97話・手の平クルリ☆だけは一人前♪
シュタハスの背中が、遠ざかっていく。
その背中を見届けながら、皆が確信する。
彼女こそ、自分たちが、信じるべき存在なのだと…
ついさっきまで、彼女を憎んでいたのに。
ご都合よく、手の平返し…ここに至って、敬意を払っていた。
そんな御めでたい彼らに、レ二ズが怒鳴りながら指示を飛ばした。
「てめえら、トンズラすんぞ!おら、呆けてんじゃねえっ!」
だが、またまた都合よく、シュタハスを置き去りにできない…と。
綺麗事を抜かす者が、少なからずいた。
ここでワイズが、皆の迷いを一蹴した。
「僕たちの『人生』は…彼女への、捧げ物じゃないだろ?」
その力強い台詞に、皆の視線が集中する。
「僕たち…一人一人に、未来があるんだ。それが」
「シュタハスが、僕たち皆に、名をくれた…意味なんだ」
このワイズの台詞が、力強く響き渡って。
彼ら(モンスターたち)に、「逃げる」選択と、「未来」への勇気を与えた。
一人…また一人と、保管庫へ撤退してゆく生存者たち。
後は、レ二ズとワイズだけが残り。
レ二ズが、やれやれと、呆れたように口を開く。
「あの女から、トーク力を盗んだのかな?」
「…いこう」
相方の茶化しをスルーして、ワイズも保管庫へ撤退してゆく。
レ二ズは、ワイズの背に乗ってから、ボソリと言った。
「必ず、迎えにいこうぜ…」
「ああ」
ドラゴンの唸り声が、天井を震えてゆく。
それでも二人は、少女一人を置き去りにして、撤退することにした。




