7話・緑の夕暮れ
「重騎隊が失踪したって?しかも、あの…花畑で?」
「いいや『死んだ』のほうが近いだろうよ」
二人の見張り(兵士)が、適当な会話を交わす。
どうやら、その内容は…
「白い花壇」で、失踪した兵士の話題らしい。
彼ら(見張り)の装備は、ロングソードに弓矢。
それに、メイルやアーマーなど、デフォルト(基本)の装備一式。
夕暮れの平穏に、警備の手は緩んでおり。
どうやら微塵も、警戒していない。
「死んだ?訳わかんねぇ」
「あくまで噂だが。『座標』が、消えたらしいぜ」
「ハハハッ、まさか!」
警備している、この通路は。
いつもなら、兵士やスタッフで賑わうのだが。
今日、この日だけは…彼ら以外に、人影が見当たらない。
進む通路は、シーンと静まり。
何気なく、通路を曲がったときだった。
その先にあったモノをみて、二人の顔色が恐怖に染まる。
そう、何故ならば。
たった一人…全身、血まみれの男がいたからだ。
警備の二人は、顔を見合わせると。
血塗れの男へ…恐る恐る声をかけてみた。
「おっ…おい、あんた。大丈夫かよ」
男の恰好は、作業服であり。
血まみれの作業服から…
作業スタッフである事は、容易く推測できた。
だが、それ以上の情報は分からず。
「おい、所属は、どこだよ?」
ここで、片方の兵士が、とある一点に気づく
男の作業服が「白色」である事に。
「この作業服、身覚えがある」
「たしか『被検体』の…」と、言い終わるまえに。
「たすけて、くれ!」
作業服の男が、枯れた声で悲鳴をあげた。
錯乱した男を、抑えてから。
何とか事情を聞こうとするが、その必要はなかった…
何故なら、通路のむこうにて…
元凶たる光景が、彼らを待ち受けていたから。
謎の液体…「緑色の液体」が広がり。
床も壁も、天井すらも。
ドンヨリとした、緑一色に染まり上がっていた。
空気自体が、腐敗しており。
人間の形をした「化物たち」が、ハイエナの如く…
兵士やスタッフの人肉を貪る。
「なんだよ…コイツらは」
化物(感染者)の人数は、10人ほど。
危機を察して、ロングソード(武器)を抜くと。
同志の姿をした怪物に、刃をむけた…
「仲間をやるかよ。くそ」
「バカ言え。人を食う身内など知らん」
むこうは10人、こちらは二人。
数的には不利でも…
相手はトロい…ゆえに、どうにかなるかも?
そんな、安易な考えが、過ぎった矢先。
喰われていた死体が、ピクリと動きだし。
生気の欠けた、「糸人形」のように起き上がってきた。
次々と動きだす死体ども。
その数は20人、30人と桁を増し。
通路全体が、化物の群れに、埋め尽くされた。
化物の群れは、暴君の如く突進してくる。
この圧力に押され、二人は逃げようとするが。
さっきまでの鈍重さが、ウソかのように。
怪物(感染者)たちは猛ダッシュ…
手足を拘束され、アッサリと捕まってしまった。
唯一の武器、ロングソードが手から落ち。
残酷で生々しい処刑がはじまる。
「うわあああああああああああ」
二人の手足が、無残に引裂かれてゆき。
赤い肉片が、壁にはりついた。
化物たちは、新しい「餌」に夢中。
ゆえに、雑魚(作業服の男)など、眼中にないらしい。
狂気の手から逃れた男は。
ゴキブリのように、コソコソと床を這いずる。
男の体は、もう限界であり。
ゲホゲホ…と、緑色の液体を、嘔吐しながら力尽きた。
「ああ…シュタハスよ」
そして…
緑色に染まった手を、祈るように合わせ。
彼(作業服の男)もまた…動かなくなった。