68話・「誰が」待って、いてくれる?
ヘルツ博士は、虚ろな視線で、白髪の少女を見おろす。
その癖毛の強い白髪に、黄金の瞳…
彼女の容姿に、博士は、独り納得してみせた。
「『どれ』かとは…予想してたけど。君だったのか!」
ナゾナゾに正解した子供のように、はしゃぎながら。
「37号」
白髪の少女を、無機質な数字で呼ぶ…
「たしかに、『あの時』。ドジったのは、ボクだし」
「あのガキが、反抗してきたし」
博士は、思いだすように、過去の出来事を並べながら。
「さあ、白き花畑に、帰るため…」
感染した手を、彼女へと伸ばしてから。
「37号!君も、生贄になりたまえ!」
この期に及んで、まだ、自分の都合を押しつけてきた。
一方、彼女(白髪の少女)は、じっと博士を見据えていた。
その視線に、哀れみはなく…全てに対して、公平であった。
「ふぅ」
鈴のような声で、一間置き。
ゆっくり、のんびりと、小さな口を開いた。
「その…白い花壇だけれど」
「誰も、貴方の『帰り』を、待っていないよ?」
よく分からない、謎の台詞だが…
どうやら、博士の精神に、突き刺さったらしく。
彼(ヘルツ博士)は、動揺しながら、唇を震わせていた。
そして、白髪の少女は。
ごく自然に、ヘルツ博士の脇を、通り過ぎてゆく。
少女と一般人が、遠ざかってゆき。
もう博士の方からは、二人の姿は見えない。
毒ガスの中、一人…
博士は、ヨレヨレと、手を伸ばした。
2/27にて
「34号」という表記を「37号」に修正しました。




