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77話・近くにいたのに…気づかなかった


 薄れゆく意識のなか、ヘルス博士は、ヨレヨレと歩く。


もう既に、この洞窟(収容所)は、崩壊寸前…

今にでも、落石してきそうだ。


博士は、ゴツゴツした壁に、もたれながら…一歩ずつ進む。

そう進んでゆく内に、ポツンと一つ、オレンジの灯りが輝いた。


その光りこそ、まさしく洞窟の出口、差し出された救いの手。


 ようやく、出口に辿り着いたとき。

ヘルツ博士の「古い記憶」が、蘇ってきた。


真っ白な髪に、二本のアホ毛…そして「黄金の瞳」。

彼女は「ふぅ」と、小さく呟くと。

どこか遠い…一人の少年の手を、優しく握ってあげた。


これは、ヘルツ博士だけの、大切な思い出。

蘇りし温かさを、胸に抱きながら、博士は手を伸ばした。


「37号…いや」

ボンヤリとした視線のまま、洞窟の外へ。

そして、オレンジの夕焼けが、博士を照らしてくる。


「シュタハス…よ。」

 ヘルツ博士は、顔を上げて、外の空気を吸うと。


「こんなにも、近くに…いらしたのですね」と、天を仰いだ。


 だが、彼(ヘルツ博士)を待っていたのは、シュタハスでは無く。

巨大な水晶の塊…水の巨人であった。


水の巨人は、博士の到着を、待ち望んでいたかのように。

ちっぽけな男(ヘルツ博士)を、じっと睨んでいた。


ここで博士は、巨人の手に、あるモノに気づいた。

その手の中で、白髪の少女が、囚われており…


彼女が、いいや…シュタハスが、奪われた事に。

ヘルツ博士の表情に、怒りが浮かび上がった。


 だが、この瞬間。

水の巨人の動きが、化けるように荒れてゆき。


巨体の動きが一変、さっきまでの鈍重さが消え去り。

山のような拳で、俊敏な、右ストレートを繰り出した。


その凄まじき一撃は、音さえも吹き飛ばし、空間をも歪ませてゆく。


そして、鼻の先にまで、巨人の拳が迫ったとき。

ハルツ博士は、恨めしそうに叫んだ。


「ヒュ、ドォオオオオオーーール!!」


巨人のパンチは、収容所そのものを、一瞬にて吹き飛ばし。


 その衝撃によって。

責任者のヘルツ博士は、ミンチ(肉片)と化し…

惨めにも、土の中へ消えていった。


これこそが、水の巨人の力…


 ポッカリと、えぐれた大地を、目の当たりにし。

モンスターも人間も皆、恐怖に身を震わせる。


そして巨人は、シュタハスを捕らえたまま。

山のような体を反転し「北の方角」へ去っていく。


 遠ざかる、水晶の背中を。

モンスターたちは、指を咥え、見送ることしか出来ない。


ゴブリンのレ二ズが、巨人の方角を見て、声を荒げた。


「アイツ…『研究所』に、往くつもりか?!」



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