67話・本当に地震?
二人は、ガス室から脱出すると。
まっすぐに、通路の果てを、目指そうとするが。
その行く手を、ヘルツ博士が、阻んできた。
だが、毒ガスの影響により。
博士は、立っているのが、やっとらしく。
口から、緑の液体を垂らしている。
この男(ヘルツ博士)もどうやら、完全に感染しているらしく。
「感染者」の仲間入りも、時間の問題だろう。
博士は、息を荒らしながら、ヨレヨレと喋る。
「ここ(洞窟)から、脱出してもね…君らに、希望はないよ」
負け惜しみのような台詞だが。
多分、ヘルツ博士は「軍からは、逃げ切れない」と、言いたいのだろう。
確かに、兵士の数は多い。
だとしても、モンスターの群だって、劣ってはいない。
「ボクは信じる…彼ら(モンスター群)は、負けないと」
アントスも、人間側である筈なのに。
彼は、ハッキリと、モンスター側の肩を持った。
博士は、彼の意思を流しながら。
「ちがう、ちがう。そういう、意味じゃなくてねぇ」
また、別の情報を、口に出してくる。
「少し前…にさ。でっかい地震があったろ?」
ゴホッゴホッ、と緑の血を吐きながら、思い返すように喋る。
「多分、いや絶対にさ。歩いて…きてるよねェ」
博士の言う「地震」には、アントスも心当たりがある。
ほんの数十分まえ、この部屋へ繋がる、一本道を目指したとき…
確かに「ドォズン!」と。
一度だけ、地震が、洞窟全体を揺らした。
博士の台詞からすると、この「地震」に、裏があるようだが。
これ以上、この男の戯言に、付き合ってられないし。
アントスは、無視したまま、構わず素通りしてゆく。
そして、アントスの去り際にて。
ヘルツ博士は、いつもの調子で、独り言で弄んだ。
「なぁ、ヒュドールさん。歩く時は、静かにって…教わらなかった?」




