72話・出るときも…クモの背中で
洞窟の天井は、今にでも、崩落してきそうだ。
これは、今…起きている地震は。
一体、何なのか?
ドスゥン、ドスゥン、ドスゥン、と。
一定のテンポで連なる地震音…これは、自然のモノと言うより。
まるで「足音」と、表した方が、近いのかもしれない。
不気味な想像が、勝手に膨れ上がり。
走るアントスの額に、生温い汗が流れた。
全力で駆けながら、背後の少女にも気を掛ける。
白髪の少女も、トテトテと、走っているのだが。
小柄な体格相当に、そこまで速くない。
このままじゃ、二人とも生き埋めだ!
そう心配した矢先、少女が躓き、転んでしまった。
「わァ!ぅッ」
彼女は、驚いたように、声をあげると。
岩だらけの地面に、顔面から突っこんでゆく
少女が転んで、大きな焦りが、アントスに迫ってくる。
こうなったら、彼女を抱えて走るしか!
緊迫した状況の中。
アントスは、少女の細い腕を掴むと。
強引に、進もうとするのだが、もうその必要はなかった。
「只今、お迎えに、参りました」
巨大クモのワイズが、天井から、降りてきたからだ。
白髪の少女は、ぶつけた鼻を、おさえながら。
巨大な怪物へ、ニコリと笑ってみせた。
「おつかれ…ワイズ」
まるで友達のように、話しかけているが。
ワイズの方は、緊張したように、ずっと頭を垂れていた。
少女は手際よく、ワイズの背に跨ると。
その小さな手を、アントスに差し伸べてくる。
「踏み出さなきゃ…変わらないよ?」
彼女の言葉は、どこか浮世離れしており。
凡人のアントスには、よく理解できなかった。
だが、その黄金の瞳に…
一切の悪性すら、感じられなかった。
ゆえに、アントスも、彼女の後に続いてゆく。
アントスは再び、巨大クモ(ワイズ)の背にしがみつく。
二人(少女とアントス)の騎乗を確認してから。
ワイズは、発進するべく、助走をつける。
ドッ!
一気に景色が移り変わり、尖った風が肌を叩く。
この風は、アントスにとって二度目、だが…
慣れるには難しく、相変わらず、全身を力んでしまう。
対象的に、白髪の少女は、余裕があって。
手慣れた様子で、ワイズを乗りこなしていた。
やがて、オレンジ色の灯りが現れて。
待ち望んだ「ゴール」を、ハッキリと目視した。
そして、洞窟の出口…夕焼けの外へ。
ワイズは、二人を乗せ、飛び出してゆく。




