怖いものは何ですか?」
一番怖いもの?
「はい、怖いものです。幽霊でもいいですし、怒りのような概念的なものでも構いません。一番最初に思いついたもので構いませんよ」
一番最初に思いついたもの.....
それは、「裏切り」...
「ふむふむ裏切られることですか...前世で大きな裏切りにでもあったんですかね...とりあえず...これとこれを組み合わせて、魂に書き込んで〜」
何かビリっと痺れるような感覚を感じる
魂を変えるとか言ってたよな...確実に俺は今改造されている気がする
「それじゃあ他には怖いことってないですか?」
他に?そうだな......「無知」ということが怖いな...
「知っていなければ安心できない、みたいなことでしょうか...ならこんな感じの能力がいいですかねぇ」
またしても痺れるような感覚がする
「さて、じゃあ今度は逆にあなたが一番欲するものは何ですか?」
「チカラ」だ
「ち、力ですか...即答でしたね」
わからない、俺の意志とは無関係に言葉にでてきた
だが否定ができない、本当に俺が望んでいるものなのか?
「魂を改変している影響で魂につけられていた記憶枷が緩んで無意識下の欲望が表に現れやすくなっているみたいですよ、裏切りといい力といいほんとに一体どんな過去だっんだか...とりあえず今から行く世界に力があることに越したことはないですから、残りのエネルギーはそちらにまわしておきましょうか」
そして3度目の痺れるような感覚
ほんとにさっきから一体何が起こっているんだ?
「さーて、転生準備はほぼ整いました。今から転生する世界についてもっと下調べをしておきたかったのですが、時間がないのでもう転生しましょうか」
え?もうするのか?まだもっと聞きたい話が色々ある──
「あー、そこらへんは転生してからいっぱい話せますから...それじゃあボタンを──」
「ちょっとエリーナ!!なにやってるのっ!!」
「どひゃっ!?──って、えぇリリアーナなんでここに!?」
「何でじゃないわよ、あなたまた勝手なことをして!!」
「い、いいじゃないですか!!もう天界には飽き飽きなんですよ!!」
......おーい、勝手に盛り上がらないでもらえますか?話聞こえてますか?
「もうこうなったら──えいっ!!」
「エリーナ!!あなたって子は......!!」
ポチッ、とボタンを押す音が聞こえてきて何かが作動する音が鳴り響く
「へへーん、これでもう後には引けないですね!!さぁさぁ魂さん、転生しますよ!!新たな世界へ行きましょう!!」
おいちょっと待て、おい!!
いきなり過ぎっ─────────
俺が言い切る前に目の前に広がっていた白い光の強さが強くなり俺の意識は闇に落ちた
◇
「うぐっ──がはっ、ごほっ!!...はぁ...!はぁ...!」
ひどい夢を見ていたみたいだ
呼吸が乱れを治したくて胸を押さえつける
そしてボヤけていた視界がだんだん良くなり、視界が明瞭になる
「ここはどこだ...?」
ついさっき同じようなことを言った気もしなくないが、本当にここはどこなんだ?
あたりを見渡してみる
俺はベッドの上に上体を起こしている状態にある
そして毛布を開かなくてもわかるが俺は裸だ
空気を冷えていて少し寒い、近くに窓がないから外がどのようになってるかは確認出来ない
「なんなんだこの状況は...?」
何が起こってるかまったくわからない
ここはどこだ?というか俺は......
って、なんかこれさっきもやらなかったか?
「目覚めたか」
「──っ!?」
その部屋の角にあった扉が開く音と共に女の声が聞こえてきた
「驚くのもわかるがとりあえず落ち着け」
「あんたは一体誰なんだ...?」
「私か?私の名前はトリスだ」
白いシャツを着た藍色の髪の女は名乗る
トリスという名前はわかった、だけど自分から聞いてなんなんだがそれを知ったところで結局今の状況は変わらない...
