63・才能に、説明書があれば
悔しいが、博士の言うとおり。
こんな外道であっても、人を「傷つける」なんて…
アントスに、出来る筈がなかった。
風のメイスを、握る手が震えてしまう。
自分の「弱さ」が、情けない。
リピスは、アントスに、期待を寄せていた。
その期待とは、風のメイスを操る才能。
だが、ここぞと言う場面なのに。
体が反発して、その「才能」さえも、発揮できそうにない。
本当に、最後のチャンス。
これを逃せば、この先ずっと、「何も」成し遂げられないだろう。
「リピスさん…すいません、でした」
アントスは、目を伏せてから。
命を懸けてまで、バトンを繋いでくれた、リピスに謝った。
だが、この時…
幾つかの「ワード(単語)」が、次々と閃いた。
風のメイス
アントスの才能
そして、合鉄のシャッター
キーワードが、風のように流れてゆき。
一つ、たった一つだけ。
唯一の「打開策」が、アントスへと、舞い降りてきた。
決死の覚悟で、メイスを握ってから。
合鉄のシャッターと、真正面から対峙してみせる。
「リピスさん、僕に、勇気を…貸してッ」
その高鳴る感情に、風のメイスが共鳴してゆき。
巨大な豪風が、メイスから放たれた。
アントスは直感的に、確信する。
「風のメイス」を、扱えると…
この豹変には、さすがのヘルツ博士も、驚いでいる様子。
だが、彼(ヘルツ博士)が、最も動揺したのは。
アントスが、メイスを構えて、シャッターに向かっていることだ。
「も、もしかして…」
博士に構わず、アントスは、風のメイスを振り下ろした。
「シャッターを、ぶち破るつもりか!」
そう、博士の叫び通り。
アントスの選択とは…
合鉄のシャッターを「破壊する」という、力技であった。




