62話・モブは消費物
一直線の道は、そこまで長くは無かった。
アントスは、道の突き当りまで、走り抜けてから。
とある人影に気づき、足を止めた。
その相手は、ヘルツ博士…
どうやら、アントスの到着を、待っていたらしい。
アントスのガスマスクを見て、博士が鼻で笑う。
「ヒーローごっこにしては、用心深いんだね…」
そして、アントスの目的を、見透かすように挑発してきた。
「この先はね。君のような雑魚は、お断りなんだよ」
博士の挑発を、まともに受けてはならない。
アントスは、博士の後ろにある、合鉄のシャッターへ視線を移す。
「二人とも、その奥にいるのか?」
「だったら?」
質問に質問で返し、話をたぶらかす博士。
毒ガスを使うなら…
この如何にも頑丈な、合鉄の扉こそ、最も怪しい。
それに、ここまで頑丈な作りなら、十二分にガスの効果を発揮できる。
きっと今頃、あの二人(少年と黒頭巾の少女)は。
毒ガスによって、もがき苦しんでいるだろう。
ならば、グズグズしていられない。
アントスは、博士を無視して、合鉄のシャッターに触れてみる。
よく出来た、鉄壁の壁…
当然、取手などと言う、都合の良いモノはなく。
その代りに、機械が一台、真横に設置されていた。
この機械には、「操作パネル」が備わっており。
パネルの標識には、1~9までの数字が並んでいた。
どうやら、数字入力によって、シャッターが起動するらしい。
アントスは、数字を闇雲に入力するが。
そう都合よく、暗証番号に、引っかかってくれる訳がない。
シャッターは、一ミリすら動かず。
彼の抵抗を、ただただ嘲笑う。
『こんなことで、道草なんてっ!』
焦りが募ってゆき、嫌な汗が流れてゆく。
こうなればっ…
「番号を教えろッ、でなければ!」
アントスは、決死の表情で、ヘルツ博士に吠えてみせた。
風のメイスを握りしめ、博士を睨みつける。
そう、ヘルツ博士を脅して、暗証番号を、聞きだすつもりらしい。
だが、博士の方は、平然としたまま。
「はッ、たかがモブに、何ができる?」
「主人公の影に隠れ、消費されるだけの雑魚が…何かを、成し遂げられるとでも?」
真実の言葉で、煽りながら…
モブ(一般人)の勇気を、鼻で笑ってみせた。