「全く何が起こっているかわかっていないようだな」
「あぁ...」
「それも仕方の話だな...とりあえず服を着ろ、ちょうどさっき離れた街の方へ行って男物の服をいくつか買ってきたから着替えろ」
そう言ってトリスは服装を1式俺の方へ投げ、「私は隣の部屋で待っているから、着替えたら来い」と言って部屋を出ていく
服一式と俺は取り残される
「はぁ...」
よくわからんが、とりあえず着替えてトリスという女の話を聞くのが最善そうだ
そして俺は女の言う通り着替えを済ませ、隣の部屋へと向かう
◇
「さて、一体何から話したものか...」
椅子に座ろうとしながらトリスはそう言った
「とりあえず、何から知りたい?」
「何からか...色々ありすぎて困るな」
「それもそうだろうな。あれを経験して戸惑わない奴はいないだろう」
「あれ?」
「ん?お前は転生してこの世界に来たんだろ?」
「転生...?」
「ん?知らないのか?...なるほど勇者ではない理由はそういうことか。そして転生前の記憶はなくなってるいるようだな...」
トリスだけが何故か納得した顔をする、そして俺はまったく理解出来ていない
「おいおいそんな顔をするな、お前にもわかるように説明してやる」
「......頼む」
「簡単に言えばお前は別の世界からこの世界に連れてこられたということだ」
「連れてこられた?」
「あぁ信じられない話だがな、ちなみにどうして私にわかるかというと私も同じ経験をしたからだ」
「じゃああんたも転生してきたということか?」
「そういうことだ、私はお前の先輩にあたるというわけだ。あといいか、私のことをあんたじゃなくてトリスと呼べ、それかトリスお姉様だ」
「......了解した、トリス」
流石にお姉様とは呼ばないわ、そんな残念そうな顔されても困るんですよ
「俺が転生者というヤツなのはわかった...だけど、俺は──」
「誰なんだ?だろう?」
「......どうしてわかった?」
「私はお前が何者なのかわかるからだよ」
「.........?」
トリスは俺の素性を知っている
でもどうしてだ?なぜわかる?
「私には見えるんだよ、目の前の者が何者なのかをね」
トウカが自分の髪の色と同じ藍色の輝きを放つ瞳を指さして、笑みを浮かべる
その自信に満ちた笑みからトウカの言ってることは嘘だとは思えない
「......じゃあ聞くが、俺は何者なんだ?」
俺は恐る恐るトウカに聞く
そしてトウカは「ふむ...」一拍おいて──
「お前は何者でもない」
「............は?」
「お前は何者でもないんだよ。分かるのは年齢が17、性別は男ということ...それとお前が特別な能力を持っているということだけ」
「名前とかは...?」
「お前には今名前が存在してない。だから記憶が無いことと合わせて何者でもないということなんだよ」
「何者でもない、か...」
記憶も名前すらも無い俺は何者でもない...俺は一体...
「おいおい、そんな悪い話じゃないから気落ちするんじゃない」
「何が言いたい?」
「簡単な話だ、何者でもないってことはこれから何者にでもお前の好きなようになれるという事だ」
「何者にでもなれる...」
それは確かに悪い話ではないかもしれないな...
「名前だって自分の好きなように決めていい、生き方だってそうだ。お前はこれからお前の生きる形を自由に築き上げることができる」
「俺の生きる形を...」
「そうだ。......それでだ、ものは相談なんだがな、一年間私の元でその生きる形の土台を作らないか?」
「トリスのもとで?」
「あぁ、お前はこの世界に何も知らない状態でやって来ただろ?だから私がお前に転生者の先輩としてこの世界での生きる術を教えてやる」
「なるほど...」
ここでトリスと2人で一年間...
冷静に分析しても美人なトリスと2人でか......これは喜んで話を受けるべきなんじゃないか...?
