88話・まだ知らぬ「モブキャラ」へ…
グラスはヨロつきながらも、竜の眼に着陸しようとする。
だが、ここまで傷ついた体では、まともに動ける筈もなく…
まるで墜落するように、グラスは、頭から墜落してしまう。
なんとか、竜の眼には、帰還できたものの。
氷結のドラゴンは、ボールのように、床を転がってゆく。
ズゥガガガガーン!
その衝撃音と共に、パラパラと、天井から破片が落ちてくる。
モンスター一同は、そんなグラスを、ただ傍観しているだけ。
しかし、友であるフラムだけは、すぐさまグラスの元へ駆けつけた。
「ぐ…らす、グラス?!!」
友の名を呼びながら、絶望するフラム…
もうすでに、グラスの容態は、壊滅的であった。
鱗がズタズタに裂かれ…
その傷口から、緑の液体が流れている。
そんな彼の姿を見て。
フラムは決心したように、慎重に一間置いてから。
大きな口を、慎重に開いてみせる。
すると、フラムの口から「一粒の種」が姿を見せた。
ソレをみて、モンスターたちが声を上げる。
「ありゃ違いねぇ!六華の種だ!」」
「野郎!口の中に、潜ませてたのか?!」
モンスターたちの叫び声をバックに。
フラムは慎重に、六華の種を咥える。
米粒のように小さな種…
潰さないように、優しく口で運んでみせる。
そして、倒れたグラスへ、「六華の種」を渡そうとした。
「グラス…受けとれ」
しかし、グラスは、首を振って断る。
「予言に…あった…ろ?」
血を吐きながら、友へ語りかける。
「戦士でも…勇者でも…な…い」
「ただの…モブが『世界』を救うと」
「六華の種は…ソイツに…つかって」
最後まで言い終えるまえに、グラスはグッタリと力尽きた。
死の間際でも、グラスは予言を…シュタハスを信じていた。
いいや、もしかしたら…
この沈黙と氷結のドラゴンは…
まだ知らぬ「ただのモブ(一般人)」に、思いを託しているのかもしれない。




