或る殺し屋の日記
私は、所謂【人殺し】だ。
いきなり何を暴露しているのかと疑問に思うだろうが、仕様が無い。コレは私の心の内を書き綴った【日記】なのだから。
いや、【日記】という程頻繁には書かないだろう。裏の世界でも表の世界でも、そこそこ有名な【人殺し】である身。いつまた書けるか等、明日も生きられるか等、分からない。
でも、……いや、だからこそ、私という存在がこの世界に居たのだと、存在していたのだという【証拠】を、遺したい。
昔、古い友人が私に言った。『人との繋がり、絆を馬鹿にするな。人とは、目に見えず、不確かである筈の【友情】とか、【信頼】なんかを信じて動くときが時たまあるんだ』と。
今でもその言葉の意味を理解出来ていない。
何故、不確かな存在を信じる事が出来るのか。
しくじった。
真逆、長年の付き合いである依頼者と標的が手を組んでいただなんて。いつもなら、その殺意に気付けた筈なのに。
いや、初めて会ったとき、アイツは私に殺意を向けていた。長年付き合っていた故、その殺意に慣れてしまったのか?
何故だか、胸が痛い。目から水が出る。おかしいな。どこも怪我をしていない筈なのに。
アイツが、古い友人を殺した。
『お前の所為だ。お前が俺の家族を殺さなければ、こうはならなかったものを』そう言って。
古い友人は、最後に『死後の世界でも、来世でも、お前を愛し続けよう』と言って息絶えた。
愛し続ける? 愛とは何だ? 何故、お前は笑っている、何故? お前は昔言った。死が怖いと。死が怖いのに、何故死んで尚微笑み続けている? 何故、何故?
嗚呼、胸が痛い。目から水が出て、視界が悪い。
古い友人が殺されたあの日から、ずっとこの調子だ。何故だろう。
それよりも、アイツが私の住処を嗅ぎ回っている。早急に手を打たなければ、ここがバレて私も殺される。
どうしよう、どうしよう。
すべてがどうでもいい。
もう、なんにちもなにもたべていないし、ねてもいない。うごいてすらいない。
もうすこしで、おまえのもとへいけるよ。こんきょはないけれど、そうおもえたんだ。
おまえのいっていたことばのいみや【あい】はいまだにわからない。
けれど、もういいんだ。おまえにあえるから。
ああ、ふるいゆうじんのすがたがみえる。むかえに、きてくれたんだね。
あれ、おまえ、なぜ、かおがな────(黒い染みが広がり、此処から先の文字が見えない)
この日記は、一つの骸と共にあった。
その骸は昔世間を騒がせていた殺し屋のものだと判明。前から何か鋭利な物で刺されたのが死因とみられている。
死体の前には、小さな机と壁しかないというのに、奇妙な話だ。