93・ユメもキボ―もあるんだよ?
気力が薄れてゆく、ワイズへ…
シュタハスが、やんわりと問いかけた。
きっと、彼女なりに、ワイズを心配しているのだろう。
「ねえ、ワイズ。名前の意味、わかる?」
「名前の、意味?」
唐突な質問に、ワイズは動揺してしまう。
シュタハスは、二本のアホ毛を、揺らしながら。
淡々と、言葉を連ねてゆく。
「名前はね、夢を、あたえるの」
この夢…という響きが、ワイズの感情を昂らせた。
背中の上にいる、彼女の表情は、ワイズには分からない、でも。
確かに、その一語一句が、胸に突き刺さってくる。
「モブキャラだって…夢を見ていい」
なぜなら…と、鈴のような声で、ハッキリと言ってみせる。
「名を持つのは。誰だって、平等なのだから」
彼女の後ろで、レ二ズは、キョトンと呆けているが。
ワイズは、その言葉の意味が、何となく分かるような気がした。
有象無象のゴミ(モンスター)でも。
この世界の害虫でも。
ただの消費物でも。
未来へ続く、夢を見ることを…シュタハスだけは、受け止めてくれているのだ。
夢という希望が、彼の不安を払い、確かな道しるべとなる。
「夢…そうか。僕にも、みえました」
もうどこにも、畏れなどない。
同志の屍を越え、ただひたすら、階段を昇り続けるのみ。
己の夢を得て、ワイズの調子は、最高潮に達していた。
「しっかり、捕まってください」
コクリと頷き、シュタハスは、ワイズの背中にしがみつく。
そんな彼女の耳元で、蚊帳の外だったレ二ズが囁いた。
「口だけは、上手いっすね…」




