98話・かつての友よ…どこへいった?
もう、今のグラスに、理性など欠片も残っておらず。
虚ろな眼から、緑の液体を流しながら…
かつての友に止めを刺すべく、必殺技を、リチャージ(再装填)してゆく。
ここにいる、氷結のドラゴンはもう。
竜の形をした…ただの殺戮兵器であった。
対する、フラムの方は。
薄れる意識のなか、抵抗を試みるが。
大量の出血のせいで、体が思うように動いてくれない。
体は何とか動くのだが…
もう、自分は助からないと、どこか諦めもあった。
グラスの口が、蒼白く輝き、「フロスト・エッジ」が装填される。
フラムは、立っているだけで精一杯、切り抜けるのは困難だろう。
そして、氷結の必殺技、フロスト・エッジが放たれるとき。
「グラスゥウーー!こっち、だよおおおお!!!」
右側から、少女の声が響き渡った。
瞬間、グラスの意識が傾き…
氷結のブレス(フロスト・エッジ)が、右下へと放たれる。
一瞬で床が凍りつき、あっという間に、スケート場が出来上がった。
その鈴のような声が、フラムの意識を引き戻す。
鮮明になった視界に、白髪の少女の姿が映し出される。
「シュタハス?!バカなッ」
彼女は、グラスの足元にめがけて、ダッシュするが。
凍りついた床のせいで、転んでしまった。
「ふっ…うッ!」
小さく呻いても、また立ち上がる。
その視線の先には、小さな豆粒があって。
この粒こそ…ついさっき、フラムが落とした「六華の種」だった。
きっとシュタハスは、六華の種を、回収するつもりなのだろう。
だが、最悪なことに。
六華の種は、感染したグラスの足元。
ゆえに、種の回収は、相手の射程範囲に入ることを意味していた。
それでもシュタハスは、ヨロつきながら、氷の上を歩いてゆく。
六華の種を見据えたまま、慎重に歩き続けた。
グラスの標的は、彼女へ完全に移っており。
少女一人を潰すため…腹の底から、氷のエネルギーを掻き集めた。
吹雪の轟音が響き、氷の床に亀裂が走ってゆく。
尖った冷気が、フラムの鼻先を撫でると。
彼は直感的に、シュタハスの危険を察知した。
フラムは、鋭利な爪脚を、床に突き立て、砲弾の如く飛んでゆく。
そして、彼女の小さな体を摘むように。
シュタハスを、その口で拾い上げた。




