92話・自分とそっくりな…死体の山
ワイズは無数の眼球で、敵(感染モンスター)の隙を見定める。
二人(シュタハスとレ二ズ)を乗せたまま。
感染者たちの猛攻をくぐり抜け、間一髪…窮地から逃れた。
なんとか、敵の群れから脱出して…
一行は「とある場所」へ、移動する事となった。
そこは、真上に伸びる、大きな螺旋階段だった。
この階段は、「昇花階段」と呼ばれており。
見ての通り、螺旋状の階段となっている。
そして一番の特徴は、この階段さえ昇れば、最上階の「竜の眼」に行けることだ。
一番下の階から、最上階の龍の眼へと、長い階段が円状に続いている。
二人(レ二ズとワイズ)が目指すのは、竜の眼…
竜の眼に避難すれば、フラム(ドラゴン)だっているだろうし。
きっと、この現状よりも、安全な筈だから。
だが、長すぎる螺旋階段に、ワイズのペースも落ちてゆく。
「おい、大丈夫かよ?」
疲労した相方に乗っかりながら、気を遣うレ二ズ。
真面目な巨大クモ(ワイズ)は、黙ったまま、一段一段と、階段を昇り続けた。
今の彼は、かなり緊迫していた。
それは当然だ…血塗れのシュタハスを、背負っているのだがら。
「シュタさまの危機なんだ!僕が…踏ん張らなきゃ!」
強い決意と共に、ひたすらゴール(竜の眼)を目指す。
真剣な相方へ、レ二ズが、気まずそうに言葉をかけた。
「あ~、その、さあ。シュタハスなんだけどぉ」
ユラユラ…と、レ二ズの前で、二本のアホ毛が揺れている。
「もうすっかり、元気なんだよなぁ~」
そう、彼(レ二ズ)の言葉の通り。
ついさっき、シュタハスは、両足を失った筈なのに。
まるで、トカゲの尻尾のように、両足とも再生していた。
完治した脚を、ブラブラとしながら。
今こうして、彼女は、自らワイズの背に跨っている。
そんな彼女の後ろに、レ二ズがいて。
二人の会話に、反応するシュタハス。
そして、ゆっくりと何気なく、レ二ズへ振り返った。
「い、いや…なんでも~」
黄金の瞳と視線が重なり、灰色のゴブリン(レ二ズ)は調子を乱してしまう。
シュタハスは、瞳を丸くしながら、不思議そうに首を傾げた。
そして彼女は、昇華階段を見渡しながら、ワイズに軽く問いかける。
「私なんかの心配より。未来を…気にするべきじゃない?」
その穏やかな口調は、どこか冷たい。
辺りの有様を見ながら、ワイズは、返事を絞り出した。
「自分も…ここにいる、同志(巨大クモ)と同じく。捨て駒でしかありません」
そう、この階段は…
ワイズと同種族の「巨大クモ」の死骸で、溢れていたのだ。
自分と同じ形をした、死体を踏みつけながら、ワイズは声を震わせる。
「モブキャラになんて…未来も希望も、無いんです」




