71話・ノドの傷
この災害(巨人)を、ここで…止めてみせる!
彼の強い意志に、天が同調してゆき。
グニャリと、夕焼けの空が、曲がっていった。
そして…大気を裂くかのように。
巨大な隕石が、豪雨のごとく、落下してくる。
一つ一つの隕石が、激しい業火に覆われ。
まるで、太陽そのものが、落ちてきているみたいだ。
隕石の猛攻が、巨人に襲いかかってゆき。
全ての隕石が、標的(水の巨人)に直撃する。
もし、この隕石を、たった一つでも、外したならば。
森そのものが、吹き飛んでしまうが。
流石は、最強のドラゴン。
すべての隕石を的確に、ターゲットに命中させている。
だが、こんなに、攻撃を畳みかけても。
水の巨人は、ビクともせず。
水晶の巨体には、掠り傷一つもなかった。
巨人の眼球は、透き通る水晶で。
異なる個所を見据えており、フラムの存在にすら、気づいていない。
歩く、歩く、水の巨人は歩く。
その圧倒的な存在に…
破壊と烈火の主である彼が、恐怖を感じてしまう。
そんな弱気を払うように、自分自身に喝を入れる。
「ここで、下がったら!」
「誰がッ、コイツを止めるんだッ!!」
フラムは、限界まで口を開くと。
地獄の業火を、腹の奥底から貯蓄してゆく。
一枚一枚の鱗に、何万度もの高熱が連動して。
フラムの全身が、紅の閃光に包まれる。
そして、溜まりに、溜まった業火が。
腹の底から、喉元へと、一気に昇りつめてゆく。
業火の名は、制裁の火。
かつて、世界を焼いた、烈火の裁き…
だが、しかし…
その業火が、姿を現すことはなかった。
フラムの喉に、激痛が走って、技が中断したからだ。
「ぐぅあッ」
張り裂けそうな痛みに、呻くフラム。
彼自身、激痛の正体を、理解してはいた。
それは、首元にある「深い傷口」が原因であり。
首元の鱗が、激しく損失しており。
皆無に等しいほど、耐久性が、低下していたのだ。
ゆえに、大技を使おうにも、支障が発生して…
何度、口を開いたって。
出てくるのは、出てくるのは、カスのような煙ばかり。
「くそ!グラス、どうして…」
『グラス』というのは、誰かの名か?
それはそうと、制裁の火は、二度と現れることなく。
破壊と烈火のドラゴンは…
たった一歩ですら。
水の巨人を、止められなかった。
水の巨人は、深淵洞窟の手前まで、接近してきて。
洞窟に群がる有象無象を、水晶の眼で捉えた。