「なんだ?こんな美人なお姉さんと2人きりじゃ毎日やきもきしてしまって大変か?」
「......別にそんなこと考えねぇよ」
「ふふ...素直じゃないやつだ。それでどうする私の元で生きるすべを学ぶか?それとも、なにもわからぬまま今すぐここから出ていって露頭に迷い野垂れ死にするか、はたまた無残に野獣や怪物たちに食い殺されるか.....どうする?」
「流石にそれはいいすぎなんじゃ?」
「言っておくが、この建物周辺は結界で守られているから安全なんだ...一度結界の外に出たら狼など可愛く見えるくらいの怪物がウヨウヨとしている」
「なんの冗談を...」
狼が可愛く見える怪物って一体何なんだよ、狼だってかなり危険な存在だろ...
「それだったら直接お前の目で確かめた方がよさそうだな......よし、見せてやるからついてこい」
「お、おい......!!」
トリスは返事もせずに立ち上がり、スタスタと扉を開き外へと出ていった
俺はトリスにいちいち文句を言っても無駄だとわからはじめていたので諦めて俺もトリスの後を追う
「これは...」
俺は外へと続く扉をひらき、そこで立ち止まる
「どうだ外の空気は?新鮮か?」
トリスが少し楽しそうに笑いながら、こっちを振り向く
「新鮮かどうかはわからんが、少し不思議な気分がするな」
「ふむ...その不思議な気分はここの環境のせいかもしれないな」
ここの環境か...辺りはうっすらと霧が立ち込め、周りは木々に囲まれている。確かに不思議な雰囲気を醸し出しているな
「さて、お前に見せてやりたいものなんだが......丁度いいところにいるな」
トリスはまた楽しそうに笑い、そして俺に「ついてこい」という
よくわからんがついて行くのが正解なんだろう──
「ウホッ、ウホッ、ウホォォォォォォ!!」
「............」
開いた口が塞がらないとはこのことだろうな
まったくわけがわからないが、とりあえず俺の目の前でデカイゴリラが見えない壁を叩きまくって吠えている
「案の定驚いたようだな」
「...驚かないわけがないだろ」
いやいや、まじでなんだよこれは...
情報力が多すぎて処理がしきれないな
たぶんこれがトリスが言っていた魔物というヤツなんだろう、さっき家の中でトリスはこのゴリラのような魔物がウヨウヨといると言っていた
確かにこんなのと1人で遭遇したら俺は一発で天に召すことになるな...
「で、どうする。私のもとで暮らしてみるか?」
「断る理由は......ないな。だけど一ついいかトリス、お前にこれをどうにかできるのか?」
「ん、私にか?ちょうどいい、いくら叩かれても支障はないがいちいち感知させられるのも鬱陶しいからな......見ていろ」
そう言ってトリスはおもむろにゴリラに近づき.........
「大人しく森に帰ってろ」
「なっ......」
トリスがゴリラの腹を蹴り、吹き飛ばす
ゴリラは呻きも残さず、木々の闇へと飛んでいった
「どうだ?これで疑問も解消されただろ?」
確かに一つ前の疑問は消えたが、もっと理解できない疑問が発生したんだが...
「何をそんなにしぶっているんだ?」
「トリスが強いのはわかったが...俺はさっきみたいなことはできるようになるとは思えないぞ?」
「なんだ、そんなことなら心配はいらないぞ。お前は転生者だから特別な力を持っている...私の見る限り潜在能力はなかなかのものだ」
「俺に特別な力が...?」
「あぁその正しい使い方を教えてやる。私たち転生者がもつ力は強大だからな、間違った使い方をすれば破滅の道を通ることになる」
トリスの言葉を聞きながら、俺は自分の手のひらを見つめる
俺に力が...?なんだろうか、このなんとも言えない不思議な感覚は...?
いきなり君には特別な力がある、と言われて俺は興奮してるのか?
「この刺激が無い場所で1年間何をしていようかと思っていたのだがな...なかなかいい拾い物をしたもんだ、楽しみな一年になりそうだな」
「.........とりあえずそういうことは俺の聞こえないところで言ってもらえるか?」
トリスのなんとも言えない笑みに俺は興奮よりも不安の気持ちが大きくなった
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