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96話・翼のある感染者



 シュタハスの一喝により…

フラムの体が、反射的に動いた。


しかし、グラスは、ゼロ距離にまで接近している。

つまり、必殺必中の距離、回避など不可能。


ズゥオオオオオオオオオ!


吹雪の音が空を切り裂き、フラムの巨体が吹き飛ばされた。


 これぞ、沈黙と氷結のドラゴンの究極技…フロスト・エッジ。

かつて、天をも凍らせた、絶対零度のブレス。


荒々しい氷結が、暴風の如く、体当たりをしてくる。


 瞬間…フラムの喉から、血が噴き出てゆく。

紅の鱗が、紙くずのように飛び散り。

ゴプッ、ゴップ、ゴプッ…と、喉元から血が、滝のように流れてゆく。


「うッ…あ…」


 一瞬にて、首元が凍りつき。

体中の力が欠けてゆき、視界が真っ白になった。


だが、薄れゆく意識のなかでも…

破壊のドラゴン(フラム)は、底力で踏ん張った。


しかし、感染したグラスは、一切の容赦もなく。

フラムにトドメを刺すべく、ジリジリと、距離を詰めてくる。


 フラムの危機に、シュタハスが駆け出した。

彼女はきっと、瀕死のドラゴン(フラム)を、助けるつもりなのだろう。


その無謀な行動を、止めようとするレ二ズ。


「ここで、割り込んでも。氷漬けだぜ?」

ただ冷静に、説得を試みる。


「アイツ(フラム)は終わりだ…もう、逃げるっきゃねえ」


 その意見には、ワイズも賛同のようで。

彼女が大人しく、身を引くのを願った。


「保管庫の裏口なら、まだ安全なはず。トロトロすんな…」


この「保管庫へ逃げる」という提案に、シュタハスは首を横に振った。


「レ二ズ…バトンパス。あとは、よろしくね?」


 そして『また』、黄金の瞳を和らげ、軽く笑ってみせる。


そして、二本のアホ毛を揺らしながら、モンスターたちに背を向けると。

二頭のドラゴンの元へ、駆け出していった。




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