6話・生物を、コロシタイ?
ブルーメンは、バスタードソードを振り上げた。
この怪物(16番)は、彼を見ていない。
今なら殺せる!
力強く迅速に、大きな刃が振り下ろされる。
この一瞬さえも…
事の動きが、スローモーションに感じて。
ゆっくり、ゆっくりと…
バスタードソードの刃が、怪物(16番)の頭を…
「切り落とす」ことは、なかった。
ゴウッ!
突然のタックルが、死角から襲いかかり。
ブルーメンを、突き飛ばしたからだ。
彼の巨体が、花壇に放られてゆく。
重鎧越しでも、その威力は尋常じゃなく。
ジリジリとした痛みが、全身に染み渡る。
突然、横槍を入れてきた奴は…
ついさっき襲われた「新米」だった。
16番に喰われた傷口が露わとなり。
そこから、緑色の体液が溢れている。
今のコイツ(新米)に正気はなく。
部下とは呼べない、そのナリ(姿)は…図体のデカい、怪物そのもの。
さっきの襲撃で。
新兵の右手と脇腹は、パックリと失っており。
そこから、蔦のような触手が、うねり出てくる。
触手は数本あって。
触手たちは、蛇のように動き。
針のように尖った尖端で、獲物を狙う。
そして、次々と…触手は、弾丸の如く飛んできて。
「くっ」
ブルーメンは、触手を避けるので精一杯。
反撃する暇さえも、与えてもらえない。
そして…
ブルーメンの右足に、激痛が襲いかかり。
その痛みによって、手をついてしまった。
脚の力が吸収されて、花壇の上へ崩れ落ちてしまう。
そう、触手の一手が、彼の膝を貫通しており。
ポッカリと開いた穴(傷口)から、乾いた空気が通り抜けてゆく。
触手の猛攻は、留まることを知らず。
対するブルーメンは、しがみつくように…
花壇を転がり、逃げる事しかできなかった。
だがこの瞬間…
触手の動きに、不規則な「ズレ」が生じていた。
そう、触手の本体(新米)が。
触手の動きに、引きずられるように…モタついていたのだ。
瞬間、ブルーメンが閃く。
触手の動作に、新米の体が、適合していない事を。
俊敏な触手と反して。
本体の生身は、脆く鈍重…
ゆえに、人体を破壊すれば、無力化できるはず!
相手の仕組みを確信して。
ブルーメンは逃げながら、一瞬のチャンスを待つ。
そして遂に、一間の勝機が輝いた。
「ボキィッ」
本体の背中から、生々しい音が響いた。
おそらく、触手の激しい動作によって。
本体の「大事な骨」が、破損(折れた)のだろう。
大きな骨折音と共に、触手の動きが沈静化…
このチャンスを、逃してはならない!
バスタードソードを放り投げて。
全ての力を、足にへと集中させた。
捨てられた刃が、花畑へと突き刺さり。
負傷した右足が、悲鳴をあげる。
だが、この隙を逃せば、もう勝機はない。
真正面から、直線的に突撃。
そして…
鉄球のような拳で、力の限りぶん殴った。
ゴォオオウ!
ブルーメンの右ストレートが、怪物の胸に練りこみ。
砲撃のような…爆発音が、花畑を揺らしてゆく。
強烈な一撃によって。
新米の半身は粉砕され、肉片がバラバラに飛び散った。
触手の残骸が散乱し、一面が緑の血に染まる。
ここまでして、やっと「一体」を撃退。
お次は、本命の16番。
だが、しかし…
もう彼には、戦う力は残されていない。
「ちっ…」
動かない自分の体に、舌打ちをする。
ここ……マデ………カ?
近づいてくる怪物(16番)をまえに、静かに断念するものの。
最後にふと、何故だか…
「イキモノヲ『コロシタイ』」と思った。
隙だらけの獲物を、16番は襲わない。
そして、ブルーメンの方はというと。
「………………」
兜のなかで、獣のように唸りながら。
ボタボタと、鎧の隙間から、緑の液体を流していた。