89話・感染モンスターに囲まれて
沈黙と氷結のドラゴンが死んで…周りの空が、一気に静まり返る。
残酷な現実が、フラムに圧し掛かり。
彼の口から、六華の種が、零れ落ちてゆく。
一方、モンスターたちは、二頭のドラゴンを嘲笑っていた。
「そんな不良品(六華の種)なんざ、効くわけねえさ」
「ああ。どっち道、死んでたろうよ」
捻くれた連中に、フラムは怒りの眼差しを向ける。
だが、誰一人、彼の感情など気にしない。
フラムは、ひたすら耐え忍んだ。
友のグラスが、わが身を犠牲にしてまで、シュタハスを信じたのだ。
ここで、冷静さを失えば。
それこそ、グラスの死が、無駄になってしまう。
感情的に、なってはいけない…
破壊と烈火のドラゴンは、瞳を閉じて祈った。
信じるのだ…シュタハスを。
黄金の瞳をもつ彼女が、この絶望を希望に変えてくれると。
だが、このとき…
死んだ筈のグラスの尻尾が、ピクリ…と動いた。
この僅かな、グラスの変化に、誰も気づいていない。
そして…ひっそりと。
グラスの亡骸が、緑の液体に、覆われてゆく。
神殿の中に戻ってみると…
レ二ズとワイズは、中の有様に戦慄してしまう。
広間一体が、血で染まり。
真っ赤な血と緑の液体が、ドロドロに混じりあっている。
広間の至る所に、スライムやスケルトン、オークが蠢いており。
彼ら(モンスター)は皆、正気の沙汰ではなかった。
ゆえに、パッと見ただけで「感染」しているのが分かる。
二人を発見次第、すぐさま感染モンスターたちが、襲いかかってきた。
そんな怒涛の猛攻を。
ワイズは一瞬で見抜き、感染モンスターたちの脇をすり抜けてゆく。
だが、次の瞬間…ワイズの動きが、ピタリと止まる。
無防備なワイズに、レ二ズが怒鳴る。
「はあ?!なんで…」
と、言いかけた時、その原因がすぐに分かった。
その視線の先には、オークとゴブリン兵の死体があって。
「何か」が、オークの死体の、下敷きになっていたからだ。
その「何か」とは。
明らかに少女で…白髪とアホ毛を覗かせていた。




