8話・リオスと謎の手
深い眠りのなか…
リオスは「とある夢」を垣間見た。
そこは一面、真っ白な花畑。
白い花弁が、風にのって、宙で踊る。
花畑の片隅には、小さな木が一つ。
その木は、まるで「何か」を隠すように潜んでいた。
ボンヤリと分かる…その「何か」が。
小さな「赤色」…一凛の花。
赤い花弁が、凛と揺れて。
その姿は「誰かの到着」を、待ち望むように見える。
この夢は、妙に心地がよく。
静かなる平穏に、身を委ねたくなった。
ただし…
こういう一時(平穏)は、長く続かないモノ。
「ああああああああ!」
突然の『大きな叫び声』が、平穏を切り刻んできた。
悲鳴との距離は近い…
おそらく、この兵舎の外からだろう。
兵舎の窓から、夕日のオレンジが射しており。
ここでようやく。
リオスは、呆けた意識で「目覚めた」。
「う~ん、どうしたんだ?」
ボ~としながらも、悲鳴の正体を探る。
そして…
なんの警戒もせず、窓を覗くと。
瞬間、理性も思考すらも「現実」に引き戻された。
そう、窓の外にて、広がっていた景色は。
絵に描いたような、地獄そのもの…
人の死体が、ゴミ山のように、散乱していたのだ。
死体の殆どが、手足や頭を失っており。
ミンチと化した、同志の末路を…ウジ虫の群れが啜る。
そして、さらには…人が人の肉を喰い。
臓器などを引きちぎり「共喰い」している姿が…
「人が人を…喰って?」
自ら呟き、体に寒気が走った。
死体が起き上がり、次々と仲間の肉を喰う。
「まるで…ゾンビじゃないか」
しかし、彼の知るゾンビは。
「とても鈍く」腕力もない雑魚モンスター。
それなのに…
この化物たちの動きは俊敏で『暴力的』。
ゆえに、ゾンビではなく。
錯乱した「人間」いや…「感染者」にしか見えなかった。
ここにいては、まずい!
最悪の場合、この兵舎は、感染者に囲まれているかも。
そうなれば、生きる希望はなく。
あるとすれば「死」だけだ。
こんなところで、死んでたまるか!
恐怖を払うように、自分の頬をつねり。
急いで行動に移した…
さっき書いた「手紙」を、守るように懐に隠し…
使えそうな武器を、探そうとした。
しかし、この兵舎はあくまで「休息所」に過ぎず。
ナイフ一本すら、備わっていない。
その上、ほかの生存者の姿もなく。
どうやら、一人の力で、切り抜けるしかない。
これから、どうすれば?
ここから、どこにいけば?
いくら考えても、答えはでない。
考え…途方に暮れているうちに。
ほんの一瞬、夢の中でみた「鱗片」を思い出す。
ソレは「白い花壇」…
リオスは、あの花壇を知っている。
きっと、研究所の東区にある「ドーム」に違いない。
そこ(ドーム)には『白い花壇』という植物園があった。
唯一の希望が、あの花壇にあるかは分からない。
だが…
「ブルーメン…」
どうしてだが。
白い花壇を歩く、重騎兵の姿を垣間見た。
「今、いくぞ」
この瞬間。
子供の幻影が、彼の脳裏にて、ひっそりと現れた。
「赤い髪の毛」の女の子が、手招きをしてくる。
その幻影を見まい…と。
リオスは「友を助けるため」と、必死に思い込んだ。
自分が「錯乱」している…など。
自覚したくなかったから。
きっと、あの花壇に行けば、希望が待っているはずだから。
その為にはまず、この兵舎から、出なければならない。