99話・開幕は「エルフの都」から
グラスの必殺技、フロスト・エッジが、シュタハスに襲いかかる寸前。
間一髪の所で、フラムが彼女を救出する。
その凄まじい、究極技をまえに。
フラムは咄嗟に身を翻し、ほんの寸前にて回避…
なんとか、直撃だけは免れられた。
しかし…
無理やりな、回避行動によって。
烈火のドラゴンは、体勢を崩してしまった。
その上、頭から、床に激突してしまう。
ぶつかった衝撃で、首元の傷から、電気のような激痛が走る。
このままだと、グラスにやられてしまう。
激痛を耐えながら、フラムは、体勢を持ちなおした。
だが、相手の準備は、とっくに完了しており。
蒼白い輝きが、グラスの口一杯に広がっていた。
その青白い輝きから逃れるよう、フラムは翼を広げた。
「ぐっ!」
そして、シュタハスを咥えたまま。
まるで、床を滑るように、低空飛行を試みた。
目指すは、竜の眼の果てにある…飛び台。
そう、飛び台を越えたなら、シュタハス神殿から脱出できるのだ。
標的に逃げられ、
グラスも対抗して、ボロボロな翼を広げた。
だが、バサバサと、風が舞うだけで…
今の彼は、飛ぶことが出来ないらしい。
どうやら、感染の影響によって、飛行能力を失ったのだろう。
獲物を逃したグラスは…
ただ、本能の赴くまま、フロスト・エッジを連発している。
そして、しばらく暴れていると。
事切れたように、グッタリと大人しくなって…
ただ一人、グラスは、緑の涎を垂らしていた。
もう、どこにも…かつての「沈黙と氷結のドラゴン」はいない。
竜の眼から、脱出したとき。
鮮やかな朝日が、二人を出迎えた。
破壊と烈火のドラゴンは、ズタボロな翼を、羽ばたかせながら。
我が主を背中に乗せ、朝日の空を進んでゆく。
シュタハスは、空の上から、開花の森を一望すると。
その真っ白な髪を、そよ風になびかせた。
「ほら、ここから…幕が開く」
ふぅ…と短く呟いて、小さな体を、心地よく揺らす。
「まずは、マシュルクだね」
と、ただ穏やかに、次の目的地を告げた。




