70話・烈火のドラゴンと水の巨人
大きな足音が、森そのものを揺るがし。
皆の恐怖心を、ジワジワと煽ってくる。
畏怖して騒ぐ、兵士たち(人間)。
それを何とか、モンスターたちが、落ち着かせようとする。
「おちつけ、大丈夫だ」と。
オークの副隊長が、若造の兵士に、言い聞かせたり。
「後ろに、隠れてろ」と。
ゴーレムが、若者を庇ったり、など…
形は、それぞれだが。
モンスターたちは、自分なりに、敵である人類を守っていた。
モンスターに守られる…という状況が、新鮮なのか?
兵士たちは、手惑いながらも、モンスターたちの背中に隠れた。
こうしている間にも、足音のスケールが大きくなり。
レ二ズは、緊張しながらも。
ドラゴンのフラムに、現状を伝えた。
「あのお方なら…まだ、洞窟で遊んでんぜ」
そう、軽口を叩きながら、フラム(ドラゴン)に提案する。
「なあ、時間稼ぎ…ああ~」
「やっぱ、いいわ」
自ら言っておきながら、レ二ズは、その提案を前言撤回した。
だが、破壊と烈火のドラゴン…フラムは。
一切の迷いなく、はっきりと頷いてみせる。
「世界の為なら…時間稼ぎでも、喜んでやるさ」
ナイフのような眼を光らせ、大きく翼を広げた。
「それに、友の分まで、飛ばなきゃ!」
そう叫びながら、フラムは、荒々しく離陸していった。
遠ざかってゆく、ドラゴン(フラム)を見上げながら。
レ二ズは、哀れむように呟く。
「友?…モンスターが、人間の真似事かよ?」
フラムは、オレンジの空を、飛行しながら。
ようやく、地震の正体の特定に成功する。
それは「巨人」…
山のような頭が、天に達すほど、壮大なる存在。
その体は、青く透き通り、まるで巨大な水晶のよう。
形は人型で、図太い二本足。
そして、ゴツゴツした拳は、砲丸のようだった。
この巨人こそ「水の巨人」。
突如世界に現れ、頂点に君臨した、異例の存在。
水の巨人は、研究所の方角から、歩いてきて。
森にいたモンスターたちに、災害をまき散らした。
フラムは上空から、水の巨人を観察してゆく。
だが、じっくり見ずとも、巨人のルートは明らかだ。
『今、洞窟に攻められたら…全滅だッ』
内心焦りながらも、フラムは、一気に急降下をした。
ここで、止めてみせる!
世界を救うには、今!戦わねば、ならないのだから!
実のところ、翼を動かす度に。
「首元の傷」が、焼け付くように痛むが…
決して、引き下がる理由にはならない。




