91話・アホ毛の解体作業
そして、シュタハスは…
「貸して」と、短剣を渡すよう、命令してきた。
この短剣で一体、何をするつもりなのか?
こんなに、緊迫した状況ゆえに。
レ二ズには、冷静に判断する事ができなかった。
だから、彼女に言われるまま、アッサリと短剣を手渡してしまう。
シュタハスは、短剣を両手で握り絞め、自分の脚に、視線を流してから…
「ふぅ~」と、深く呼吸を置く。
そして…
ズシャッ!
自ら…太ももに、短剣を突き刺した。
「うッ…うぅ!」
小さい口から、荒々しい吐息が漏れてゆく。
「ふぅ、ふ…ぅ」
ズシャ、ズシャ、ズシャ。
まるで、肉を切り分けるかのように、短剣を上下に動かす。
ヌチャリ…
ようやく、彼女の片足が、切り落とされ。
切断された「右脚」が、転がっていく。
黄金の瞳から、涙がこぼれ、短剣を握る手が震える。
だが、しかし…
ここまでしても、彼女はまだ動けない。
もう片方の脚「左足」も、下敷きになっているからだ。
彼女は次に、左足を睨み、再び短剣を振り上げる。
ズシャッ!
間髪入れずに、左の太ももへ、短剣を突き刺す。
自らの肉を裂く度、彼女の肩が、小刻みに震えていた。
真っ赤に染まりゆく、シュタハスの足元。
その血溜まりを前に、呆気に取られてしまうレ二ズ。
やがて、左脚も切り落とされ…
足の形をした…ただの肉片が、そこに転がっていた。
両足とも切り落とし、シュタハスはようやく、オークから離れる事ができた。
「はあ、ふ…うぅ」
小さな手から、短剣が転がり落ちる。
ここでようやく、レ二ズが我に返る。
彼女の行動に、動揺しながらも、何とか手を貸してみた。
「イカれてやがる!」
そう怒鳴りながら、シュタハスの体を持ち上げた。
「ふ、ふふ…」
レ二ズに怒られながら、彼女は消えゆくように笑う。
両足を失ったことで、彼女の体は、とても軽くなっており。
腕力ないゴブリン(レ二ズ)でも、難なく抱えられた。
大量の出血により、彼女の顔色は、蒼白になっている。
その表情を、間近で見ていると…レ二ズは、焦らずにいられなかった。
彼女を抱えたまま、ワイズの背に、飛びかかるように乗り。
そして、叫ぶように、合図を出す。
「待たせたな!いけッ!!」
「おそい!」
もう既に、敵(感染モンスター)は鼻の先…
ワイズは二人を乗せて、突風のように飛び出してゆく。




